第15話 デートって難しい。


 まひると一緒に家を出て、出社した。


 「ハァ……」


 自分の席につくなり、ため息が出る。

 朝から頑張り過ぎて、だるいのだ。


 よくスポーツ選手が、競技前には禁欲するっていうけれど、意味がよく分かるよ。色々と覇気がなくなってしまう。



 そんな俺の様子に目ざとく気づいたのか、クズ先輩が話しかけてきた。


 「ん、なにお前。今日もホテルから出社か?」


 「いや、家っす」


 先輩はニヤニヤして、俺の肩を組むように叩いた。


 「家に上げたの? アプリを紹介した時に、都合の良い冷めた関係希望とか言ってた割りにさ……」


 何この人。なんで家にあげたって分かるの?

 性事情限定の第六感かな。こわい……。


 「なんすか?」


 「いやさ、お前。セフレとかいって、めっちゃ大切にしてるよな。その子のこと」


 「なんで?」


 「だってお前いってたじゃん。忘れたのか? 大切に思える相手が見つかるまで、家に女はあげないって」


 そういえば、そんなこと言ってた気もする。

 半分は負け惜しみの強がりだったけれど。


 まひるは信用できるし。

 そんな特別な感じでもないんだけれどね。



 あ、先輩に聞きたいことあったんだ。


 「先輩。セフレの子に、◯◯ランドに誘われたんですけれど、これってどういう意味だと思います?」


 先輩は中腰になって俺の肩に手をのせると、眉間に皺を寄せた。


 「……入場料はお前が払うのか?」


 どうなんだろ。ふつーに考えて、まひるから誘ってきたのに俺の奢り前提ってことはないと思うけれど。


 それにしても、さすが(自称)愛の伝道師だ。俺とは着眼点が違う。


 「わかんないけど、たぶん割り勘ってことだとは思いますよ」


 「お前さ。バカだろ? あのパークの入場料しってるよな? 大学生がおいそれと出せる金額だと思うか?」

 

 たしかに。社会人の俺でも高いと思う金額だ。

 先輩はちょっと偉そうに続ける。


 「それでさ。そんな一大イベントにセフレと行きたいと思うか? 割り勘でも相当な負担だし、その子の奢りだったら、完全に愛されてるぞ。もう付き合った方がいいよ、お前ら」


 さすがに、まひるの奢りってことはないと思うけれど、そう言われると、割り勘でも悪い気はしないな。




 次の土曜になった。

 今日は例のテーマパークに行く日だ。


 まひるを家の前まで迎えに行き、高速に乗ってパークを目指す。まひるは飲み物とかお菓子を買ってきてくれて、車の中で食べながら、ドライブ気分でアトラクションの目星をつけたりしながら目的地に向かった。


 まひるをみると、メイクを頑張ってくれたのかな? 

 今日はいつにも増して可愛い。っていうか、大人びていて、きれいだ。


 服装も動きやすいけれど、適当じゃない。お金をかけられる訳じゃないのに、今日を楽しみにして時間をかけて選んでくれてるのがよく伝わってくる。


 たとえセフレでも、こんな子と休日を一緒に過ごせるのは運がいいんだろうな、と思う。


 時間より早めに着いたので、車をパーキングに入れて車中でオープンを待つ。


 あ、チケット代のこと話さないとな。


 「チケット、割り勘でいいかな?」


 すると、まひるがゴソゴソとカバンから何かを出す。紙の封筒をあけると、パークチケットが2枚入っていた。


 それもバースデー用の特別なヤツだ。


 特別なイラストが入ってるとかで、事前に列んで抽選に当たって、ようやく買えるレアなチケット。


 この前、テレビでもやってた。転売すれば何倍もの金額で売れるらしい。


 

 なんでこんなの持ってるんだろう。



 胸の中がぞわぞわして、まひるの声が、遠くの歓声のようにフェードアウトしていく。


 俺の頭の中では、嬉しさを通り越して、猜疑心が芽生えていた。


 『こんな特別なチケット。普通に使うわけないじゃん。前の彼氏との余り物なんじゃないか? きっとアプリ使ったのも、その失恋がらみだと思うし。それでチケットが余って、もったいないから俺を誘ったとか』

 

 そう思い至ると、自分でも驚くほどの嫉妬心が膨れ上がるのを感じる。


 自分の気持ちをどう抑えたらいいか分からなくて、まひるを自分のものだと、力ずくで証明したくなってしまった。


 俺は、力任せにまひるが座る助手席のシートを倒す。


 まひるは驚いて、こっちを見た。


 俺はお構いなしに、まひるの唇をキスで塞ぎ、まひるのスカートの中に手を入れる。そして、そのままレギンスをずり下げて、下着の中に指を滑り入れた。


 幸い、周りの車は無人でフロントは壁を向いている。

 誰かに見られる可能性は低い。


 俺は自分のズボンのチャックを開けると、まひるの腕をもち、強引に自分の上に馬乗りにさせる。すると、お互いの身体が馴染んでいるせいか、難なく、するりとまひるの中に入った。

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