100の思い出、巡り巡って、終わりまで

@Takeuchi0918

#1、平エイジについて・始

#1、平エイジについて・始

「ここもダメかぁ……大掃除の調子が良かったのは最初だけかな」

 手に取った瓦礫を投げ捨てながら少年がため息をつく。

「クソッ……魔宝具ハンターめ……」

 投げ捨てられた瓦礫の足元で傷だらけの男が呻く。そんな男の顔を少年がかがんで覗き込みながら問いかける。

「んで、ほんとに知らないんだな? 魔宝具のこともその場所も」

「し、知らない……ここまでされて言わないわけが無いだろ……」

 男は、つい先程まで存在していたビルに拠点を構える反社会組織のボスだった。しかし、突如現れたこの少年が尋ねてきた魔宝具のありかを知らないと答え、追い払おう・・・・・として失敗。返り討ちにあって組織とビルは壊滅した。

「それもそうか。悪かったな、ビルだけは直しとくわ。『番外:壊したビル』」

 そう少年が呟くと今しがた少年が壊したビルが何事も無かったかのように現れた。

「復元能力、か……?」

 瞬きする間もなく瓦礫の中に現れたビルに呆気に取られる男。

「あー、ちょっと違うな。まぁどっちかと言うと再現だ。俺が壊したビルを事前に記録しといてそれを再現した。魔宝具の力ってやつだ」

「これが……確かに現状の魔法では不可能な規模と能力だ……」

「その反応を見るにほんとに知らなかったみたいだな。悪かったよ。ビル直したしそこはチャラってことにしてくれないか? 治癒能力は無いから仲間の治療は出来ないが」

「あ、あぁ……どのみちあんたにこれ以上要求をする気も出来る気もないが……」

 男は、先程から圧倒的な力を見せつけられ、もうこれ以上はどうにでもなれと諦める。

「そっか、まぁそれとあんたら逮捕するのは別件だけどな」

「は? 逮捕?」

 いきなり出てきた逮捕という単語に戸惑う男。魔宝具ハンターは彼ら自身、もしくは周りが勝手に呼んでいる呼称で逮捕権があるような組織では無いはずだ。

「あー、さっきは否定しなかったけど俺魔宝具ハンターとかじゃないんだわ。むしろ捕まえる側。ほら」

 そう言って、少年が男にIDカードを見せる。

「『魔宝具管理部隊カタログ#101、平エイジ』……カタログ!? しかも番号付きだと!?」

 男は目の前にいる少年、エイジが途端に素行の悪い魔宝具ハンターよりも恐ろしいものに見えてきた。

「ま、逮捕理由は言わなくても分かるよな。魔法乱用しすぎ。つーわけで今気絶してるヤツら含めて全員逮捕な」

「なっ……くそっ」

 どこにそんな余力があったのか。男は這いつくばった状態から起き上がって逃げようとする。

「あーもう逃げんなって。『手枷足枷ロック』」

「うぐぁっ!」

 エイジが魔法を発動し、男の手足を拘束する。拘束された男は、バランスを崩して倒れ頭を打って気絶してしまった。

「やべっ。あー、もしもし『エンジェル』? こちら『スイーパー』人手足んないから応援頼むわ」

 エイジが左耳に入れたインカムの通信で応援要請をする。応えたのはまた少し幼さの残る少女の声だった。

『応援了解、私も行きます。ところでエイジさん、いつも言ってますけどその呼び方やめてくれませんか……? コードネーム呼びしてるのエイジさんだけですし、何より恥ずかしいんですけど』

 若干の怒りと羞恥が入り交じった声で少女が抗議する。

「えー、かっこいいじゃんコードネーム。ていうかエイミの装備と名前でエンジェルじゃないは無理だろ」

『だから嫌なんですよ……あ、もう着くので切りますね』

 その通信が切れるのと同時に、ヘルメットにスカイダイビングスーツのようなものを着た少女、エイミがエイジの横に降り立った。2対の羽が生えたランドセルを背負って。

「よっと。お疲れ様です、エイジさん。それで、連行する人数は?」

 ヘルメットを外し金髪のツーサイドアップを整えながら、エイミが意識を失って倒れる男たちを見渡して聞く。

「あー、ざっと20人ぐらいかな。車は?」

「もうしばらくしたら来ると思いますよ。それまでここら辺片付けちゃいましょうか。ね、エイジさん?」

 今度は倒れている男たちではなく、散らばる瓦礫を見てそう声をかけるエイミ。水色の瞳は笑っておらず、意識的に高くした声がその怒りを表している。

「やっべ……」

 エイジが逃げようとするも、その前にエイミが逃がさないといったようにまくし立てる。

「いつも言ってますよね? 建物壊すなって。後片付けするの私たちじゃないんですよ? そもそもそれほどの威力の攻撃して周りの被害考えてますか? 今回はたまたま周りの住民が軒並み逃げているから良かったですが、そうじゃなかったら万が一の責任取れるんですか? 取れるんでしょうね! あー、もうこれだからこの人は……」

 エイミの怒りはどうやら一周まわって自分を落ち着かせる方向に向かっているらしく、なんでこの人は……もーどうしてこの人は……とブツブツ言う声が聞こえる。

「ご、ごめんってエイミ……」

 なんとかエイミの機嫌を取ろうと平謝りするしかないエイジ。実際、この手のことは何度言われたか分からない。

「はぁ、それで。見つかったんですか?」

「無かったわ。なんか急に強いやつ入っただけみたいだ。よくある話だったよ」

 そうですか、なのに壊したんですねという呟きが聞こえた気がするが聞こえないふりをする。そして、誤魔化すようにエイジが瓦礫に向かおうとしたところで捕らえた男たちを乗せる車が2台到着した。

「お疲れ様です! カタログ・警察部隊到着しました!」

 10名ほどの隊員たちが降りてきて敬礼をする。

「おー、お疲れ様。とりあえずそこら辺の転がってるのと……片付けもよろしく」

 エイジが若干気まずそうにそう言うと10名が思い思いにため息をつく。

「えー、またやったんですか……もう慣れたからいいですけど」

「ごめんって……」

 エイジが申し訳なさそうに手を合わせ、警察部隊のリーダーは再び思いっきりため息をつく。

「なぁ、あの人本当に偉いんだよな……?」

 それを見て部隊の新人がひそひそと隣の隊員に尋ねる。

「私たちカタログの下部組織の隊員と違って、あの人はカタログ本隊のナンバー付き。ナンバーは101だけど、噂じゃジャック隊長の次に偉いとか……」「そんな人が俺らのリーダーに怒られてんのか……」

 いったいどういう目で見れば良いか分からず、とりあえず空を仰ぐ。

「あ、んじゃ俺は帰るわ! あとよろしく! エイミ、早く行こうぜ!」

 ちょっとエイジさん! 話終わってないですよ! と言う警察部隊のリーダーを他所に、エイジはエイミに抱えられて空に飛んで行く。

「はぁ……みんな、とりあえずこいつら車に押し込んだら片付けようか……」

 隊長は頭を掻き溜息をつきながらそう言った。

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