第25話 消えたレシピの謎 ④
香織と涼介は、北村のアドバイスを受けて再び調査を進めることにした。彼らはレストランの関係者全員のアリバイと動機を徹底的に洗い出すために、次々とインタビューを行った。
まずは、レストランのライバル店のシェフ、斉藤達也を訪ねた。彼は最近、シーフード・ハーバーと競り合うように新メニューを発表しており、そのためにレシピを盗む動機があるのではないかと疑われていた。
「斉藤さん、昨晩の夜はどこにいましたか?」涼介が問いかけると、斉藤は少し不機嫌そうに答えた。
「昨晩は、自分の店で新メニューの試作をしていました。何か問題でも?」
「そうですか。何か証拠になるものはありますか?」香織が尋ねる。
斉藤はため息をつきながら、「店のスタッフが証言してくれるでしょう。私が他人のレシピを盗む必要はありません」と答えた。
次に、香織と涼介は再びシーフード・ハーバーに戻り、石黒美咲と再度話をすることにした。彼女は事件発生時にレストランにいたため、何か重要な情報を持っているかもしれない。
「美咲さん、もう一度お話を伺いたいのですが、昨晩のことをもう少し詳しく教えていただけますか?」香織が尋ねると、美咲は少し緊張した様子で答えた。
「もちろんです。昨晩は、デザートの仕込みをしていました。藤井さんが来て、田中シェフと話をしているのを見ましたが、それ以外は特に変わったことはありませんでした」
「藤井さんと田中さんの会話を少しでも聞いていましたか?」涼介が続けて質問した。
「部分的には…藤井さんが昔話をしているようでしたが、詳しい内容は聞き取れませんでした。ただ、少し感情的になっているように見えました」
この情報を基に、香織と涼介は次に藤井浩二を訪ねることにした。藤井は田中の昔の親友であり、最近は疎遠になっていた。彼がレシピを盗んだのではないかと疑われていた。
藤井のアパートに到着すると、彼は意外にも落ち着いた表情で二人を迎えた。「香織さん、涼介さん、どうぞお入りください。何か聞きたいことがあるのですね?」
香織は冷静に話を切り出した。「藤井さん、昨晩の夜、シーフード・ハーバーにいたことを確認しています。何を話していたのか教えていただけますか?」
藤井は深いため息をつき、「田中とは昔からの友人です。昨晩は、久しぶりに会って昔話をしていただけです。彼の成功を喜んでいますが、少し嫉妬していたのも事実です。でも、レシピを盗むなんてことはしていません」
「藤井さん、何か証拠になるものはありますか?」涼介が問い詰めるように尋ねる。
藤井は少し戸惑いながらも、「家に戻った後、ずっとここにいました。特に証拠になるものはありませんが…」と言い淀んだ。
二人は藤井の言葉に疑念を抱きつつも、一旦アパートを後にした。帰り道で香織が言った。「彼の言葉には矛盾がないけれど、何か隠している気がするわ」
涼介も同意した。「そうだね。次はシーフード・ハーバーに戻って、美咲さんと藤井さんの証言を照らし合わせてみる必要がある」
シーフード・ハーバーに戻ると、香織は再度美咲に会い、昨晩のことをさらに詳しく聞いた。「美咲さん、藤井さんが田中シェフと感情的な会話をしていたと言いましたが、具体的にはどんな内容でしたか?」
美咲は少し思い出すようにして、「ええ、確かに『あの時の約束を忘れていないか?』とか、『お前の成功は俺のおかげでもある』というようなことを言っていた気がします」と答えた。
香織と涼介はこの情報を基に、再度藤井を訪ねることに決めた。彼の動機と行動をさらに追求することで、事件の真相に迫れるはずだ。
藤井のアパートに戻った二人は、ドアを叩いた。「藤井さん、もう一度お話を聞かせてください」
藤井は再びドアを開け、二人を迎え入れた。「また来たのですか?」
香織は直球を投げた。「藤井さん、あなたは昨晩、田中シェフに何か感情的な話をしていたと証言があります。『あの時の約束』とは何のことですか?」
藤井の顔に驚きと戸惑いが浮かんだ。「それは…昔、田中と一緒にレストランを開くという夢の話です。でも、彼は成功し、私は置いてけぼりにされた。それが悔しかった。でも、だからと言ってレシピを盗むなんて…」
香織はその言葉を聞きながら、藤井の目をじっと見つめた。「藤井さん、正直に話してください。私たちは真実を知りたいだけです」
藤井はしばらく黙っていたが、やがて深い溜め息をついて話し始めた。「実は、レシピをコピーしようとしたんです。でも、罪悪感に襲われて途中でやめました。それで、破り捨てた紙片がゴミ箱に…」
香織と涼介は顔を見合わせた。藤井の告白により、真実が明らかになりつつあった。彼らは再びシーフード・ハーバーに戻り、田中と結衣に報告する準備を整えた。
事件は解決に向かって大きく動き出した。藤井の動機と行動が明らかになり、香織と涼介は彼をどう説得し、和解させるかを考え始めた。
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