SHISHIMARU ―獅子丸―

ゆでたま男

第1話

時は戦国の世。天下統一を巡り、武将たちの戦いは熾烈を極めていた。

ある夜。源川城の門の前。

数千人もの敵が突然奇襲をかけてきた。

源川家の家臣は、すぐさま応戦するが、あまりの数の多さに、混乱している。

獅子丸は、その光景を城の屋根の上から見ていた。全身を黒く覆い、背中に忍刀を背負っている。

「あ~あ~、情けないね」

偵察に行っていた才蔵が、音もなくやって来た。

「敵は、3000人ってとこか。大した数じゃないな」

「んじゃま、いっちょやるか」

獅子丸が指笛を吹くと、何処からともなく、数人の忍者が集まった。

獅子丸は、顎の下におろしていたマスクで鼻まで覆うと、屋根から飛び降りた。

全ての敵を倒すのに、わずか数分足らずだった。

お堀に橋が架かると、中から千姫がやって来た。

「獅子丸、よくやった。怪我はないか?」

獅子丸は片ひざをついた。

「はい」

「城へ入って休みなさい」

千姫は、城の方へ戻って行く。

獅子丸は、立ち上がる。

「姫様」

「ん、どうした」

振り向いた千姫に、獅子丸は何か言いたかったが、言葉にならなかった。

「いえ、何でもありません」

「変なやつよの」

千姫は、行ってしまった。

「ふっ」

いつの間にか隣にいた才蔵が鼻で笑った。

「情けないね」

「うるっせーな」

獅子丸は、天守閣の屋根に登り空を見上げた。夜空に綺麗な満月が浮かんでいた。


長妻頼政は、天守閣の廻縁から城下を見下ろした。

「いい眺めだな、才蔵」

「はい」

「やはり、ワシの目に狂いはなかった。あれから10年。あの時、お前と手を組み源川を滅ぼしておいたのは、正しかった。

今や、天下はワシのものだ。誰も逆らうことなど許さない。ただ、万事とは言いがたい」

「帝ですか」

「どうしても、帝から位を授かり、この体制を磐石のものとしたい。だが、これだけ金を積んでも首を縦には振らん」

「なんとかあの箱を開ける手だてを考えます」


円筒形で、両手より少し長いくらいの大きさで、あらゆる方法で衝撃を与えても壊れない。細い小指の先程の隙間がある。

何かしらのカラクリで箱が開くようになっているようだ。


才蔵は、千姫との会話を思い出していた。

「そんなことでは、天下はとれませんぞ。

 源川家が帝に気に入られていることは、

 承知しております。

 しかし、他の大名たちも帝の恩恵に

 預かりたいのは同じこと。出し抜かれて

 は、もともこもありません。

 金だろうが武力だろうが、とにかく早く

 天下統一果たし、帝から承知していただけ  

 ばいいのです」

千姫は、箱を取り出した。

「才蔵、これが何に見える?」

「箱?」

「中身のことだ」

「中身は、開けなければ見えませぬ」

「この箱の中には、源川家にとって、

 とても大切なものが入っている。

 これがあれば、いずれこの世は太平とな

 ることだろう。大切なものは、目に見

 えずとも存在する」

「私には、分かりません」


源川家は天下を統一し、帝から位を授かった。だが、なぜ頼政様には与えられないのか

いずれにせよ、あの箱さえ開ければ、その正体が判明する。千姫の言うことが確かなら、特別な何かに違いない。それが、帝を突き動かすやも。

しかし、箱を開ける方法とは・・。


「あと少しで夢が叶うというのに」

頼政は、扇子をあおいだ。

「いえ、夢などではござりません。夢では、いずれ覚めてしまいます」

「確かに、そうだな」

「それでは、城下を偵察してまいります」

「あぁ、頼んだぞ」

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