第13話 理事長室に呼ばれてしまった
「なんで私たちだけに賞が贈られるのかしら?」
音楽祭の翌日の放課後、中庭のベンチに座ってリアが独り言のように言った。
ここ最近は夜にふたりで会うようにしていたリアと俺だったが、今日は放課後に会うことにした。
そして今回はアリスとオオベも一緒だ。
今、リアはアリスと二人でベンチに座っている。
一方、俺とオオベはベンチの脇の木に寄りかかってリアとアリスの話を聞いている。
「行かなきゃいけないかしら?」
リアは隣に座っているアリスに聞いた。
「そうねぇ……」
アリスは思案顔で言うと、
「そうだわ!」
と、いかにも良いことを思いついたかのように言った。
「え、何?」
びっくりしてリアが聞き返した。
「リアさんの代わりに私がノシオくんと一緒に行くのはどうかしら?」
と、アリスはとてもいい笑顔で言った。
「「えっ!?」」
リアと俺が驚いて声を上げると、
「そうしたら私が生徒会長になっちゃうかもしれないわね。そうなったらよろしくね、ノシオくん」
既に確定事項であるかのように笑顔で言うアリス。
「何言ってるのよ、アリスさん!」
リアがすぐさま反論した。
「あら、いいじゃない、生徒会長って重責でしょ?」
「まあ、そうだけど」
「なら、リアさんはそろそろ肩の荷を降ろしていいんじゃない?」
「でも……」
「後のことは私がノシオくんとうまくやるから」
「だったらノシオとじゃなくて幼馴染みのオオベくんとやればいいじゃない!」
「あら、だめよ」
「なんで?」
「だってロンタは何でも一人でできちゃうんだもの」
「それでいいじゃない」
「それじゃつまらないわ。ノシオくんなら出来ないことが色々あって楽しそうだもの」
(……
「あの、話しが少々斜め上の展開になってしまってますが」
オオベがハの字眉笑顔でリアとアリスの会話に割って入った。
「音楽祭でのお二人のパフォーマンスが素晴らしかったことは紛れもない事実ですから」
「そうね、それは間違いないわ」
オオベの言葉にアリスも同意した。
「ですので、ここは素直に受け取っておいていいのではと思います」
「まあ、貰えるものは貰っておきましょう」
まるで受けるのが自分であるかのようにアリスが言った。
(まあ、今回の音楽祭は生徒会の四人で企画したんだし)
そう考えれば、アリスとオオベにも
(あ……)
「あの、それなら……」
俺はアリスとオオベを見ながら言った。
「なにかしら?」
「リアと俺だけでなくて、アリスさんとオオベくんも一緒に行ったらどうでしょう?」
「そうねぇー……」
アリスは俺の提案を聞いて思案顔になった。
(あれ……?)
アリスが即答で「そうしましょう!」と返してくると思っていたので、俺のほうが虚を突かれたようになった。
「ロンタはどう思う?」
アリスが聞くと、
「そうですね……なるべく目立たないようにしていれば……」
あの『できるイケメン』オオベが明らかに迷っている。
「その場にいれば何かあっても対処できますし」
オオベが付け加えた。
「何かあっても……?」
オオベが口にした不穏な言葉に、俺の返す声がかすれ気味になった。
「あ、いえ念の為です」
取り
「そうそう、なんだか理事長って怪しそうじゃない?」
「まあ、確かに……」
この学園で、というか今のところこの世界で一番怪しい存在は理事長だ。
「でしょ?だからリアさんが変なことをされたりしないように、ね!」
「私が?」
「
「い、いやらしいこと!?」
唖然と答えるリアをアリスはギュッと抱きしめた。
「ちょっと、アリスさん……?」
「こんなに綺麗で可愛いリアさんを見て変態理事長が何もしないわけないわ!」
「変態理事長!?」
(既に理事長の変態は確定事項なんだな)
「もし理事長がリアさんに何かしようとしたら私が連れて逃げるわ、だからロンタとノシオくん!」
「「はい」」
「あなた達は体を張って理事長を阻止しなさい!」
「お任せください」
イケメン爽やか笑顔でオオベが答える。
「はい……」
俺が要領を得ないまま答えると、
「ノシオくんは、もう……シャキッとしなさいシャキッと!」
「はい!」
「よろしい!」
アリスに肩を抱かれてやり取りを見ていたリアが
アリスもそんなリアに笑顔で話しかけている。
(あのふたり、いつの間にか仲の良い姉妹みたいになってるな)
綺麗さっぱりとまではいかなそうだが、リアの顔に浮かんでいた不安な様子は随分と
「それじゃ、明日に備えて今日は帰りましょうか」
アリスが空を見ながら言った。そろそろ陽も傾いてきた頃合いだ。
「ところで、リアさん、ノシオくん?」
「「はい?」」
「今夜も密会をするのかしら?」
「「……!?」」
アリスの問いにリアと俺は絶句してしまった。
「うふふ、驚いた?」
面白そうに言うアリス。
「……し、知ってたんですね?」
俺はやっとのことで声を絞り出した。
「もちろんよ。街に行った日の夜のこともね」
「え!?」
リアの顔が再び不安に
「心配しないで、誰にも言わないから、ね?」
そう言いながらアリスはリアの頭にそっと掌を載せた。
そんなアリスに身を任せるように、リアはアリスの肩に
こうして、その日は四人揃って寮に帰り次の日の朝を迎えた。
「さあ、行きましょう!」
翌朝、約束通りコハナとロウタが迎えに来た。
「そうね」
リアが答え席を立ち、俺とアリスが続いた。
「あなたは……」
コハナがアリスに言いかけると、
「私も生徒会役員ですからね。アルハ生徒会長のごえ……助手として参ります」
(今『護衛』って言いそうになったな)
「でも……」
「理事長には私からお話をします」
異議を唱えようとするコハナを遮るようにしてアリスが言って歩き出した。
コハナはロウタと顔を見合わせたが、何も言わずにアリスの後に続いた。
教室を出るとオオベが待っていた。
「僕もご一緒します。生徒会役員ですので」
と、いつもの爽やか笑顔で、だが有無も言わせない口調で言った。
コハナは何か言いかけたが、諦めたように小さくため息をついた。
理事長室は学園の四階にあるらしい。
教室は三階までなので、四階のフロア全てが理事長室とそれに付随する部屋になっているのだろう。
階段を上り四階に上がると赤い絨毯が敷かれた待合室のようなスペースに出た。
十メートルほど奥には重厚な作りの木の扉があり、その横に受付カウンターがある。
カウンターには受付係と思われる女性が静かに控えていた。
「うわぁ……」
「すごいところですね……」
四階に上がるのは初めてのリアと俺はポカンと口を開けて、豪華な待合室に
アリスとオオベを見ると、取り立てて変わった様子はなく落ち着いていた。
(あのふたりは来たことがあのかな?)
コハナが受付で声を掛けると、受付係の女性は小さく頷いて立ち上がり扉をノックした。
「どうぞ」
扉越しにくぐもった声が聞こえた。
受付係の女性は扉を開け俺たちに向かって、
「お入りください」
と静かに言った。
(とうとう理事長と対面か……)
俺はいつの間にか握りしめていた手を開いた。じっとりと汗ばんでいる。
コハナとロウタが先に中に入っていった。
俺の横にいるリアを見ると、緊張した面持ちで動けないでいる。
(リア……)
今の俺は何もできないただの高校生だ。だが、
(リアのためにできることは何でもやろう)
そう自分に発破をかけて、俺は汗ばんだ手を上着で拭いてリアに差し出した。
「行きましょう、リア」
リアの緊張していた顔が少し驚きの表情に変わった。
「……ええ」
静かにそう言うとリアはそっと俺の手を取り、不安が残る顔をほんの少し
そんなリアに、俺も少しだけだが微笑みを返せた。
オオベのように爽やかイケメン笑顔を返せれば言うことはないのだが、ブサメンの俺にそれは酷というものだ。
(まあ、いいか)
俺の笑顔なんてどうでもいい。
大事なのはリアの笑顔だ。
その大事なリアの笑顔を俺の全てを賭けて守ろう。
そう思いながら、俺はリアの手を握って扉の中へと進んだ。
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