19

 警視総監からの任務――


 それは、過激派組織の討伐だった。

 警察内部にいた親東日本派が徒党をくんで、テロをおこそうとしているらしい。

 そのまえに我ら佩刀課がなんやかんやするわけだ。


 それにしても……「警察のなかにもそういうひとっているんですね」

 パソコンの画面に目をおとしながら、木梨田にいった。


 任務におもむいたのはブリッツと千瀬さんとホムラだけだった。私と木梨田は和室でお留守番だ。


「うん、いまなんていったん?」木梨田は首をかしげる。

「警察のなかにもテロリストみたいなのがいるんですね」

「まぁ、警察やからやろ」

 木梨田の視線もパソコンの画面へいった。


 ――サビれたトタン板にかこまれた、工場の廃墟。

 画面には、千瀬さんの胸についたカメラの映像が中継されていた。


「警察のほうがそういうのにふれる機会がおおいけい。そまりやすいんよ」

「そういうものなんですか?」

「そういうもんや」


 画面のなか――工場内にはいった千瀬さんたちのまえに、あやしい集団があらわれた。

 制服をきた女たちで、その手に巡査サーベルがにぎられている。うしろにはいくつものスーツケースがおかれていた。


「ありゃ、爆弾やなぁ」

 木梨田がスーツケースを指さした。


「あの量やったらビルの四、五棟はかんたんにふっとばせるなぁ」

「四、五棟も……!」

 想像以上に大規模なモノだったらしい。


『何者だ貴様らぁ!』

 画面の女たちが、こちらへどなりつけてきた。どうやら、千瀬さんたちを威嚇しているみたいだ。


『いくぞーみんな。ブリッツと私で雑魚をやるから、ホムラは爆弾をたのんだー』

 千瀬さんの指示にブリッツとホムラがうなずいた瞬間、三人は警察たちにつっこんだ。


『天然理心流・車輪剣』

 ブリッツと千瀬さんが敵をきりはらっていき、そのすきにホムラが爆弾の回収をおこなっている。

「……この三人、つよいですね」

 おもわず、つぶやいた。


「そりゃそうじゃけえ、ブリッツはもとイペタムやし」

「それはしっています」

 木梨田はおどろいた顔をしたあと、ごまかすようにせきばらいをする。


「いつのまにか博識になりおってに」

「博識ってほどじゃないですよ」

「まぁ、うちらはなけっきょくんとこ、そういうののあつまりなんや」

 木梨田はためいきをついて、視線を画面にもどした。


「そういうのってことは、木梨田さんも?」

「あぁ、うちもホムラも東の工作員の子どもや」


 そういえば、東日本の工作員は家族をよそおってこの国にはいってくるらしい。

 なんでもひとり身よりも家族のほうがあやしまれないとかなんとか。

 ニュース番組でみた。


「工作員はつかまると牢へぶちこまれるだけやけど、身寄りのないうちらは軍部でそだてられて、西の工作員にさせられるけい」

「……そうなんですか」

「で、そのなかでもできのわるいんヤツはうちらみたいなところへおくられるんや」


 国のしられざる暗黒面をきいてしまい、なんだか心がしずんでくる。


『よぉし、いくぞー』

 私の心とは真逆のあかるい声がひびいてきた。


 画面のむこうでは千瀬さんが敵たちを相手にたちまわりをつづけている。


『示現流・一ニ(ひふ)の太刀』

 千瀬さんの刀が相手をまっぷたつにした。ドサッと死体が地面にくずれる。

 うぅ……人間を一刀両断って、まじかよ。おもわずはきそうになった。


 もちろん画面のさきはそのことをしらないようで、たたかいがつづいていた。


『ああああ!』

 警察のひとりが、きりかかってくる。

 千瀬さんは『アー』とおおきく口をひらき『ウン』ととじると、

『鹿島神傳直心影流・八相発破』

 相手に刀をうちつけた。


「なんか、千瀬さんっていろんな流派の技をつかうんですね……」

「それは、あんさんもやろ」

「えっ?」

「ほら、あんさんがやっていた剣道。あれもいろんな流派のごった煮やけい」

 まぁ、たしかに、そうなのだが……。


「千瀬がつかとっるんは、日本剣道のさきがけ――警視流や」

 警視流、きいたことがある。

 たしか戦前の警視庁で制定された流派で、さまざまな流派の技で構成されているという。


「じゃあ千瀬さんって生粋の警察官ってわけですか」

「うん、そうやないけど」

 すぐに否定された。


「千瀬はああみえて、もともと近衛部隊だったんや」

「近衛部隊!?」言葉のおもみにかるく混乱する。

 近衛部隊といえば、エリート中のエリート。

 閣下を護衛する組織であり、その実力はおりがみつき。


「くわしいことはわからんけど、近衛部隊から天下りしてこの警視庁にきたらしいで」

「そ……そうなんですか」

 エリートとか天下りとか、それからほどとおい私にとって想像できるものではない。


『おらおらー』

 そうこうしているうちに、千瀬さんの刀がどんどん敵をきりすてている。そのさきではホムラが爆弾の回収をおえていた。


『おわったよ』

『こっちもだー』

 敵は全員たおれてしまい、千瀬さんがカメラにむかって手をふっていた。どうやら任務は無事に完了したらしい。


「さて、目もチカチカしてきたけい。うちらもおわりにしよか」

 木梨田はそういって、パソコンをとじた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る