第7話 音撫 四狼は寡黙である

今宵も「Hell’s Gatekeepers」のサバトが開幕する。踊り狂う「華」たち。その狂乱の舞台の中、クールに演奏するベーシスト、音撫おとなで 四狼しろうがいた。ステージネームは「ロウ」。彼は周りのメンバーに負けず劣らずのイケメンで、目は鋭く色白で高身長。その存在感は圧倒的だ。


ロウの演奏は、かなりの腕前で知られている。基本的にはクールなフレーズで楽曲を支えているが、曲に合わせてアグレッシブなパフォーマンスもこなす。彼のベースラインは、バンドの曲に深みと迫力を与える。その寡黙な性格から、普段は近寄りがたいオーラを放っているが、ステージ上では一転してその魅力を存分に発揮する。


しかし、そんな彼にも日常がある。サバトの熱狂から離れ、四狼の普通の日々が静かに始まる。彼の背後には、常にその冷静さとミステリアスさが漂っているが、その内面には何を思い、何を感じているのか――。


「ロウさん、お疲れ様でした」ライブが終わり、スタッフが声をかける。

「ブツブツブツ…」とロウは軽く頷き、ベースをケースに収める。その動作はどこか儀式のようであり、彼の集中力がうかがえる。


「今日のサバトも最高だったでやんすね」と龍之介が言いながら近寄ってくる。

「ブツブツブツ…」と、ロウは黙って微笑み返すだけだ。その姿は、舞台上のカリスマとはまた違う一面を見せている。


彼が何を考え、どのような未来を見据えているのか。そのすべてが、彼のベースの音色に込められているのかもしれない。


四狼の部屋に朝日が差し込み、彼はまだ眠気が冷めない様子で気怠くベッドから起き上がる。彼はゆっくりと朝食の準備を始める。トーストにコーヒーが彼の定番の朝食だ。クールな彼が選ぶコーヒーは当然ブラック…と思いきや、実は砂糖三杯にミルクをたっぷり入れた甘めのカフェオレ。トーストには苺ジャムを塗る。そう、彼は大の甘党なのだ。


テレビの電源を入れると、クールにニュースを見ると思いきや、彼が選ぶのはヒーロー戦隊ものの番組。「ブツブツブツ…」とテレビを見ながら呟く四狼。ギュッと拳を握り番組を視聴する、その熱い眼差しは真剣そのものだ。


次に、いそいそと何かを作り始め、飼っている九官鳥に餌を与える。「ブツブツブツ…」と再び呟く。どうやら九官鳥に話しかけているらしい。基本的に無表情だからわかりにくいが、口元が緩んでいるようにも見える。


「ブツブツブツ…」と九官鳥に話しかけ続ける四狼。その声をもう少しよく聞いてみると、彼の言葉が明らかになる。


「おはよう。キューちゃん。今日もベリーベリー可愛いですね。僕は毎日君に癒されるよ。その嘴。そのキュートな目。こんなに話しかけているのに君はなぜ喋らないんだい?僕はとっても寂しいよ」


そう、四狼は実は寡黙ではなく、かなりのお喋りなのだ。ただし、声が極端に小さいために他人には聞こえないだけ。彼の静かな部屋で、九官鳥に向かって話しかけるその姿は、バンドのクールなベーシストとはまるで別人のようだ。



四狼は街へと繰り出す。高身長で色白の肌、鋭い眼差し。かなりのイケメンなので、女性たちの視線が自然と彼を追う。だが、四狼はそんな視線に気づくこともなく、お気に入りのスイーツ屋さんへ向かっていた。


彼には挑戦していることがある。そう、注文だ。店に入るとすぐにカウンターへ進む。


「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」と店員さんが優しく声をかける。


「ブツブツブツ…」四狼は注文を始める。しかし、その声はあまりにも小さく、店員さんには伝わらない。


「あの…ご注文はお決まりでしょうか?」と再び尋ねられる。


もう一度試みる四狼。「苺フラペチーノのラージサイズ、トッピングにソフトクリームのせ、チョコチップも追加で、あと苺ショートケーキを下さい」ヨシ、今度はちゃんと言えた、と小さくガッツポーズをする四狼。


だが、残念ながら店員さんにはその声は届かなかった。「あの…お客様、ご注文は…」その言葉に、四狼はサッとメニュー表のコーヒーを指で示す。「あ、アイスカフェオレのMサイズですね」と店員さんは理解する。今回もまた、四狼の苺フラペチーノのスペシャルトッピングの注文は店員さんに伝わらなかった。しぶしぶカフェオレを飲む四狼。その顔には少しの寂しさが漂っていた。

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