その一喝は全てを整える……筈
しょうわな人
第1話 言霊を授かる
「ふむ…… 愚僧もここまでのようじゃな……」
霊峰石鎚山の山頂付近の見えにくい場所にある
その側には狼と熊がいた……
「そなたらも愚僧につきおうてよう頑張ったの…… 無理やも知れぬが愚僧が死んだならばこの身体を頂から放り投げてくれぬか? 土となりてこの霊峰の一部となりたいでな……」
狼も熊も首を横に振って拒絶する。どうやら僧侶の言葉を分かっているようだ。
時は平安後期。僧侶は己の欲を鎮める為に十二の歳に霊峰石鎚山に入山し、これまで過ごしてきたが……
「ふっふっふっ、
狼も熊も僧侶の顔にその鼻面を近寄せる。
「ほっほっ、愚僧の弱い心がそなたらをこうして野生より引き離してしもうた…… それについては死せる愚僧は謝るしか出来ぬ。すまなんだな……」
狼も熊も今にも死にそうな僧侶の身体に寄り添い伏せた。
「おお、暖かい…… 最後まで愚僧につきおうてくれて、感謝、す、……」
こうして僧侶は息を引き取った…… 洞では狼と熊が声もなく鳴いているようだ。そこに何者かが現れた。
『フフフ、孤高の僧侶
圧倒的な存在感とその霊力から石鎚山の守り神かも知れないと感じた狼と熊はまた僧侶と一緒に過ごせるならと一も二もなく首を縦に振った。
『あら2人ともなのね。分かったわ。それじゃ2人とも転生させてあげる。でも記憶は無くなるわよ。それは承知しておいてね。慌てないで!』
記憶が無くなると聞いて途端に慌てだす狼と熊に神と思しい存在はオーラを纏った声を出す。それにより落ち着く狼と熊。
『そうそう、落ち着いて良く聞いてね。記憶は無くなるけれども転生した空礼と出逢ったら物凄く懐かしさを覚えるから、出逢えば必ず大丈夫だからね』
裏を返せば出逢わなければダメだと言っているのだが、狼も熊もそれには気づかない。
『フフフ、ちゃんと出逢えるように近くに転生させてあげるわ。それじゃ、2人とも転生して良い人生を歩んでね〜』
神と思しき存在がそう言って消えた時に洞には初めから何も存在しなかったかのように何もかもが消えていたのだった……
天上界にて……
「ふむ、愚僧は確かに亡くなった筈だが……」
一人の僧侶が曼珠沙華が咲き乱れる空間で途方に暮れていた。
「ここは何処であるのか? まあ考えても分からぬならば考えるだけ無駄であろう」
そう言うと僧侶、空礼はその場で結跏趺坐をして瞑想を始めた。
始めて一秒もせずに【無】になる空礼。それをすぐ近くで見ている存在がいた。
『フフフ、さすがね空礼和尚…… 私が未婚だ…… 違った、見込んだだけはあるわね。決して私が未婚だって告白してる訳じゃないわよ!』
己で墓穴を掘ったのは狼と熊に話しかけていた神と思しき存在であった。
『そのままでお聞きなさい、空礼。無となってる貴方には聞こえてないけど聞こえているのは分かってるわ。色即是空、空即是色。世は全てことも無し。空礼、貴方にはこれから私の創造した世界に転生して貰うわ。貴方は僧侶として知識を増やした。石鎚山に登る12歳までの間に家にある仏典を全て読み解き、理解した貴方の頭脳は素晴らしいものよ。私の世界でその頭脳を活かして生きなさい。欲? 欲は人には必要なものよ。欲が無ければ人は生きられないの。既に貴方も気づいてるでしょう? フフフ、真理? それは私の世界で探しなさい。それが貴方への使命とも言えるかしらね。それと、私の世界では力が無いと生き延びれないわ。だから貴方に力を授けるわ。そうね……
神と思しき存在がそう言うと結跏趺坐を組んで瞑想していた空礼の姿はその場から消えた。
後には神と思しき存在のみが残っていた。
『フフフ、空礼。さすがね。神も仏も人が創りしもの。そして、世界は私たち神や仏と呼ばれるものが創りしもの…… この現状を正確に把握している人が果たしてどれだけ居るのか…… やっぱり私の未婚だ…… また違った! 見込んだ
最後に残念な言葉を残してその存在もその場から消えた。
空礼は無となりながらもその言葉をしっかりと聞いていた。
そして、気づけば空礼は森の中で一人、結跏趺坐をしていたのだった。その姿は年老いておらず、七歳ぐらいの子供の姿となっている。
結跏趺坐を解き無より戻った空礼は己の姿の変化を感じ取っていた。
「むう、愚僧はどうやら転生したようじゃな…… 大日如来のような存在に言われた事は
そう言うと転生した空礼はまた結跏趺坐を組み瞑想を始めた。今回は無にはならずに己の意識を探っている。
「ほうほう、このような事が…… なるほど、確かに元いた世界とは違う世界のようじゃな」
姿は子供になっているが口調は年老いた者が使う口調なのでもしも見る者が居たら違和感を覚えるたろう。
さて、空礼は一体なにを己の内に見たのか……
「ふむ、これが【すてーたす】と言うものか…… 愚僧の名が【クウラ】となっておるの。まあ新たな門出に新たな名を名乗るのも良いであろう。これより愚僧はクウラじゃな。しかし
と己の心配をしているクウラだが神と思しき存在から与えられた力はかなりのものであった。
姓名∶オショウ·クウラ
年齢∶七つ
性別∶
職業∶
宗派∶
体力∶
法力∶無量大数
技能∶【カッ】
※【カッ】
『
文字通り一喝して相手を怯えさす。法力を五込めて一喝すれば弱い魔物は退散する。法力を百込めて一喝すれば魔王すら震え上がる。
『
法力を込めて唱えれば込めた法力に応じて相手を
『
相手に向かって削りたい場所に法力を込めて唱えれば必ずその場所を削れる。込める法力が多ければ多いほど大きく削れる為、小さな魔物を相手にする場合は注意が必要である。
『
己の認識する空間に広い場所を創る。
『
法力を百込めて唱えれば麻で作られた衣服を創り出す。着せたい相手の体格を思い浮かべて唱えると良い。
(裏技)
法力を一千込めて唱えれば絹で作られた衣服が、一万込めて唱えれば防御に優れた法糸で作られた衣服が創られる。
…… …… …… ……
カッは他にもあるようだがこの場では全ての説明を見ることをせずに己の内から戻ってきたクウラ。
「はて…… 法力を込めろと言われてもどうすれば良いのか…… 何ぞで試してみねば分からぬな。ちょうど良い、あの木に向かって一喝してみるとしようぞ」
そう言うとクウラは目の前に立つ樹齢が百年ほどと見られる木に向かって一喝した。
「
すると木は風も無いのにザワザワと揺れる……
「おお〜、すまなんだ。怖がらせてしまったようじゃな。じゃがお陰でコツが掴めたわい。感謝するぞ。さて、このまま素っ裸ではまずいの」
そう言うとクウラは再び
「
と唱えた。そこには麻で出来た、平安時代には無い作務衣と良く似た衣服とふんどしが。
「うむ、よきかな。これでようやく人に出会ってもおかしくない格好になれる」
クウラはその場で衣服を着始めた。何故か見たことがない作務衣のような服も着かたが分かったクウラであった。その事実については転生した際に如来様からの贈り物であろうとクウラは考えていた。
「さて、先ずはこの場から動いて住める場所を探すとしようかの。今世では淋しいからと言って獣を仲間にするのは止めようぞ……」
そう言うとクウラは何処へともなく歩き出すのであった。
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