異世界ボディビル ~転生先で勇者パーティを追放されたので辺境の村でボディビルすることにした~

邑樹政典

第一部

序章 筋トレしすぎて異世界転生した件について

 俺の名は折原京介。

 この世界『クウィンス』ではキョウスケ・オリハラと名のっている。

 わざわざこの世界と言っているのは、もちろん理由がある。

 もともとはまったく別の世界で生活していたからだ。


 俺はいわゆる《転生者》というモノであるらしい。

 一年前までは日本の新潟県というところに住んでいた。

 県内の大学に通いながら、趣味の筋トレに明け暮れる日々を送っていたのだ。

 地味ながらもそれなりに充実した毎日だった。


 もっとも、その筋トレが俺をこの世界に転生させることとなる。


 あれは毎年秋に行われる学生ボディビル選手権の前日だった。

 俺は少しでも自身の肉体の質感を高めるため、最後の調整を行っていた。

 だが、その調整がよくなかったのだろう。

 過酷な水抜きや塩抜きによって、俺の体は限界を突破してしまった。


 気づいたとき、俺はまるで宇宙を思わせるような暗く無限に広がる空間にいた。


『目覚めなさい、新たなる転生者よ』


 何処かから聞こえる声が、そう呼びかけていた。


『あなたに力を与えます。その力で、世界を混沌から救うのです』


 姿なき声がそう告げると、今度は目の前が光に包まれていった。


 そして、次に気づいたとき、俺は深い森の中にいた。

 それまで着ていたティーシャツやハーフパンツは、ファンタジー世界でお馴染みの旅装束のような服装になっており、腰には長剣、肩には旅道具の入ったカバンを下げていた。


 異世界転生――そんな言葉が俺の脳裏に浮かんだ。

 俺は過酷な調整により日本での生を終え、この『クウィンス』で新たに生を受けたのだ。

 たぶん、冒険者か何かとして。よくは分からんが。


 ともあれ、これ以降、俺はこの地でキョウスケ・オリハラとして生きることになる。


 転生の際、神だか何だかは俺にいくつかの力を与えてくれたらしい。


 まず第一の力は、この世界のあらゆる人種と会話することのできる言語力だ。

 さらにあらゆる文字の読み書きもできるらしい。これは大いに役立った。


 この世界には多様な種族が存在し、俺が知るかぎりでは人間以外にもエルフ・ホビット・ドワーフ・ドラグナーなどがいる。

 もちろん概ねほとんどの種族は共通語というものを使って会話を行う。

 ただ、文字などは地域によってかなり文法が違うのだ。

 この能力のおかげで不思議と読み書きはできるが、もしなかったとしたらまともに生活できなかったことだろう。


 第二の力は、戦士として戦う技能だ。


 俺はもともと筋トレが好きなだけでスポーツらしいスポーツなどはしていなかった。

 しかし、転生後の俺は不思議なほどスムーズに剣を扱うことができた。

 初めて魔物と対峙した際も、まったく臆することなく討伐できたほどだ。


 どうやら俺は戦士という職業につき、Aランクの剣術スキルというものを体得しているようだった。

 ただ、これは別に特別高いというわけではないようで、さらに上のAA、AAA、Sランクが存在しているらしい。

 つまり、そこそこ剣術が得意、という程度のようである。残念。


 第三の力は、加護スキルというものだ。

 これはあとで知ったのだが、転生者のみに与えられる特別なスキルのようだった。


 スキル名は《トレーナー》という。たぶん、衣服の種類のことではないと思う。

 効果は『仲間の成長を促進し、能力を強化する。強化量はトレーニングを積み上げるほどに上昇する』というものであるらしい。

 いわゆる強化付与スキルということになる。


 このスキルは、とくにパーティメンバーに重宝されることとなった。

 成長促進の効果はとくに大きく、初心者とされるような状況からわずか一年足らずで、大陸有数と言われるほどにまでその力量を高めることができたほどだ。

 また、本来ならば付与魔術を使える魔術師に魔術の維持をしながらでないと得られない強化付与を、その場にいるだけで担うことができるという点も大きかった。

 

 俺はこれらの能力を買われ、冒険者のパーティに仲間入りすることとなる。

 そして、約一年間、彼らと一緒にこの大陸を西から東奔西走と駆けめぐり、ダンジョンと呼ばれる様々な洞窟や遺跡を攻略していった。


 剣術Sランクを持つ剣聖のアリオス。

 魔術Sランクを持つ上級魔術師イルヴァ。

 法術Sランクを持つ大司祭ロナン。

 弓術AAAランクと短剣術AAAランクに探知Sランクを合わせ持つ狩人ラシェル。


 今となっては俺の能力が霞むくらい優秀な仲間たちだ。


 長い旅路の末、やがて俺たちは数々の冒険の成果から勇者パーティとしてシュワルツェーネ王国からの任を受け、魔王討伐を目指すことになる。

 筋トレに明け暮れていたころも充実していたが、それともまた違う輝かしい日々だった。

 仲間たちと協力し合い、一つの目標に向かって邁進する。

 団体スポーツ経験の乏しい俺にとって、それは初めての体験だったのだ。


 そして、いよいよ魔王の領地とされる北の大地へと出発する前夜――。


 俺は勇者パーティを追放されることになる。




      ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




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