第89話 エレーナ視点①

エレーナの朝は早い。夜の22時頃に眠り、朝の5時半に起きる。日本にいる時からの習慣であり、冒険者の両親を持つ彼女は自然と起きるのが早くなった。


「おはようございます」

「おう、おはよう」


テントから出て洗顔し、歯を磨いているとしばらくしてショートスリーパーのシュヴァルツが向かい側のテントから出てくる。起きるタイミングとしてはほぼ同タイミングであり、シュヴァルツは身体を解すと、剣を握って軽く運動を始める。時たま中央エリアから外に出ては、破壊のスキルを使って魔物を狩っていた。


「フィルスちゃんおはようございます」

「……ケホッ、おはようございます」


6時頃になると、カリンに抱き枕にされていたフィルスが目を覚ましてテントから出て来る。フィルスはそのまま、エレーナが用意していた洗面器に頭を突っ込んで顔を洗うのと同時に酷い寝癖を直し始める。幾ら水が持ち込み放題とはいえ、塔の中でお風呂に入ることは出来ず、洗面器に水を溜めて身体を拭く程度である。


故に朝に頭を洗う行為は珍しいことではなく、フィルスはいつもこのタイミングで髪を洗っていた。フィルスの洗顔&洗髪を眺めながら、エレーナはまず昼食の準備から始める。


基本的にカリンのパーティーもシュヴァルツのパーティーも、朝夕にガッツリと食べて昼は軽食で済ませるスタイルとなっている。昼食にかける時間が惜しいからだ。


「フィルスちゃんは昼ご飯何がいいですか?」

「サメおにぎり」

「昨日もおにぎりだったじゃないですか……。

適当に野菜スープを作るので乾パン消化しましょうか」


エレーナは鍋で卵と野菜のスープを作り、熱々の状態で保温が出来る水筒に移す。昼頃までかなり高温の状態でスープは保たれるため、この世界ではやたらと硬い人参も昼頃にはドロドロとなる。


その野菜スープに味噌をぶち込み、朝食分はスープを味噌汁にするエレーナは、同時にフライパンを焚き火台の上にセットする。ベーコンを下敷きに卵を4つ割り入れ、目玉焼きを作り、4等分。その頃にはシュヴァルツのパーティーメンバーであるクオンとラングル、第1440世界からの助っ人であるムニが起きてくるため、シュヴァルツ含め4人分の朝食となる。


「おふぁよー」

「おはようございます」

「……お前絶対夜中の緊急時に駆けつけられないよな。何で枕持って外に出てきてるんだよ」


エレーナの主人であるカリンが起きてくるのは、他全員が起きて朝ご飯の準備をしている7時を過ぎた頃。今日は寝ぼけ眼のまま、枕を抱いて椅子に座ったカリンは、朝食を待ちながら二度寝した。


「あれ今日の目玉焼き塩かかってない?」

「カリンさん目玉焼きの時にいつも醤油をかけているので今日は切り分けてから私とフィルスちゃんの分には塩かけました」

「あー……。いや普通に調理中に塩かけていいよ。薄い塩味がある上で醤油かけたい」


朝食を食べ終えたらテントや机をアイテムバッグの中へ詰め込み、8時を過ぎた頃に空飛ぶ絨毯の上に乗り移動を開始。本日の目標は280階までの踏破であり、5階層分を3時間程度でクリアしていくこととなる。


1階層を30分以内でクリアするのであれば、フィルスやエレーナが投擲や弩で戦う時間は設けられないため、全ての魔物をカリンとシュヴァルツが倒していく。その間、暇そうにしているフィルスとは対照的に、エレーナは魔石板を使って出てくる魔物のステータスの記録を行っている。


1階層につき1種類の魔物しか基本的には出て来ないため、そこまで忙しい作業ではないが、出てくる魔物が次々と倒されてしまうため、時にはステータスの記録が間に合わない時もある。そういう時には少しばかりムニが普通の戦闘を行ったり、カリンが時間停止を使っている。


途中で休憩を取りながらどんどん塔の攻略を進めるパーティーは、17時頃に目標通り280階に到着。宿に泊まるかこのまま中央でテント泊するかの2択は、テント泊が選ばれたため夕食の準備はエレーナとクオンとフィルスで行う。テントや机の準備はラングルが行い、残りの3人は一時的に220階へ移動して初代皇帝クリストとの話し合いに参加している。


「ラングルさんって何であの詐欺師の女の人と一緒に居たんです?」

「……気が合った、というのはあるが良いように利用されていただけかな。偽装は便利だから」

「……その女の人の今の居場所、本当は知ってそうですね?」

「知ってたらシュヴァルツに伝えてるわ。

というか鍋!吹きこぼれてるぞ!」

「えっ⁉︎フィルスちゃん鍋の見張りしながら寝ないで⁉︎」


夕食は3人が220階から戻ってきた20時頃からとなり、夕食後は全員が参加して朝から溜まっている洗い物を行う。21時からは自由な時間となり、ムニやシュヴァルツが酒盛りを始めたり、カリンが魔石板で掲示板巡回を始める中、エレーナはコーヒーを飲みながら本を読み、22時に就寝した。

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