第49話 真夜の気持ち。
ほのかはココアをもう一口飲む。
そして、両手の平をカップの熱であたため、少し考えると話し始めた。
「まず、中学生の時のことから話します……」
中学の時、クラスにはリーダー格の女子がいた。他のクラスにも取り巻きがいるような影響力のあるヤツだった。
それは俺でも知っている。
そのリーダーがクラスの人気者だった真夜に目をつけ、攻撃した。きっと嫉妬だろう。
真夜は、物を捨てられたり、嘘の噂をばら撒かれたりしたらしい。
……俺には女子の友達がいなかったから。
そんなことになっていることを、全く知らなかった。
「全然しらなかった。あいつはいつも元気でそんな悩みとは無縁かと……」
ほのかはカップを持ち上げ、ココアの香りを嗅ぐような仕草をする。
「ナギさんは知らないはずです。まひるは隠していたはずですから。ただ、当時、ナギさんといると嫌がらせをされるようになって、ナギさんを避けてしまったと」
……たしかに。
当時、真夜は情緒が不安定で、俺を避けることが多かった。
それにしても、どうやら俺自身もターゲットになっていたらしい。
俺が女子に「きもい」だの「オタク」だの色々言われていたのは、そいつのせいか?
それは微妙だな。
自然な感想という線を否定できない。
ほのかは続ける。
「それで、ある日。まひるは、リーダーの取り巻きの子に話しかけられ、ナギさんの悪口への賛同を求められたらしいです。その子は、ここにはあいつ(ナギ)はいないから大丈夫と……」
ほのかは、マグカップの持ち手を何度か持ち直す。そして、こっちをジッと見つめる。
「それで、自分がターゲットになるのが怖くて、ナギさんを気持ち悪いと。……キモイと言ってしまったらしいです。その時は、自己嫌悪で最低の気分だったと。そして、まさか、ナギさんに見られてしまうとは思っていなかったと言ってました」
俺は、話を聞いていて思い出した。
確かあの時、俺は誰かに「マヤが呼んでいる」と言われて、廊下まで真夜を探しに行ったのだ。
あいつらの仕業か。
当時の女子にとってカーストは絶対だったはずだ。他者依存が強い真夜の性格であれば、尚更であろう。
まだまだ未熟な中学生の精神で。
俺が逆の立場だったら、真夜を
……だが。
俺は、ほのかに言った。
「でも、それなら。卒業するまでに弁解なり言い訳なりできただろ?」
「何度も、そうしようとしたらしいです。でも、話を聞いてもらえなかった。そして、気づいたら引っ越してしまったと」
確かに、俺はその一件で、マヤを完全に無視するようになった。そして、何も言うことなく引っ越してしまった。
親父の仕事の都合での急な引越しだった。俺には友達がいなかった。だから、真夜が俺の行き先を知る術はなかっただろう。
……もし、ちゃんと真夜の話を聞いていたら、その後の未来は違ったのだろうか。
俺はテーブルに肘をつき、髪の毛を掻きむしった。その様子を見ながら、ほのかは続ける。
「ここまではまひるの話。真相はわたしも知りません。ここからは私の目線も含めた話です。わたしがまひると知り合ったのは高校2年のころ。その頃のまひるは、今とは真逆。暗くて陰キャそのものでした」
俺の知っているまひるとは、あまりに掛け離れている。
「まひるは、分厚いメガネをかけていて、ずっと勉強ばかりしていて。誰とも話そうとしなかった。いつも一人ぼっちで。何かの時に、少しだけ話す機会があって、『絶対に入りたい大学がある』と言っていたのが印象的でした」
そして、ほのかは大学で、まひるに再会したらしい。
「大学で見た時、あまりに印象が違ったので、最初、まひるだとは分かりませんでした。それからは同じ高校ということもあり、仲良くなって色々と教えてくれるようになったんです」
どうして、まひるはそんなに今の大学に拘ったのだろう。
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