不登校陰キャの僕、実は女子に大人気の若手トップ俳優です。平穏を求めて私生活では正体を隠していますが、校内に結構ファンが居るし同業の大人気女優も在校しててやたらと構ってくるから隠遁生活も楽じゃない
新原(あらばら)
第1話 人気俳優の素顔
「――はいっ、というわけで! 今朝は今をときめく若手トップ俳優――
「はい、おはようございます」
とある朝の大人気情報番組。
その生放送が執り行われているスタジオにて、
週末に封切りを迎える最新映画のPR活動のため、主演の一式はこうして朝の情報番組に顔を出しているところだった。
「いやあ一式さん、ホントにイケメンですね!」
「恐れ多いです」
女子アナからの言葉に一式は謙遜するが、整えられたヘアスタイルに爽やかな目鼻立ちは誰がどう見てもイケメンと呼ぶにふさわしい造形である。
その上、16歳と若く、スタイルも良いことから、若い女子を中心に異性からの凄まじい支持を集めているのが彼、一式一人という若手ナンバーワン俳優であった。
「是非、今作の見所を教えていただきたいのですが」
「迷いますが、ヒロインを務められた
「それはまた、両者のファンが嫉妬しそうですねw」
女子アナがニヤニヤと笑ったりして和やかな番組進行が続く。
限られた出演時間はあっという間に過ぎ去り、やがて一式の出番は終わることになった。
「――あ、残念ながらお時間が来てしまいましたので一式さんはここまでとなります! 一式さんっ、お忙しい中ありがとうございました!」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
2分ほどの出演が終わり、一式はカメラの前からフェードアウトした。
「――
スタジオの偉い人たちに丁寧な挨拶をしてから廊下に出ると、一緒にスタジオから出た女性マネージャーにそう言われた。
黒髪美人の28歳独身。
仕事に生きる女性である。
「爽やかな朝に君の顔を見られたことで、世の女性は元気になっただろうね。えっと、それで今日はこのあと学校に行けそうだから行くんだっけ?」
「はい、行きます」
一式は楽屋に戻ると、整った髪をぼさっと崩してコンタクトを外し、度のキツい丸眼鏡をかけた。そして学校の制服に着替えて猫背となる。
「じゃあ眞理さん、学校まで送ってもらえますか?」
「君ってホント……よくもまあ一瞬にしてそこまで野暮ったい格好になれるわね」
眞理が感心しつつも呆れるのは無理もない。
先ほどまでのイケメン若手俳優はナリを潜めている。
今の一式は多少背の高い目隠れワカメヘアーの猫背陰キャである。
この状態の一式は俳優・一式一人ではなく、陰キャ・
二式二郎が彼の本名だ。
「プライベートで目立ちたくないんです」
「ま、目立ってもろくなことはないものね。いいわ。送りましょう」
そんな回答をもらい、二郎は眞理の運転する車で都内某所の進学校に向かった。
学校の少し前の路地に停車してもらい、目立たないように降りる。
そして6月中旬の日差しを浴びつつ、普通の生徒に紛れて校門をくぐった。
すると、グラウンドに人だかりが出来ていることに気付く。
その中心には、綺麗な白銀髪が目立つハーフの美少女が佇んでいた。
愛想を振りまく彼女は、生徒らに差し出されたノートにペンを走らせている。
(
若手俳優筆頭の一式一人には、双璧と称されるライバルの若手役者が存在している。
それが彼女――映画でも共演している美少女女優、奇跡的にも同じ学校に在籍している白川
長くて綺麗な白い髪。
透き通った碧い目。
整い過ぎた面差し。
非常にスタイルの良い身体。
子役時代から輝き続ける抜群の知名度を引っ提げ、その圧倒的なビジュアルによって男女問わず凄絶な人気を誇る彼女は、白い天使、1000年に1人の女神、世間一の美少女、などなど様々な二つ名を有する若手ナンバーワン女優である。
今朝は二郎とは別のイベント会場で映画のPR業務をこなしてきたらしい彼女は、その仕事終わりのプライベート状態だというのに、今もああして堂々と振る舞い、ファンサービスに徹している。
――変装はしない。
――隠さない。
それが彼女のポリシーであるらしい。
一方の二郎は、目立たずに過ごすべく正体を隠している。
教職員の一部には芸能活動の理解を得るために説明済みだが、生徒には間違いなくバレていない。もちろん一式状態での面識がある清歌にも、その一式がここに居ることはバレていないのである。
(僕はプライベートでは静かに生きる……有名女優の母さんに誘導されてあれよあれよと俳優の道を歩まされてしまったから、せめてプライベートは地味に……地味に……)
そんな考えを念頭に置きながら所属学級である2年C組教室に向かうと、「あ、今日は来たんだw」とクラスの陽キャ女子たちにクスクスと笑われ始めてしまった。
芸能活動のせいできちんと学校に来られない二郎は、クラスメイトからは「滅多に登校してこない不登校の引きこもり」だと思われており、今のように笑われているのである。
「一式くんみたいにウチらと同い年で活躍してるイケメンも居るのに、二式みたいな引きこもりってプライドないんかねw」
「一式くんと比べるのは酷っしょw」
(その
心の中でそうぼやく二郎は当然ながらダメージを受けていない。
一式として散々持て囃されている二郎にしてみれば、逆の扱いはむしろ新鮮で楽しいモノだった。変装が上手く行っている証拠でもあるため、特に文句はないのである。
そんな中、
「――あなたたち! 人を笑うのはやめなさい! 廊下まで聞こえていたわよ!」
と、世間の偶像たる清歌が、そんな見得を切りながら教室までやってきたことに気付く。
彼女は2年C組の生徒であり、そして学級委員長でもある。
正体を隠さない堂々とした性格は、そんな役職にも反映されているわけだ。
「大丈夫だった二式くん? おはよう。今日は登校してくれたようで良かったわ」
そしてそんな彼女が心配そうな面持ちで二郎のそばにやってきた。
去年から同じクラスの彼女は、正義感からか、あるいはお節介力全開なのかなんなのか知らないが、不登校扱いになっている二郎をやたらと気に掛けてくるのだ。
二郎的には、これが非常によろしくない環境なのである。
(……僕の正体を見破る可能性が一番高いのは、仕事でもプライベートでもこうして関わりのある白川さんだ……それを思えば、僕と白川さんがプライベートで揃うのはツイてなさ過ぎる……)
世間を賑わせる二郎と清歌が同じ学校に居るだけでも奇跡的だろうに、同じクラス。
しかもその清歌がこうして気に掛けてくる。
その上、こちらの正体を見破ろうとする底意地の悪さがあるわけではなく、不登校生徒を気遣おうとする善意100パーセントの振る舞いである清歌は、二郎にしてみれば非常にタチが悪い存在と言えるのだった。
「ねえ二式くん、私は何があっても君の味方だから、辛いことがあれば遠慮せずに頼ってくれていいわ」
「……あ、ありがとう白川さん」
本業ではライバルの清歌。
本業において別に不仲ではないが、かといって仲良しこよしでもない。
バレればどう扱われるか分かったもんじゃないので、この接触は本当に好きではなかった。
一方、礼を告げられた清歌は満足そうに微笑んだ。それから二郎をからかっていた女子たちを牽制しながら自分の席へと戻っていく。
その様子を眺めながら、二郎は決意を固くする。
(……僕は平穏なプライベートを守るために、絶対に正体を暴かれてやらない……)
正体をひた隠す二郎。
なんの気なしに正体を暴く可能性がある清歌。
そんな2人の学校生活&芸能活動は、こうして火蓋が切られ続けている。
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