第37話 もしかして仲居さんもですか?


 俺とまひるは目を見合わせる。

 まひるは、分かりやすくあたふたしている。


 不安そうに俺の顔を覗き込む。

 「どうしよう。怒られちゃうかも」


 って、今さらどうしようもない。

 

 そもそも、自分の部屋で何をしていても自由なハズだし、返事をする前に襖を開けた仲居にも、非はあるのだ。


 それに、あんな事があった後だ。

 またすぐに来たりはしないだろう。


 ってか、むしろ、また来たら堂々と見せつけてやろうではないか。


 俺は、身体を離そうとするまひるをグッと押さえつけ、続けるよう促した。


 まひるは、求められたのが嬉しかったらしく、またユサユサと動き始める。


 そして、息を荒くして目を閉じると、顎を上げ行為に陶酔する表情をしている。


 まひるが上唇をペロッとして、上擦った声で言う。


 「この部屋、ナギくんのゴミ箱の匂いがするよぉ。わたし、この匂い好き。でも、さっきの可愛い仲居さんにも嗅がれちゃったかな。わたしだけのなのに。妬いちゃうかも」


 妬かれるのは嬉しいのだが、うちのゴミ箱について、誤った認識を持たれている気がする……。


 だが、まひるの変態っぽい発言に、お互い興奮してしまった。


 まひるの動きが早くなる。


 あと少し……。

 



 その時。

 

 トントン。

 

 (襖のノック音)



 「すみません。お寛ぎのところ……」



 またアンタか!!

 こっちは旅情緒で忙しいんだよ。


 なんだ、混ざりたいのか?

 そうなのか?



 今日、旅先で複数プレイ初体験か?




 すると、仲居さんは続けた。


 「何度もすみません。女将からの伝言で、取り急ぎお伝えしたいことが……」


 なんだろ。

 でも、チェックインの時の伝言だったら、もう小一時間経ってるってことか。


 あの仲居さん新人っぽいし、女将から言われたことは無視できんよね。きっと。


 そう考えると、客が情事に耽っていて話を聞いてくれない今の状況は、いささか気の毒に感じる。



 ちょっと待ってもらって、服を整え換気をした。よし、これで大丈夫そうかな。


 まひるは、なんだか拗ねているようだが、話を聞かせてもらうことにした。



 仲居さんは、正座を崩さずに話し始めた。


 「実は、本日、当館の挙式用のパンフレットを撮影する予定だったんですが、モデルの方が急遽、来れなくなってしまいまして。印刷の都合上、どうしても本日中に撮影しなければならないんです。そこで、初々しいお二人にお手伝いいただけないかと……」


 あれ? おれは疑問が湧いた。


 「なんで俺たちに? 女将さんとも会ったことありませんし、何が何だか」


 すると、仲居さんが首を横に振る。


 「入口のところで女将に会いませんでしたか? お二人ならイメージにピッタリだと。女将たっての願いなんです」

 

 入口?


 あぁ、あの馴れ馴れしい仲居さんか。

 って、あの人、女将だったの?


 庶民派すぎて、びっくりだよ。



 そういうことなら、前向きに考えたい。

 そこでおれは、一番気になること聞くことにした。


 

 報酬?

 

 ノンノン。

 


 俺が聞きたいことは、そんな事じゃない。


 ただひとつ。

 まひるのコスチュームがどっちか。


 つまり、和装か洋装かだ。


 俺の必死さに気づいたのか、仲居は少し口元を綻ばせた。


 「うちにあるのは神前式の施設なので、和装ですよ。今回は、華のある色打掛をご用意します。新郎様は……」


 新郎のことなんてどうでもいい。

 おれは、即答で引き受けることにした。


 まひるの花嫁姿が見れるなんて。最高の報酬だ。


 しかも、着物だよ?



 是非もなし。

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