第6話 謎のカード

 三日後、郵便受けに封筒が入っていた。

 差出人名はない。

 触ってみた感じ厚みはあまりない。

 ナカツノクニ学園からのものだと思うが……。


「まさか落ちた?」


 厳正な選考を行なった結果うんたらかんたらって紙が入っているのか。

 身元チェックってそんなに厳しいの?

 などと悩んでいても意味はない。見ればわかる話だ。


「冊子に……カード?」


 封筒の中には学園のパンフレットと黒いカードが入っていた。


(パンフレットはともかくカード?)


 両面を確認するが何も書かれていない。

 大きさ、手触りはよくあるクレジットカードと大差ない。

 ますます意味がわからない。


「合格ってことで良いのか?」


 少なくとも落ちたことを示す物はない。

 流石に落とした人間にパンフレットはなかろうや。

 ペラペラとパンフレットをめくってみる。

 ナカツノクニにあるリュウと戦う組織とはとても思えない素朴な出来だ。

 ところどころ、能力やら武装やら、物騒な単語はあるものの雰囲気は明るめ。

 学生として青春を謳歌することも諦めないで良いと。

 学園長の挨拶でも、そこら辺に触れている。

 やはり、暴力装置として見られやすいのだろうか。

 ……リュウと戦うのだから当然だわな。


「和気藹々としたアットホームな環境で、クラスメイト達とって……逆に怖いよ」


 彩菜しか知らないが、和気藹々とするタイプには見えない。

 殺伐としているとまでは思わないが……。


「まあ、どっちでも良いけどさ」


 俺の目的はリュウを知ること。

 クラスメイトとの交流は二の次なのだから。

 仲良くなれたらより良いよねって感じ。


「それより、いつから通えば良いんだ? そもそも、どうやって行けと」


 ナカツノクニとは人の世界とリュウノクニの間に位置するらしい。

 当然ながら、この間まで存在すら知らなかった俺は行き方など知らない。

 彩菜は近々学園から連絡があるからと言っていたが……。

 届いたのは明らかに足りない資料。


「ふーむ、何かあるとすればカードだよなあ」


 透かすものかもと光に当ても意味はない。

 ならばと振ってみるが細やかな風が起こるだけ。

 メンコのように叩きつけてやろうかと思ったが、最後の手段に取っておく。


「おりゃ!」


 人差し指と中指で挟み、投擲。

 勢いよく飛んだカードはカーテンに当たり、床に落ちる。


「困った」


 早くも万策尽きた。


「ナカツノクニに辿り着くのが試験なのか?」


 言ってみてその可能性はあるなと考える。

 リュウやそれらにまつわる物はわかる人にはわかり、わからない人には触れることすらできない。


「パンフレットにヒントでも」


 改めてじっくりと読んでみる。

 ……が、怪しい部分はない。


「まさか、何か書いてるのか?」


 黒いカードを凝視する。

 どちらが表かわからないので両面くまなく観察する。


「……ダメだ。全然わからん」


 徒労感に背を床に預ける。

 説明が足りないよ、説明が。

 雰囲気でやるには難しすぎる。それとも、これぐらいできなければ適正はないってことか?


「ちくしょう」


 体を起こす。

 他のことならいざしらず、投げ出したくない。

 胸に灯る情熱は抑えきれない。

 何が駆り立てるのか。何に惹かれたのか。

 言葉にならないまま、気持ちだけが急く。


「関係あるとしたら能力、だよな」


 彩菜が使っていた“炎”を思い出す。

 彼女に相応しい紅の業火。

 炎の柱を出す時、彩菜は目を閉じ、精神を集中させていた。

 机の上に置いたカードに手を添え、目を閉じ、ゆっくりと呼吸する。


 ーー感じる。


 手のひらに熱を感じる。

 熱は鼓動するかのようにリズムを刻み、淡く、強く、響いている。


(そうか……)


 生きてるんだ。

 力は、荒れ狂う風であり、穏やかに揺蕩う波。

 呼吸を合わせる。優しく、強く、心音を重ねるかのように。


「っ!」


 波長が一つになった時、漆黒のカードは強く輝き、白銀のカードへと姿を変えた。

 光沢を放つ白に口元が自然と緩むのがわかる。

 そして、


「何も書いてないのかよー!」


 行き場のない怒りを宙へと放つのであった。

 

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