昔一緒に遊んだと思っていた男友達が実は女だった。と思ったらやっぱり男だったし、女だと思っていた相手が男と見せかけてやっぱり女だった
下垣
第1話 そうはならんやろ
もう1人は女子の幼馴染の
この2人とは紫苑の親の転勤を機に離れ離れになってしまった。そしてそれから10年後――高校入学を機に紫苑は再び2人の幼馴染がいる街へと戻ってきたのだった。
◇
とある公園にて、小さい女児が遊んでいた。女児が赤い風船を持っていて遊んでいたところ、誤って手を離してしまった。風船は浮上して木に引っ掛かってしまう。
「あ……わたしの風船が……!」
風船を手放してしまった女児は今にも泣きそうな顔をして風船を見つめている。そこに別方向から2人の男女が通りかかった。彼らは同じ高校の制服を着ていた。
「どうしたの? 大丈夫?」
女子高校生の方が優しく女児に声をかけた。
「えっと……わたしの風船があの樹に引っ掛かって……」
女児が風船を指さす。そうすると男子高校生が女児に向かって優しく微笑みかけた。
「なんだ。そんなことか。ちょっと待ってろ。オレがすぐに取ってきてやるからよ」
男子高校生は樹に上り始める。それを女子高校生が心配そうな表情で見つめていた。
「大丈夫ですか? 落ちたりしませんよね?」
「平気平気。ガキのころ、よくこういう木登りしたりして、虫捕まえて遊んでたんで」
男子高校生はサルのような身軽さであっという間に風船を取った。その瞬間に女児の顔がパァっと明るくなる。
「ほらよっと」
男子高校生は樹に乗ったまま、手を下げて女児に風船を手渡した。女児は満面の笑みを浮かべて男子高校生に向かって頭を下げた。
「ありがとー!」
女児は男子高校生に礼を言い、風船を持ったまま走っていった。
「ふう。良いことをした後は気持ちがいいぜっと」
男子高校生が樹から飛び降りる。その時だった。女子高校生が急にずっこける。
「きゃっ……」
「うわ……!」
ガツンと2人は衝突した。頭と頭がぶつかり、2人は意識を失ってしまったのだ。そんな中、2人と同じ高校の制服を着た男子高校生が公園に通りかかった。
「え? あ、あれ? だ、大丈夫ですか!」
通りかかった男子高校生はすぐにスマホを手に取り、救急に電話をしようとした。その時だった。女子の方が起き上がったのだ。
「いてて……俺は一体何をしていたんだ……うぅ……思い出せない」
意識を失ったことでその前後の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまったのか状況が飲み込めない女子。その女子が最初に視界に入れたのはスマホを片手に持っている男子高校生だった。
「あ、あー! お前、紫苑だろ! 西條 紫苑! 俺のこと覚えているか?」
「へ? あ、えっと……俺は確かに西條 紫苑だけど。それより大丈夫? さっき倒れていたけれど」
「ああ、それは後で病院に行くとして……そんなことより、まずは幼馴染との感動の再会を喜べよ!」
紫苑は必死になって過去の記憶を呼び起こそうとした。目の前の女子高校生。彼女の姿と性格に全く見覚えがない。少なくとも紫苑の知り合いに一人称が俺の女子はいなかった。
「なんだよ。俺のこと忘れたのか? ハクジョーなやつだな。俺だよ俺! 音坂 千尋だよ! 昔この公園で一緒に遊んだだろ?」
「え? ええええ! お、お前……! ええ! 随分と……変わっちまったな……」
紫苑は驚いた。自分の記憶の中では音坂 千尋は男であった。というか、男子だと思い込んでいたのだ。紫苑は「お前女だったのか」という言葉を飲み込んだ。流石に幼馴染の親友の性別を間違えていたなんて失礼にもほどがある。
「ははは。そうか? 俺はあんまり変わった自覚ねーけどな。それにしても、懐かしいな。そういえば、昔はよく2人で泥だらけになって、一緒になって親に怒られたっけ」
「あ、ああ。そうだな。懐かしいな」
紫苑はどうにか冷静に務めようと努力をした。
「いてて。それにしても頭が傷むな。ちょっと、近くの病院に行ってくる。俺とぶつかった人が近くにいるはずだ。その人のことは頼んだ」
「あ、ああ」
千尋は足早に去っていった。紫苑は倒れているもう1人。男子高校生の方の体を少しさすってみた。
「だ、大丈夫ですかー」
「ん、んん……ひ、ひえ!」
男子高校生は甲高い声をあげて飛び起きた。そして、紫苑を警戒した様子でとっさに距離を取った。
「あ、ご、ごめんなさい」
驚かせてしまったようで紫苑は男子高校生に謝った。男子高校生の表情は強張っていたが、紫苑の顔を見た時にその表情が柔らかくなっていく。
「え? 紫苑君?」
「ん? 俺のこと知ってるの?」
またしても過去の知り合いらしき人物に遭遇した紫苑。だが、紫苑は全く身に覚えがない。
「え? 私のことを忘れちゃったの? 誠だよ! 荒井 誠! ほら、小さい時一緒に遊んだ」
「え……? ま、誠!? お前、あの誠なのか……?」
紫苑はかなり驚いた。確かにこの少し押しが弱そうで気弱な雰囲気は昔の誠にそっくりである。しかし、紫苑の中で誠は女子で、今、目の前にいるのはどうみても見た目が健康優良そのものの男子である。
「あ、え、えーと……。誠。大丈夫か? その……気絶していたみたいだし、一応病院とかに行った方が」
「あ、うん。そうだね。心配してくれてありがとう。それじゃあ」
紫苑はかなり驚いた。昔の知り合い2人がまさか性別が入れ替わっていたなんて思いもしなかった。男子だと思っていた人物が女子で、女子だと思っていた人物が男子。人生で1度経験するかどうかっていうレベルの珍事が1日に2回も襲ってくるとは思いもしなかった。
◇
「え……?」
「へ……?」
病院の待合室にて2人の男女がお互いに顔を見合わせて驚いている。そして、その男女はすぐさま鏡を見て自分の姿を確認した。
「ええええ!」
病院内では極力静かにした方が良い。しかし、そんな当たり前の常識すらも頭から抜けていたくらいの衝撃が2人を襲った。
「ま、まかさ……俺たち入れ替わっているのか!?」
そう言ったのは、紫苑に自分は音坂 千尋だと名乗った少女であった。いや、彼は自分が少女になっていた自覚はなかった。
「な、なんで? どういうこと? え? なんかいつもより体が動かしやすいなって思っていたけれど」
紫苑に自分が荒井 誠だと名乗った少年も困惑している。改めて自分の手足を見て確認するとその異常性をはっきりと認識した。
「あ、ああ。俺もいつもよりなんか歩くペースが遅いなって薄々感じていた……頭をぶつけた衝撃かと思っていたけど……俺、女になっていたのか!?」
千尋は頭を抱えた。全く見ず知らずの人間と体が入れ替わり、これからの人生をどうしようかと悩むことしかできなかった。
「え、えっと……とりあえず、落ち着いてこれからのことを話しましょう?」
「あ、ああ。そうだな。周りに対してなんて説明するかとかあるし……」
2人は医者に体を診てもらい、体に特に重篤な外傷がないことを確認した。そして、さっきの公演に戻り、2人でブランコに乗りながらお互いのことを話す。
「俺の名前は音坂 千尋」
「私は荒井 誠です。よろしくお願いします」
お互いが自分の体だと思っている人間から自己紹介される。
「とりあえず……俺はさっき、この体で自分が音坂 千尋であることを名乗ってしまった」
「誰にですか?」
「俺の昔の幼馴染だよ。名前は西條 紫苑って言うんだ」
「え!?」
誠が立ち上がる。そして、身を乗りだして千尋に近づいた。
「紫苑君は私の幼馴染だよ!」
――
作者の下垣です。新作を投稿しました。
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