第88話 病弱

今まで250階で留まっていたのは対立している世界と戦争状態になっていたからだけど、その問題が解消されたら塔の攻略はサクサク進めるべきだし、7人パーティーだとサクサク進める。そもそもこの塔、200階から光源の確保が必要になるんだけど、ムニさんが通路を照らし続けてくれるお陰で1階から100階までと同じような感覚で塔を攻略出来るのは大きい。


シュヴァルツさんのパーティーのレベルが上がっているから、道中の敵はシュヴァルツさんが全部消し飛ばしているし、自分達が今度はキャリーされている気分。まあ効率追い求めたら、自分達は野営の準備中に時間停止を使ってレベリングするのが1番早いから仕方ない。今日は15階層分進んで、265階で野営。1日15階ペースが空飛ぶ絨毯だと基本ペースになるかな。101階から200階までは10階層分を一気に駆け抜けていたから1日20階層分の移動が楽だったね。


「……ところでさっきから咳が止まらないんだがゲホッ、ぐっ」

「ゴホッ。

これフィルスちゃんの症状に似てるからたぶん……不特定多数にばら撒いてる」

「制御出来ねぇのかよ⁉︎」

「本人が1番辛そうなんだから無理なんでしょ。今日は絨毯の上でずっと横になってたし」

「……このアイテムバッグの中身を奉納させろ。レベリング期間中に集めた魔石だ」

「えっ、良いの⁉︎」


そしてどうやらフィルスちゃんのスキルである『病弱』が周囲に風邪的症状をばら撒き始めたんだけど実はこれ初めてではない。たまにフィルスちゃんの症状が重くなる時は、周囲の人間にも影響が出ていた。


このスキルを成長させるには神様への奉納が1番らしいんだけど当然フィルスちゃんは今まで結構な数の魔物の死体や、魔物が装備していた武具を奉納してきた。


だからアイテムバッグ一つ分の魔石でどうこうなるとは思えなかったんだけど、奉納を一気に行うとフィルスちゃんの症状は改善し、自分も感じていた喉のイガイガが消え去った。……いやこれ1番容量が大きいタイプのアイテムバッグに250階の中ボス産の魔石がぎっしり入っていたからか、想像以上に奉納の効果が大きかったんじゃないかな。なんか加護が特大になってるし。数値的に+1000ってかなり大きい。


そしてフィルスちゃんが人それぞれにモヤみたいなものが見えると言い出し、そのモヤを集めて魔物にぶつけると魔物の方に強力なデバフがかかった。ステータス全部半減ってえげつないね?


「そのモヤはフィルスちゃん自身が1番多く持っていて、自分のモヤは半分以下には出来ないと」

「私の身体から全部取り出そうとすると痛いです」

「……病魔が視える上に他人に移し変えられるのはやべえな。しかもステータスにも影響を与えるデバフか」

「体調が悪化している時の戦闘ってかなり辛いし、防御手段がない上にMP消費しないとか相当強いよこれ」


いわゆるスキルの覚醒というやつで、他人に押し付けられるようになった病弱の効果は凄まじいものだった。本人が辛いのは変わらないけど、本人は慣れている上に今までの辛さが半減するようになったからか、いつも以上に元気になったように見える。


1対複数だと効果が微妙だけど、1対1なら絶大な効果だと思う。何よりフィルスちゃんの視界内で病魔を念じて移動させているから、かなり手早くデバフをかけられるのも大きい。


……こういう風にスキルが成長するなら、時間停止もMPの消費量が減っていく以外の強化がありそう。そのためにも奉納したいんだけど相変わらず神様の名前がわからない状態だし会いに行っても転職する気がないならさっさと帰れで帰らされる。シュヴァルツさんも似たような感じらしいんだけど、名前を教えられない理由が分からない。たぶん何かしらの理由自体はあると思うんだけど……。


「将来的に、アリッサちゃんも睡魔を相手に押し付けられるようになったら……敵にかなりのデバフを与えられそうだし、奉納はアリッサさん中心に切り替えるけどエレーナさんは良い?」

「私は奉納しなくてもなんか勝手に成長しているので特に不便はないです」

「……エレーナさんを転生させた神様はなんか優しそうな神様だよね」

「……一時は少し恨みましたけどね」


奉納は今後アリッサちゃんが中心になって行うと決めたので、次会う機会のために魔石だけ別で回収して貯蓄しておこう。たぶん今までの傾向的に、魔石が1番効率良いんじゃないかな。あとは階層が上がるほど魔石に込められる魔力は大きくなるから、250階の魔石を大量に渡してくれたシュヴァルツさん達には感謝しかない。あとでお礼をするためにも何か欲しいものがあるか聞いておこう。

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