異世界の医者
胡桃るな
一話完結
俺は医者だ。
頭が良かったから、高給取りの医者になった。
辛い仕事だったが、人を救うのは誇らしく、悪い仕事ではない。
年齢はそこそこに、早いこと仕事は退職し、趣味に興じる人生設計だったが、死んでしまう。
交通事故だ。
あまりにも、急。
まだ仕事しかしていないではないか。
だが、運が良いのか悪いのか、転生させてもらえることになった。いや、神様の手違いで死んだのだから、運は悪いか。
だが、やり直せるのだ。
女神に、次は同じことが起きないように、寿命を見れるようにしてもらった。いつ死ぬのか分からなければ、計画のたてようもない。前回みたいになるのは、ごめんだ。
しかも、人間の最大値のステータスにもしてもらった。勉強はかなりしてきたほうなので、中世レベルの文明だと、自分が1番賢いのは確定ではないか。
これが、異世界転生の無双というやつだろうか。
そうして、異世界へ転生してから、25年が経った。
ここの生活は楽しい。結論から言うと、前世の知識は役に立ったが、完璧ではなかった。
異世界には、人と似ているが違った部分もある種族が、沢山居たからだ。エルフ、ドワーフ、獣人など。
しかし、あまり問題ではなかった。異世界の研究者と共同で研究した。順調そのものだった。
リザードマンなどは、前世の人体と爬虫類の知識が役に立つし、ほかのどの種族も、前世の知識により、革新的な発見をし続けた。
それに私は、寿命を見れる。
見れるとは、そのままの意味で、だ。寿命が砂時計として、だ。
1つ1年といった所か。
作動してない砂時計が5つ見えたら、その人の寿命は5年と作動中の砂時計分で、5年ちょいという事になる。
その能力で、数々の患者達を見てきた。
病気や怪我などは、助けれる者も居たが、まだ解明できてない、異世界由来の病気や、寿命はどうにもならない。
孫の代まで遊んで暮らせるお金を稼いだ。
正直、お金はそこまで要らなかったが、人を救うのが何より嬉しく、誇りだった。
前世からの、私の性なのだろう。30を過ぎた頃には、美人エルフとも結婚し、王都の外れで、まったりと暮らしていた。
そんなある日、妻が病で倒れた。エルフだけに発症する、不治の病だ。
私はすぐさま、王都の研究機関に連れていった。
あの手この手を尽くしたが、ダメだった。
エルフの砂時計は1つ10年。その1つが、尽きかけていた。
持って半年も、ないだろう。
私は悲しみに明け暮れた。
早朝から研究の日々。
夜遅くなってきた頃に、酒を飲み寝る。
そんな生活を送っていた。妻はずっと寝たきりだ。
もう砂時計も1ヶ月をきった頃だった。
私は、妻を治す方法を思いついた。
まだ試していないが、試している時間などない。どうなるか分からないが、どうせこれに賭けるしか、手はない。
私はそっと、砂時計を反転させた。次の瞬間、私の目の前には大量の蝋燭と、転生させてくれた女神が、全身黒い格好をして立っていた。
異世界の医者 胡桃るな @kurumi_runa
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