第7話 いざ街へ ダブルデートみたいになった
「ふーん、そうなのね」
リアは、アリスとオオベの故郷が同じだという俺の話を聞いて、考えるような表情をした。
今俺達は、まるで造りたてのように綺麗な街の目抜き通りを歩いている。
広い通りの中心には植樹帯があり、左右が遊歩道のようになっている。
通りの両側に様々な店舗が並んでいる様子は、屋根は無いものの日本にあったモールを思い起こさせる。
「それで、私たちのことは話したの?」
「はい、故郷が同じだということは話しました。場所は秘密と言っておきましたけど」
「そうよね、そもそもこの世界にリガ王国はなさそうだし」
そうなのだ、俺達が今いるこの世界がどういう世界なのか殆どわかっていない。
「そういう話をしようとすると何故か気を
そう言ってリアは小さなため息をついた。
「二人で街に行こうって言ってたのに、結局行けてないしね」
リアが機嫌を少しずつ悪化させている気配が濃厚になってきた。
「そう……ですね」
「ノシオはアリスさんに言い寄られたりしてるし」
リアが冷ややかな目で俺を見た。
「そんなことは……」
あたふたする俺。
「そう?まんざらでもない顔をしてるじゃない、ノシオ」
プイッと目をそらせながらリアが言った。
「いえ、それは俺が女性に慣れてないから、その……」
「まあ、いいけどねぇ、私もオオベくんと仲良くしてもいいかなぁとか思うこともあるし」
リアはそう言ってチラッと横目で俺を見た。
もう俺はオロオロアワアワするしかない。
そこに狙ったようなタイミングで、
「僕が街をご案内しますよ」
オオベがリアに近づい来て言った。
「そ、お願いするわ」
リアは驚くこともなく笑顔で答えた。
これも事前に決めていたことなのだろうとは思うが、またしても俺の胸のもやもやが濃くなってきた。
「じゃあ、ノシオくんは私が案内してあげる」
アリスも図ったようなタイミングで言ってきた。
リアを見ると、チラッと俺を見ただけですぐにオオベと話し始めた。
(うう……)
俺は心の中で唸るしかなかった。
「心配しなくても大丈夫よ」
俺の困惑顔を「アリスに案内を頼むのは不安」と受け取ったからなのかアリスはそう言って、
「街のことは私もロンタに色々聞いてるからしっかり案内してあげるわ」
と、俺に寄り添ってきた。彼女の肩が軽く当たる。
(うう、まただ……)
こういう時にアリスは体が触れ合うように寄り添ってくる。
嫌な気はしないし嬉しくなくもないのだが、どうにも慣れないことでドギマギしてしまう。
リアを見ると、既にオオベと仲良く話しながら少し先を歩いている。
二人は寄り添ってこそいないものの、距離感はかなり近い。
(もっとリアと色々と話をしたいんだけどな……)
そうしてリアとの仲をより深めたい。何よりもそれが俺にとって最も大切なことであることは間違いない。
だがそれとは別にリアと話し合いたいことがある。
今の俺達の学園生活はある意味順調に進んでいるように見える。
だが、根本的な部分で解決すべき問題がそのままなのだ。
そう、なぜ俺とリアがここにいるのか、ということだ。
これまでも、考えてみようと思いながらも、何かと気持ちをそらされてしまっていた。
(生徒会長と副会長のジンクスのことも気になるしな)
そもそも、理事長の推薦というところからして怪しい。
そんなことを考えていると、
「どうしたの?そんなに怖い顔をして」
と、アリスが俺の顔を覗き込むようにして言った。
どうやらかなり深く考え込んでいるうちに、俺は顔が険しくなっていたようだ。
「あ……ちょっと考え事を」
「何か悩みがあるのなら私に相談してね」
と優しい笑顔でアリスが言ってくれた。
「はい、ありがとうございます」
俺もブサメンしかめっ面をなんとか笑顔にして言った。
その時俺は、ほんの僅かながら違和感を感じた。アリスが見せてくれた笑顔がいつもと違うように思えたのだ。
アリスはいつも明るく楽しそうに俺に接してくる。
その無条件な俺への親しさは、女子からは塩対応されるのが当たり前の俺からすると「からかわれているんじゃなかろうか」などと
だが、その時のアリスの笑顔はこれまでと違って見えたのだ。
同年代の女子が見せてくれる親しげな友達笑顔というよりは、もっと年上の女性の、安心感を与えてくれるような笑顔とでも言えばいいのだろうか。
「ほら、また顔が怖くなってるわよ、ノシオくん」
アリスに言われてハッとして彼女を見ると、いつもどおりの明るく楽しげな笑顔で俺を見ていた。
「は、はい、すみません」
俺はなんとかして笑顔を作って答えた。
やがて俺達は通りの先にある噴水広場に出た。
「わぁーー綺麗ねぇーー!」
広場を見回しながらリアが感嘆の声を上げた。
中央に大きな噴水がある広場は陸上競技場くらいの広さがありそうだった。
「見てください」
オオベが広場を指し示しながら言った。
「噴水の周りに演奏している人たちがたくさんいるでしょう?」
彼が言うとおり、噴水の周りには一人から数人で音楽を奏でる、いわゆるストリート・ミュージシャンが何組もいる。
「屋台も出てるのね」
広場のあちこちにある屋台を見ながらリアが言った。
「いい匂いがするわねぇ」
アリスが鼻をひくつかせながら言った。
「ええ、食事や飲み物、お菓子など色々な屋台があります」
オオベが説明する。
「学園の音楽祭でも屋台を出しましょう」
オオベの話を聞いてリアが思いついたように言った。
「音楽を聴きながら美味しいものを食べたり飲んだりする、素敵よね!」
胸の前で手を握り合わせながらリアが言った。
俺達は何組かの演奏や歌を聴き、屋台で軽食や飲み物、菓子などを買って賑やかで楽しい時間を過ごした。
そんな間も、オオベは楽団の人たちや屋台の店員さんなどに話しかけて様々な情報を仕入れているようだ。
(すごいなオオベ!)
彼を見ているとリガ王国にいた頃の兄のユアンを思い出す。
ユアンは、見た目イケメンチャラ男で当てにならなそうに見える。だがその見かけの印象とは裏腹に、細やかな気配りができて人柄も良く、なおかつ頭も切れる。俺が生涯の目標としている人の一人だ。
(俺なんかじゃ絶対に敵わないな……)
オオベと自分を比べたところでどうなるものでもないが、前世からの習性でつい卑屈になってしまう。
オオベに敵わないのは自明だが、俺も音楽にはそれなりに興味はあったので、改めてじっくり楽団の演奏を聴いて回りたくなった。
「リア」
俺はオオベの説明を熱心に聞いているリアに声をかけた。
「なに?」
「いくつか楽団を聴いて回りたいんだけど、いいですか?」
振り向いたリアに俺が言うと、
「じゃ、私も一緒に行くわ」
リアは俺にそう言うと、
「オオベくんとアリスさんはもう一度屋台を見て回って、参考になることがあるか調べてもらえる?」
「僕とアリスさんで、ですか?」
「ええ、聞いたところでは二人は幼馴染みなのよね?」
「まあ、そうですが」
そう言いながらオオベはアリスを見た。
「いいわ、そうしましょう」
アリスはオオベを見ながら仕方ないといった表情で言った。
「じゃあ、決まりね」
リアはそう言うと俺の腕を掴んで、
「行くわよ、ノシオ」
と、闊歩するように大股で歩き出した。
リアに引っ張られながら振り返って後ろを見ると、アリスとオオベがこちらを見ている。
不思議なことに二人は穏やかな表情で、あたかも俺達を見守るような目でこちらを見ていた。
「やっと二人になれたわね」
しばらく歩いてからリアが言った。
「そうですね」
俺は溢れ出る嬉しさを抑えながら言った。
「そうですね、じゃないわよ!」
ちょっと怒ったようにリアが言った。
「え?」
「ノシオはすぐアリスさんに気を取られちゃうんだから」
「ごめんなさい」
「ふぅ……」
腰に手を当てて溜息をつきながら、リアはしょぼくれている俺を見ている。
「まあ、いいわ。それはそうと……」
リアは表情を固くして言った。
「アリスさんとオオベくんのことなんだけど」
「はい」
「なんだか気になるのよね」
「俺もです」
やはりリアも気付いていたようだ。
「それでね、私に考えがあるの」
そう言ってリアは俺に寄り添い、耳元に顔を近づけて
「…………」
(リアの顔がこんなに近くにーーーー!)
もう俺の心臓はバクバクである。
「分かった?」
「え?」
「え、じゃないわよ!」
ビシッ!
リアの手刀が俺の脳天に炸裂した。
「いてっ!」
「もう一度言うからちゃんと聞きなさい!」
「はい!」
(っても、リアの顔が近すぎて……!)
と、脳天が蕩けそうになるのを必死でこらえて、俺はリアの囁きに耳を澄ました。
「…………」
リアの優しい
(…………!)
「分かった?」
「はい!」
リアの言葉に俺は大きく
「それじゃ、音楽を聴きにいきましょう」
「そうですね」
こうして俺は、リアとの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます