短編 『三年間の戦π』

水鐘・哲華

ガガガガーッ!


『はぁ...もぉーまぁたぁオマエかよ、虎哲こてつ。』

『へへ...これで520回勝って、41連勝中!アレあれ〜?』


彼らは一つの『席』を取り合っている。

この3年間の高校生活で、一日一回限りの『決闘椅子とり』を空き部屋でし続けている。

その日だけの勝者と敗者を決める。

弱肉強食の世界の地球で生きる生物の天性を全力でぶつけ合い、席を喰らう。

決闘が終われば、それぞれの輪に戻りそれぞれの社会の輪に戻る。


『..まぁまぁ...合計勝利数620回やからまだまだやね?あと卒業まで4ヶ月の間で

 勝てるん?その調子だと俺を超えるのに、失敗できるのは1ヶ月分だけやで?』

少し瞼と眉間を硬くし、話す。


『超えるね!井宮いのみや!!確実に!ただ勝てばいいだけじゃないか!』

と井宮に向かって食い気味に言い、人指を指した。


卒業までの三年間の決闘は彼らにとって、決闘は社会における似た立ち位置を

作る少しの短い運命。

この三年間の決闘は、一年生の時の席の入学式から始まっていた。

高校生活初日から、お互いに慣れない雰囲気の教室でどうぞどうぞと席を譲り合った仲だったが、時間が経つにつれ席を主張するようになり、また総合成績は同じでそれぞれのコミュニティーの立ち位置もリーダーとして仕切るような人物。似てはいないが、似ているという感じだろう。


『明日の勝者は』


              俺だ!|オレだ!


『じゃあな!&じゃあな!』


ズッダ!ズッダ!と家へそれぞれ帰る。

真逆の井宮はいつも浜を歩いて家へ帰る。

今日も綺麗な田んぼに映る夕日をゆっくり見ながらフラフラと歩く。

もう卒業と言うのが身に感じれない。


『...もう卒業か。俺は阪大工学部で、アイツは一橋大...理系と文系。 

 東京と大阪...ほんとそこだけは分けられてるのが不思議だな。』


『すまない君。』目の前には大きな男がいた。


『え?あ、はい?』

『ここら辺の高校生?ごめんなんだけど...こんな場所を知ってるかい?』


男はバツ印が書かれた地図を見せてきた。


『うーん...ここで言うとあの鳴川の方ですね。ここをずっと左上に行けばいいですよ。ただこの時間帯で行くのは危ないかと....』

『いいえ。情報ありがとうございます、では良い日を....』


と男は素早く、紳士らしく去った。


『なんだあいつ...まぁいいか.......』


”あっ、何か忘れ物してる。”


ダッダッ!!と歩いた道を走って学校に戻る。

夕日はもう見えなくなり、昼が終わりかけている。

あと約30分だろう。


『はぁ!はぁ!ハア!ハア!息が詰まる!ゼェ!ゼェ!』


過疎れた街に日が消えた。いつもの街に学校だけが明るい街になった。

さっきまでゆっくり歩いていたとは思えない程どんどんしんどくなって行く。

焦る具体的な理由はない、なぜか五感がすごくすごく高潮、おかしいのか。


『あの席に!!あの椅子に!!ずっと!今何かを感じてる!!

 忘れ物じゃなくて何か!!...ッ!!いらねぇ!!!』


『ドサ!』カバンを放り投げた。


カバンの音は、僕にとって大切な音だった。

子鹿が生まれ地面に落ちた時の音、小馬が母体から離れ地獄を生まれた瞬間の時。

このドサ!が僕の命運を変える事になった。今まで見えていなかったあの物が。


『走らなきゃ!』


僕は急な坂道を軽々と上る、戻り見せかけた新しい通学路が生まれた様にも感じた。

学校に行くための道は、僕の成長を導く道になったかもしれない。


”ギューン!”


一方。


[三郷中央公園]


『...アイツ、勝てんのか_俺が負けるのか、アイツが勝つのか。

 ずっと引き合いをしていてもオレが負けるのが見えねぇ...』


公園のベンチで横になった。


”ピコーん!”とスマホから通知が来た。


『あっ、やべもうこんな時間だったのか。はぁ...家帰ったら怒られるんだろうな,,,

 だったらもう少しだけ横になるか...もう怒られてもいいから今はゆっくりしたい。』


”カン!カン!コローン!”


空き缶が転がってきた。


『ああー缶が〜!』と老人がゆっくりと走ってきた。


『よいしょと...おじいちゃん〜僕が拾うから大丈夫だよ〜!』


体を起こして、目の前の空き缶を拾ろとした瞬間だった。


”ギィーー!!”


『!?なんだ!この音!イスの音か!?それがなんで今聞こえるんだ!?

 おじいちゃん!さっき何か聞こえたか!?』


『...そうか、そうか。君か。席が見える青年よ...』と老人は言った。


『はぁ!?どど言う意味だよ!?』

『君は今から修行をしてもらう。大丈夫、時間は止まる。』


          |パッ!!!!|


風船が割れたような音が鳴った瞬間、目の前が白黒の世界になった。


『ようこそ、取り合いの世界へ。君は席が見える人だ。』

『は、はあ!どう言うことだ!?』



[四ツ辻古墳付近]


『はぁはぁ...やばい、すげぇ疲れる。夜が始まっちまう...』


”ズサ!”と近くの木の元に座る。


『...何忘れてるんだっけ...あの男から』


|では教えてあげましょうか?|


『はぁ!?さっきの!?....結局あそこにいけたんですか?』

『ええ、あなたに教えてもらえなければ目的が達成できなかった...

 そこで今度はこちらが恩返しと言う形です。』


と紳士な男は小さな石を渡してきた。


『これは石と言う存在の石です。誰にも揺るがない石。

 雨風に吹かれても石は石です。この石を持っていてください。』


『...石、ただの石なのか...?ってどう事なんですか!?』


『いつかわかります。その石の意味が。だから絶対に離さないでください。』


男はまた姿を霞に消した。しかし最後にボソッと何喋った。


|メデューサ、人は恐怖で石になる。永久に変わらずの...|


『....石。ただの石...ってやっぱりただの石じゃないか!?』


”ゴゴ!”


その瞬間、山鳴りが起き地面が揺れ始めた。


『...えっ。崩れる。地震だ...』


”ゴォー!....バゴォーン!”


と地面が崩れ、僕は落ちた。視界が一瞬で世界が変わったかのように見えた。


『....くくぅ〜...!!ってぇ...打撲確定、内出血大サービス...まぁ保険あるしいいか。』


としばらくすると、月の光が見えた。


『今日は満月か。新月になったら、時期によっては鰻の子供が生まれるんだな...泣けるぜ...鰻パイを魔改造してあの粉を抽出して、ビンにぶち込んでやるか...』


”コロ...”っとポッケから石が落ちた。


『さっきの石ころか...ちょっと今な...頭を打ったからかわからないんだけど、想像が無限に出てくるんだ。じゃあ、まずお前が世界地図に自分が載るとしたらどこに載ったら嬉しい...?わからなかったら、お前が今ここにいる意味なんだ...?石...?』


”....." 石は何も反応しない。


『あぁ、そういう事か。お前は誰からも何をされても変わらない存在。

 だから意思はいしって読むんだな。お前の存在に気づかせられたよ。』


|意思があれば、体もいらないんだな。俺は変わらないもんな。|


『自分は社会にいるもんな...俺は石だ...この大きな森にいる石。

 俺ら人間は勘違いをしている。自分たちが自然界で一番だと...

 けど僕らは、全て相互の関係でお互いの短所と長所があって

 そのギザギザな所が重なってできて成立している...』


|...うん...そうだよね。きっと。あいつにも言わなきゃ...|


満月が、自分が見ているんじゃなくて見られている様にも感じた...

月光が心を閃光様に透き通って、僕は光を追って学校に向かう。




[引き合い]



『少年、君はさっきの私の席を取れるまで...引き合ってもらう』

『...席って言うのは...どこにあるんだ...?』


”ガァー!”と老人の手が一瞬消えた。


『.....取ったのか...!』


老人の手は、素人の自分でも達人の領域に達しているのがわかった...

人間社会における人の役割を物理的にずらせれる...


『この椅子を見るには...囚われない事だ。人の目を気にしない...

 意味を壊せ、空気を壊せ、理性を壊せ、複雑を壊せ。

 これらの四つの事を学べ。青年。』


......


『おじいさん...これって今まで引き継がれていっているのか?』

『もちろん...私もそうしてきた。』


”こう言うのをカエルの子は蛙って言うよな...”


『そう、この力を持った歴代の者たちも私と同じ運命をしてきた...

 小さい時は違っても終点は同じである...君もそうなんだよ。』


       ”じゃあその言葉、オレに効かない”

   

           |....グッザァー!|


  『.......ッ!!...青年!?...今の引きは!?...血!!!?』


      ”オレ、お前を殺してるから。道が違うわ。”


今まで何回も聞いた言葉、カエルの子は蛙..オレが一番殺したかった言葉。

頑張った人生の自由を否定する言葉...!その言葉が嫌いで嫌いで...自分の家系だとか

部外者が決めつけてくるのが...嫌だ。ベロを掻き切ってもお前を許せない。


        ”とっとくだばれ高齢害虫”


『.....青年...!!それは...!!!』


|バン!バン!|頭に五発。


『わかった。席を奪う方法は単純じゃないか。』


”席が見えないように、取られない様にすればいいじゃないか!!!”


周りの白黒の世界はもうすでに消えていた。そして僕が最も欲しかった!銃が手にある!!

....自由と言う傲慢が僕の脳に住み始めてきた...ああ気分がいい!!これが一番

僕にとって過ごしやすくて生きやすかった...僕の社会的地位は!!


『奪って!!奪われないように消すんだ!!ようやくこの席に座れた!!』


Dot to Dot点と点...だ!終着の席!!そこに座れたんダ!!やることは!アイツの席を壊して無限の一次元を作ってやる!!!”


|シューン...!|と雨雲に隠れた雷の様に雨より速く走り駆けた。


もうあの椅子を壊して、この勝負を終わらせる!!!


[晴明学園学院高校 3階 面談室]


『あぁ、ここだったな。さっきの俺はこの席を取ることで自分を見せつけたかった...

 けどそれはもう必要ない!!アイツが取れないようにぶっ壊してやる!!!』


|カッチャ|弾を入れて狙いを定める。


『終わり!終わり!終わり!...しゃぁぁ!!!』


|虚しいな...お前がそんなに椅子を憎んでいたなんて。|


『ああ”?...お前か。どうした!お前の地位はもうなくなるんだぞ!』

『...それがどうした?僕は僕だ。もう椅子の引き合いで地位を決めるのはやめないか?』


|カッチャ!!|狙いを変えた。


教室の部屋が異様な空気に包まれる。ただの空間、仕切が膨張し始めた。

どんどん拡大する。そして教室は僕らだけの決戦場教室になった



    |もう意味はあるんだよ / 行為に意味があるんダ!!|



”バン!”と高速の何かが僕を貫いた。

その時、アイツの顔はいつものとは違った顔だった、決戦の顔だった。


『もう..終わりか!?俺はお前の位置を壊す!!俺だけのイスを守るんだ!!』


|ぽた、ぽた...ジワ...|


痛みは後から襲ってきた。白色のシャツが赤染まってズボンまで染みる。

不幸中の幸、大動脈は何もなかった。


『...痛いな...けど僕の意思はじゃあ効かない。』

『意思か...お前らしいな!けど体ってのは限界があるだろ!?どう足掻いても無理だ。

 それにそんな意思だけじゃあオレには勝てない。』


|そうか?...じゃあくれてやる。ほら。|


"ベチャ....”


『お前!?...まさか目をくり抜いたのか!?』


(あの時僕は気がついた、僕はそこらの石と変わらない生き物だと。だからもうボロボロになってもいいと思えるんだ。僕はもう居る事が幸せだ。)


”コロ”と目に石を入れた。


『...今から僕の意思は石から意志に変わるよ』


中で石が割れて、石からツルのような物がどんどん目から溢れ出す。

ツルが全身を包む。野生界で死ぬ様な悟り何かに段々近づいている気が

ずっと続く、僕にとっての最初で最後の生き方。


『...はぁ”!?ば、バケモノ...ツルが体を四次元的に動いていやがるな、常にずっと動いている。

 四次元の動きか?見えるな?』


何かものすごく、綺麗な景色が見える。真っ白な世界の中が目がないのに見える。

今日の月光が美しく自分を照らす。


”シュルルル!!バシ!!” 足を掴まれた。


『や、やばいな。コイツの席はもう意味がない...コイツは進化してしまったんだ。』


”意思の完全上位、意志絶対正義の実行に”


ツルがゆっくりと地面を侵食しながら、こっちへ向かってきている。

周りに花を咲かせながら、ゆっくり近づいてくる...

まるで自然に寝っていた神が起き上がっている様だった。


『.........』

『...オレの足が...か、やるしかないなぁ?』


”バン!バン!...ビチャ、ビチャ!” 


『あ”!あ”!...これで抜ける......』


絡んでいた足に打って、無理やり体から離れさせた。

そうすると、ヤツはオレの足をもって体に取り込んだ...

オレはコイツには勝てない、そう思えた。


『......なぁ、なんで俺の足を取り込んだよ...』

『................』無言でこちらを見てくる。


『もう...いい加減してくれ!!これ以上誰から何か奪われるのは限界なんだよ!!

 お前が!席をまた握るがずっと嫌なんだよ!ああ”!そして今度は俺の足奪った!!!あ”あ”』


|ブッ殺す!!この部屋も!!思い出も!!ここで全部ぶっ殺す!!|


”シューン!グッサ!!” 疾風の様な速さで持っていたナイフを草まみれの顔に刺した。


しかし、その行動がアイツを成長させてしまった。


『もういいんだよ。意味とかね。じゃあね。』と小さい声が耳元で聞こえた。


その瞬間!


”ゴゴ...!!ザァー!!”と部屋では豪雨が降り、ヤツの体がどんどん大きくなる。


さらに教室からツルが溢れだし、学校全体が囲われ大きなヤツに飲み込まれいく。

学校全体から、周囲の家までを巻き込んでゆく。


『...なぁ...?まだ席は壊せてないじゃやないか!!...ヨォし”!やってヤル!』


|シャーン!...タッタッ!!| 


殴り掛かろうとした瞬間、一瞬アイツの顔が見えた。


『これから石という自然になるんだ。卒業までのこの3年間楽しかったよ。』


             |バーン!!|


『!!!雷!?だと!!??あっ.....』


それが僕の最後の彼との喧嘩だった。





             |卒業式当日|


『三年...組、長谷川涼介!』先生が生徒を舞台へ送りだす。


『.....結局アイツはどうなったんだろうな?卒業式も出ずにな?』

『噂では、森へ帰ったらしいぞ...木が好きで好きでたまらなくて...らしいよ』

隣の男二人は、あいつの話をしている。


『三年三組 井宮俊介!....』とアイツの名前が呼ばれた。


『欠席。』 


(だろうな。行方が不明なのにくるわけがないだろ...)


”ダッダッ!バン!”と廊下から誰かが走って、体育館のドアが開けた。


『先生!!遅れました!!!井宮です!!!!』

『は”ぁ”!?なんでお前が!!!???』

『なぁに、びっくりした顔してんのさ!まだ引き合い終わってねぇーぞ!』

『そうだな、あとで最終勝負と行こうか!!』


        

       |そうだよな! /  だな!!!|




もうそろそろ気づかせた方がいいのだろうか...彼らが夢を語ってる事にを。



                         

                               完了...














































 








































































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短編 『三年間の戦π』 水鐘・哲華 @tatsnootosig0

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