第13話 ラーメン戦争 ①

門司港の夕暮れ時、穏やかな風が海を渡り、古びたレンガ造りの建物が黄金色に輝く。観光客で賑わうこの街には、地元で評判の高いラーメン店「太平洋ラーメン」があった。店主の橘義太郎は、新作メニュー「胡椒の効いた醤油豚骨ラーメン」の発表を控え、緊張と興奮が入り混じった表情を浮かべていた。


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その日、店内には特別なゲストが訪れていた。全国ネットの人気情報番組のリポーター、藤原理香だ。彼女は美貌と知性を兼ね備えたジャーナリストで、多くの視聴者から支持を受けている。理香は、新作ラーメンの取材をするために門司港まで足を運んだのだった。


理香が「太平洋ラーメン」に到着した際、店の外にはファンたちが集まっていた。彼女が登場すると、歓声が上がり、サインや写真を求める声が飛び交った。


「藤原さん、大ファンです!サインをお願いします!」と一人の女性が色紙を差し出した。


「もちろんです、ありがとうございます」と理香は微笑みながらサインをし、ファン一人一人に丁寧に対応した。


その様子を見ていた橘は、理香の人気の高さに驚きを隠せなかった。「藤原さん、あなたのファンは本当に多いんですね」


「ありがとうございます。視聴者の皆さんに支えられているおかげです」と理香は謙虚に答えた。


「橘さん、新作ラーメンの開発にかけた想いを聞かせていただけますか?」と理香は明るい笑顔で質問した。


「もちろんです。これは私たちの集大成とも言える一杯です。太平洋の風味を取り入れた特別な胡椒を使って、これまでにない味を実現しました」と橘は胸を張って答えた。


カメラが回る中、理香は丁寧に新作ラーメンを試食する準備を始めた。その時、橘は突然、戸惑ったように手を擦り合わせながら理香に近づいた。


「藤原さん、あの、お願いがあるんですが…」と橘はおずおずと言った。


理香はにっこりと微笑んで応じた。「もちろんです、何でしょう?」


「実は、私も藤原さんの大ファンなんです!サインをお願いできますか?」橘はおどけたように言いながら、一枚の色紙を取り出した。


理香は驚きつつも笑いをこらえ、「もちろんですよ!」と言いながら、サインペンを手に取った。「それにしても、店主自らサインを求めてくれるなんて、光栄です。」


「ありがとうございます!」橘はまるで子供のように嬉しそうにサインを受け取り、その姿を見たスタッフたちも笑いをこらえきれなかった。


「では、早速ラーメンをいただきますね」と理香が言い、カメラに向かって微笑みながら新作ラーメンを試食した。その瞬間、彼女の表情が一変した。突然苦しみ始め、息を荒げながら倒れ込んだ。店内は一瞬にして騒然となり、橘はすぐに救急車を呼び、スタッフたちは理香の周りに集まった。


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救急車が到着し、理香は病院に運ばれたが、残念ながら彼女は帰らぬ人となった。医師は、彼女が致命的なアレルギー反応を起こしたことを確認した。事件はただの事故か、それとも何かの陰謀か、誰もが真相を知りたがっていた。


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探偵事務所「Mitamura & Fujita Detective Agency」にもそのニュースが届いた。三田村香織と藤田涼介は、この異常事態に興味を引かれ、調査を開始することを決意した。


「これはただのアレルギー反応ではなさそうね。何か裏がある気がする」と香織がつぶやいた。


「そうだね。この胡椒には何か秘密が隠されているのかもしれない」と涼介が応じた。


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こうして、門司港の美しい風景とは裏腹に、謎めいた事件の幕が上がった。香織と涼介は、真相を突き止めるために動き出した。彼らの探偵としての腕が試される新たな冒険が始まる。

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