ゆらめくかのじょ

百乃若鶏

序章

店に入ると店員にピースをするように指を見せる。

「お二人様ですね。空いてるお席どうぞ」

店の一番奥に座ることにした僕らは水とおしぼり、メニューを運んできた店員にブレンドを二つ頼みとりあえず一服することになった。

無言でタバコを吸う。

ちょうど一本吸い終わるころに先ほど頼んだコーヒーがきた。注文、配膳の一連の流れを終えてしまえば店員に干渉されることはもうない。晴れて四人掛けのボックス席を領地に小さな2人だけの空間が出来上がる。


「では、本日はよろしくおねがいします」

僕がはにかみながら言うと彼女も少し恥ずかしそうに小さく会釈をする。

「こちらこそお願いします」

「本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございます。本日はインタビューということで取材のために会話を録音させていただくのですがよろしいですか?」

「いいですよー」

「では、次に・・・」

いつもインタビューしている要領で事前に知らせなければいけない内容を伝えようとすると彼女は片手を前に伸ばしぐるナイのSTOP札のようにした。

「こういう堅苦しいのやめない・・?」

「そうしよっか」

緊張していた僕を見かねたのか彼女はいつもような動きで、声色で、目つきでこちらを捉えてくる。少し猫みたい。そんなことを思いながら一口コーヒーを飲む。熱いけど美味しい。

「前にも話したけど"理想の恋人"について文集を出すことになって僕はインタビュー記事を任されたってのは覚えてる?」

「うん。それでよく彼女に直接インタビューしようと思うよね」

いたずらな笑みを浮かべる彼女に鼓動のテンポをずらされる。心臓が躓いたみたいなテンポを治すために一息ついて話を続ける。

「しょうがないでしょ。恋人がいるのが僕くらいしかいないんだから」

「それで、私は今からどんなことをインタビューされるの?彼氏の好きなところ?好きになった理由?どうして好きになったのかとか?」

「概ねそんな感じ。もう少し抽象的なふわっとしたやつだけどね」


ボイスレコーダーの電源を入れる。


「それじゃあ、始めるね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る