第9話 密室の白子 ②
香織と涼介がレストラン「福寿」に到着した頃、店内は緊張した雰囲気に包まれていた。警察官たちが現場の調査を進める中、香織はシェフの田中直樹が倒れた厨房へと向かった。
「警察の捜査官に協力を仰ぎましょう」と涼介が言い、二人は現場責任者の捜査官に話しかけた。
「こんにちは、三田村香織と申します。こちらは私のパートナー、藤田涼介です。私たちは探偵事務所を運営しており、この事件について少しお話を伺いたいのですが」と香織が丁寧に説明した。
捜査官は一瞬警戒するような表情を見せたが、やがて頷いた。「私たちもまだ手がかりが少ない状況です。協力していただけるのであれば、歓迎します。シェフの田中直樹さんは、今朝、厨房で倒れていました。死因は毒物によるものと考えられています。」
香織と涼介は捜査官の案内で、現場の厨房に入った。そこには倒れた直樹の調理道具や材料が散乱しており、未完成の料理がそのまま残されていた。
「この特製タレが事件の鍵を握っているかもしれません」と涼介がつぶやいた。「ここにあった調味料の瓶を調べてみましょう。」
涼介は調味料の瓶を手に取り、注意深く観察した。「特製タレには、通常の調味料に見せかけたものが含まれている可能性があります。」
「では、まずはスタッフ全員に事情を聞いてみましょう」と香織が提案し、二人は聞き込みを始めた。
レストランのスタッフたちは皆、ショックを受けている様子だった。彼らは直樹の人柄について語り、彼がいかに優れたシェフであり、同僚たちからも信頼されていたかを話してくれた。しかし、経営の共同責任者である藤井達也だけは、どこか影のある表情をしていた。
「藤井さん、直樹さんとはどのような関係だったのですか?」と香織が問いかけると、藤井はしばらく黙り込んでから答えた。
「直樹とは長い付き合いでしたが、最近は経営方針の違いで意見が対立していました。彼の料理へのこだわりが強すぎると感じることもありました…」
藤井の言葉に、香織と涼介は何かを感じ取った。「経営方針の違いがあったとのことですが、それが原因で何かトラブルがあったのですか?」と涼介が続けて尋ねた。
「いや、特に大きなトラブルは…」藤井は言葉を濁した。
その後、二人は厨房の状況をさらに詳しく調べた。涼介は、特製タレに使われた調味料の一つが、通常のものとは異なる点に気づいた。
「この調味料、どうやら特別な成分が含まれているようです。もしかすると、この中に毒物が…」涼介がつぶやいた。
厨房のドアは内側から鍵がかかっており、誰も出入りできない状況だった。窓も全て閉め切られていたため、犯人がどのようにして毒を仕込んだのかは謎のままだった。
「犯人はこの密室状態を利用して、誰にも気づかれずに毒を混入させたに違いないわ」と香織が言った。
「そうだね。だけど、どうやって毒を混入させたのかがまだ分からない。もっと詳しく調べる必要があるね」と涼介が応じた。
香織と涼介は、この複雑な密室トリックの謎を解明するために、更なる手がかりを求めて調査を続けることを決意した。門司港の美しい風景とは対照的に、彼らの前にはまだ多くの謎が待ち受けているのだった。
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