上履き
影神
友情への憧れ?
「今日はよろしく」
「今日の為に腹空かして来たから」
「怪我だけは気を付けてくれ」
「うい。」
友達が引っ越す。
今日はそれの荷物運びだ。
といっても、そんなに大きな物は運ばない。
冷蔵庫、洗濯機、その他の重い物は、
ちゃんとした業者が後から来る。
俺はそれ以外の荷物を運ぶ。
引っ越しの理由は、、
それは。
「聞かないでやってくれ、」
友達「何、独り言いってんだよ。
ほい。」
「重っ。」
友達「階段。気を付けてな?」
「はーい。」
俺の待機場所は玄関の外だ。
そこから階段を下り自分の車へと積む。
ある程度積んだら、友達から新しい家の鍵を借り。
新しい家の中に積んだ荷物を降ろす。
「こんにちは?」
「こんにちは。」
ここの住人だろうか。
俺は知らない人に挨拶をする。
友達がこれから住むのに、
悪い印象を与えるのは賢いとは言えない。
ガチャ、
今回は一階だ。
「、、広いな。」
声が響く。
何も無いその解放感からか余計に広く感じられる。
「よいしょっ。」
そんな場所に、申し訳なさそうに。
段ボールは詰まれている。
「なかなか。」
味がある。と言った所だろうか、、
遊んで居る暇は無い。
次は友達を乗せて下ろして、、
そうして何回か行き来して。
「終わったぁ、」
友達「お疲れ様?」
「そっちも。お疲れ様、」
友達「飯。行くか笑?」
「今日は無理笑。」
想像以上に疲れた。
「忘れ物が無いかだけ見るわ。」
友達「あぁ。」
一見無さそうに見えるが。
座席の下を見た時。靴があった。
「あったぞ。」
友達「何だこりゃ。」
それは学校指定の上履きみたいだった。
友達「俺のじゃねんじゃねん??」
「俺に子供は居ねえぞ笑?」
友達「"アイツ"のかな。」
「まだ整理してなかったのかい。」
友達「たまに紛れてる。」
「そっかい。
じゃあ、次。楽しみにしてるわ?」
友達「あい。
ありがとうな?」
「はーい。」
次の日の早朝。
友達から電話が掛かって来た。
「あの上履き。ヤバい、、」
その日は仕事があった。
だけど異様なその声に寝間着のまま家を出た。
「どっちの家?」
友達「古い方。」
家に着くと友達は階段の一番下に居た。
「どうした?」
明るくなり始めた朝の訪れは、
少し湿度を持っていて、肌寒かった。
その環境が友達の顔に影を落とした。
「とりあえず、中に入るべ」
友達「ぅん、。」
友達の手にある上履き。
その上履きが誰の物なのか。
それをこれから知る事になる。
「何飲む?」
まるで自分の家かの様に棚を開けるが、
そこには何も入って無かった。
「自販機行ってくるわ。」
自販機は直ぐ近くにあった。
項垂れている友達を無理に連れて行く訳にもいかず、
心配だった俺は階段を下りると早足で買いに行った。
最悪このパターンは【バッドエンド】フラグだ。
「、っほら。」
友達「ありがとう、」
バッドエンド回避、
「おんで。
どうした。」
プシュ、
まだ温かいコーヒーの口を開ける。
友達は缶の口が上手く開かない様だった。
「ほら。」
プシュ、
友達「わり、」
コーヒーを飲むと話が始まった。
友達「あの後直ぐに彼女に電話したんだ。
仕事か何かで繋がらなくて。
直ぐには掛かって来なかったんだけど、
折り返しで掛かって来て聞いたんだ。
そしたら"私のじゃない"って。
その態度に何か少しイラついて。
少し揉めて。
、改めて聞くけどこれ。
"お前のじゃないんだよな?"
」
「ああ。」
俺は靴を取りながら足に合わせた。
「入らねえだろ??」
友達「そうだよな、」
笑わせようとしたはずが上手くはいかなかった。
友達「んで棄てていいって話しになって。
俺はゴミ捨て場に捨てたんだ。
気持ち悪かったのと、何かイライラしてて。
酒呑んで直ぐ寝たんだ。」
床には口の開いた酒の缶があった。
友達は暫く黙ったから俺は反応した。
「うん。」
友達「、、夢を見たんだ。」
「夢?」
友達「体操着?みたいな服を来た子供が出て来て。
俺の目の前に立ってんだ。
帽子で顔が見えなくて、、
『捨てないで?』
『僕の靴。捨てないで、?』
って。」
目を開けると手には靴があったんだ。
「ホラーやん笑。」
KYぶりに。
そう分かっていても。つい、突っ込んでしまった。
友達「だよな。笑」
その顔は笑えて無かった。
「その心。笑ってるね?」
友達「笑ってるね?おい。笑える」
カーテンの無い外から入る明かりで、
携帯のディスプレイに目をやる。
「電話して来るわ。」
友達「あぁ。」
「誰か居るかな。」
プルルルル、
「はい。」
俺は会社に電話した。
「体調悪いんで休みたいんですけど。」
会社「、、分かりました。
お大事にして下さい。」
「すいません。」
ガチャ、
「糞が。
電話の切り方も知らねえのかよ。
態度わりいしよ??
こちとら【超生命体】じゃねんだわ」
友達「今日。仕事だよな、?
わりい。」
「悪くねえよ。
サボりよサボり。
今日の予定は?」
友達「引っ越しの業者が来る。」
「それだけか?」
友達「うん。」
「じゃあ神社だか寺だかに。
片っ端から電話するぞ。」
友達「わりい。」
「こういう時は。
『ありがとう』
だろ?
あの先生も言ってたじゃねえか。
『社会で会社をサボったり。直ぐ辞めたり。
そんな奴は、【クズ】呼ばわりされる。けど、
"友達を大切にしない奴はそれ以上のクズだ"』
ってな。」
友達「、、会社にとっての代わりは。
探せば幾らでも居るけど。
"お前の友達の変わりは。何処にも居ねえ、"
ってな。?」
「そういう事。
教科書じゃ教えて貰えない事。
だな?」
片っ端から連絡するが悉く粉砕。
業者が来て一人で探していると、
ようやくひとつの場所が見付かった。
車で片道1時間くらいの寺だった。
他の場所は話しすら聞かずに断ったが、
その寺だけは違った。
そうしてようやく。
俺は他の誰かに、事の経緯を話せた。
住職「靴に捨てる訳じゃない事をきちんと伝え。
友達にもそれをちゃんと伝えて実行させて下さい。
なるべく。優しく、扱ってあげて下さい。
くれぐれも。安全運転で。」
作業が終わったのが昼過ぎくらいだった。
友達「ありがとうございました、」
業者「では、失礼します!」
俺も業者に軽く頭を下げた。
「じゃあ。行きますか。
靴君。」
友達「一緒に、、行こうか。」
寺はこんな機会でも無ければ来ない様な、
街から外れた山奥にあった。
「こんな所があったんだな?」
友達「近くには来るけどな?」
草木が生い茂っていて、空気が旨かった。
石碑?みたいのが出て来て、
寺がもう少しくらいってなった時。
後部座席に座ってる友達が急に泣き始めた。
「おい。大丈夫か??」
返って来るのは友達の声のはずだが、
聞こえて来たのは子供の声だった。
「僕を捨てるの、?」
それにビックリしたが、
言葉を返さないといけない気がした。
バックミラーに映る姿は確かに友達だった。
「捨てはしないよ。
ただ。話を聞きに行くんだ。」
俺は出来るだけ優しく話した。
「君は何処から来たの?」
子供の声は答えなかった。
何かの幻術に掛かったかの様に。
人払いされてるかの様に。
外の景色には誰も居なかった。
子供の声「、、お兄ちゃん達が羨ましくって。」
「そうか。でも、、きっと。
泣いてるって事は、
君自体にも良く無いんじゃないかな?
それも含めて、聞かないと。かな。」
子供の声「捨てない、?」
「友達に害が無くて、
君にとってそれが"ベスト"なら。」
寺の敷地内に入ると入り口に住職が立っていた。
「下りようか?」
子供に語り掛けたが。その時は友達だった。
友達「何で泣いてんだ、?」
住職「いらっしゃい。」
住職は人柄の良さそうな優しい顔をしていた。
本堂に通され、俺はさっきあった事を話した。
友達「、、そんな事があったんだな。」
住職「あなたは彼が"怖い"ですか?」
対面する中心に置かれた靴を見ながら住職が話す。
友達「怖くない。と言えば嘘になります。」
住職「あなたはどうしたいですか?」
住職は俺にふった。
「俺は、、。
さっきと同じ事を言う様ですが。
友達に害が無くて。
彼にとっての現状が。
それで、良いのなら。」
友達「お前はすげえな。」
友達は弱々しく言う。
「でもきっと彼は俺じゃなくて。
お前に、分かって欲しくて。
だから。現れたんじゃないかな??」
住職「、、そうかも知れませんね。
一応私が預かる事は出来ますが。
もし宜しければ、一緒に。
過ごしてみてはいかがでしょう。
きっと悪い様にはならないと思います。
」
友達は考えて居た。
「まあ、姿。形。が、どうあれ。
要は仲良くしたいって事だろ?
良いじゃねえか。」
俺は、肩を組んだ。
友達「、、そうだな。」
住職「何かあればいつでも来て下さい。
私はいつでもこちらに居ますので。
良かったら、お菓子でも食べませんか?」
少し。世間話をした。
『ありがとうございました。』
住職はいい人だった。
「いい人で良かったな?」
辺りはすっかり暗くなっていた。
友達「いろいろすまない、
んんっ。ありがとう。な?」
「おう。」
友達「そういや。
俺達ってどうやって仲良くなったんだっけ。」
街灯のある場所でバックミラーに映る友達の顔は、
何処かスッキリした様な顔をしていた。
「急だな?
んー。どうだったかな。」
友達「
『仲良くしたい』
そう思っただけ。かね、、?」
「かもな。」
それからあの上履きは、
友達の家にインテリアとして置かれ。
たまにこうして一緒に出掛けている。
「風が気持ち良いな。」
友達「そうだな。」
その時。一瞬だけ。
バックミラーに映った。
友達の隣に大人しく座り。
楽しそうにする男の子の姿があった。
友達「そういえば。
あの後彼の夢を見たんだ。」
「何だって?」
友達「
『お兄ちゃん。一緒に居てくれてありがとう。』
だとよ。」
「後で住職ん所行かねえとな?」
友達「あぁ。
一緒に行こうな?」
上履き 影神 @kagegami
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