第56話 旅立ち。
月曜になり、また仕事が始まった。
なんだか、全然やる気が出ない。
クズ先輩には、事の顛末を正直に説明した。
「先輩、せっかくアドバイスしてくれたのにすみません」
すると、先輩は俺の背中を叩いた。
「まぁ、そういうことなら仕方ないだろ。その子は無事だったんだろ? 良かったな」
この人、ほんと人間できてるな。
先輩は眉を下げ下顎を出す。
いつもながらに子憎たらしい顔だ。
「俺もお前の立場なら、同じことしたよ。まぁ、その女子高生ともセックスしたと思うがな。ゴスロリが似合う美少女なんだろ? もったいな……」
前言撤回。
やっぱり、この人はクズだ。
あっ、一つ気になってたことがあったんだ。
「先輩。この前、ほのかちゃんも動いてくれてたじゃないですか。俺がこんなことしちゃってご迷惑かけませんでしたか?」
先輩は頭を掻く。
「まぁな。俺がナギの肩もっちゃったからな。あいつは、『どんな事情あっても、まひるとの約束を破ったなんて信じられない』ってさ。……あいつらには、俺らの気持ちなんて何も分かってないんだよ」
すみません。先輩。
喧嘩しちゃったのか。
ほのかのことは、俺がなんとか……。
すると、先輩が続けた。
「あ、お前が動く必要はないからな。お前、ほのかに警戒されてるから。首を突っ込まれたら余計にややこしくなるだけだって(笑)」
ほんと、すいません……。
先輩は俺の肩を組み、耳打ちしてきた。
「ところでさ。お前、パスポート持ってるの? 早く取らないと、再来週からの研修に間に合わないぞ?」
え。
「あれ? だってお前、フラれたらアメリカ行くって言ってたじゃん。部長に『高咲、アメリカいきます!』って言っちゃったぞ? 再来週から2週間の研修な。その後、いけそうなら本格的に赴任だからよろしく」
えっ?
…………。
先輩は続ける。
「ん。どーしたんだ? 心配そうな顔して。あ、ビザのことか? お前、まだ4年目だからなー。大卒じゃないし、ちょっと実務経験が足りないんだよなぁ、まぁ、でも、裏技駆使して適当にやっとくから任せとけ」
いや、そういうことじゃなくって……。
まぁ、もうそれでいいや。面倒だ。
おれはトイレに行き、鏡を見る。
自分の顔にびっくりした。
頬はこけて、目の下には特大のクマができている。
『……ひでぇ顔だ』
最近、色々ありすぎたからな。
そっか。先輩、この顔をみて、日本を離れさせるためにあんなこと言ったのか。
ふぅ。
まひるにメッセージを送ってみる。
……ブロックのままだ。
そりゃあそうだよな。
……アメリカいくか。
自分を変えるいいチャンスだもんな。
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