眠れぬ夜のうた

りっとく

二十首連作部門

新しい朝が好きだと言えた日の私に戻りたいだけの夜


友はみな変わらず優しく笑うから笑われぬよう私も笑う


人生の振り替え休みがもうかなり溜まってるから来世楽しみ


蜜柑剥きひとつふたつと消費するようにさよならする季節だね


満ち足りていれば落ちない言の葉を拾い集めて瓶詰めにする


心にも血が流れていてほしかった 怪我したときにすぐ分かるよう


注射器に吸い込まれゆく彩りを見送るだけの私は何色


手加減も手抜きも嘘も身に付けず折れずにいたのがそんなに罪か


頑張ってきたこと たかだか四百字以内で書かされる程度のこと


軋んではひび割れていく声をまだ捨てられなくて泡になれない


噛み砕くことが可能な優しさを喉飴ひとつぶんだけください


悲しみにそっと絞め殺される日が楽しみだから今日も笑える


「ねぇ、少し真面目すぎるよ、気を抜こう?」あなたが欲しがったくせによく言う


言の葉の海に漕ぎ出し膿を出すように生み出すうた またひとつ


材料の「やる気」がいつも買えなくて作れず仕舞いだよオムライス


今日という日をどうやって生きたっけ そもそも私生きていたっけ


瞼裏佇むあなたはひどいひと もう縋れない距離まで行ってよ


君は今しあわせでなきゃいけません それが贖いです、私への


見限ってくれない君の優しさが詰ることすら許してくれない


「大丈夫、みんなそうだよ」って笑う「みんな」に没する名無しの私

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