白の死塔の中

「ここが『白の死塔』の中か……」


 現在、誠也がいるのは広い部屋。

 塔の中だというのに天井には太陽のような光が存在し、風が吹いていた。

 そんな部屋の中心に赤く大きなトカゲがいた。

 そのトカゲは体長三メートルはあり、四本の足の先には鋭い爪が伸びている。


「サラマンダーか……一階目から強敵だな。だが……」


 誠也は自分の影に手を突っ込み、六角形の白い大盾と緑色の戦斧を取り出す。

 大盾を左腕に、戦斧を右手に装備した彼は二つの瞳を怪しく輝かせる。

 

「今の俺の敵じゃない」

 

 誠也は両脚に力を込め、地面を蹴る。

 突撃してくる彼を排除するために、サラマンダーは口から炎を勢いよく吐き出した。

 襲い掛かる高熱の炎を大盾で防ぎながら、誠也は前に進む。


「この程度で止められると思うなよ、トカゲ風情が」


 誠也は戦斧を振るい、サラマンダーの首を斬り飛ばす。切断面から血が噴き出し、床が赤く染まる。

 一撃でモンスターを殺した彼は、まるで鬼の如く強く……そして恐ろしかった。


「討伐完了……さてモンスターの素材を回収するか」


 誠也はウエストバックから次元袋を取り出し、その袋にサラマンダーの死体を入れる。

 素材を回収し終えた時、上に続く階段が壁から現れた。

 だがその階段を誠也は上らない。


「〈隠蔽看破〉」


 彼はスキル【探索者】を発動した。

 すると部屋の壁の一部が光り出す。

 誠也が光っている壁に手を当てると、その壁が崩れ、扉が現れる。


「これか……最上階に行ける扉は」


 隠し扉を見つけた誠也は兜の中で、笑みを浮かべた。


『白の死塔』の一階には最上階に行ける扉が存在しているのだ。

 一階一階上って、モンスターを倒すのは悪手。

『白の死塔』を攻略するには階段を上らず、隠し扉を使って一気に最上階に行かなければならない。


「あの守護騎士が言ったことは本当みたいだったな。……さて、ボス部屋に行こうじゃないか」


 誠也は扉を開ける。

 すると彼の視界が白く染まった。


 そして気が付くと、知らない広い部屋に誠也はいた。


「ここが……最上階?」


 誠也は周囲を見渡す。


「なんというか……凄い場所だな」


 天井には豪快なシャンデリア。

 壁側にはいくつも並べられた石像。

 そして……大きな玉座には白い人型モンスターが座っていた。

 そのモンスターはトカゲの顔をしており、太長い尻尾を伸ばしている。

 額には黄金の宝石のようなものが埋め込まれており、背中にはノコギリの如くギザギザの刃を持つ大剣を二本背負っていた。


「リザードマン?いや……普通のリザードマンじゃないな。リザードマン・ロードってところか……」


 大盾と戦斧を装備し、構える誠也。

 そんな彼を見てリザードマン・ロードは玉座から立ち上がる。

 そしてリザードマン・ロードは背負っていた大剣二本を両手にそれぞれ装備した。


「来い、トカゲ野郎」


 誠也がそう言った直後、リザードマン・ロードは一瞬で距離を詰めた。

 彼の懐に入ったリザードマン・ロードは左手に装備した大剣を振り下ろす。

 迫りくる大剣の一撃。

 それを誠也は大盾で防ぐ。

 大きな金属音が鳴り響き、火花が発生。

 誠也の両足が床に沈む。


「重い……なああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 誠也は盾で大剣を押し返し、戦斧でリザードマン・ロードの腹を斬る。

 しかし彼の一撃はリザードマン・ロードのもう一本の大剣で防がれてしまう。


「防いだのは失敗だぞ。〈武装破壊〉!」


 誠也がスキルを発動した直後、リザードマン・ロードの大剣が甲高い音を立てて砕け散った。

 武器が一つ壊れるのを見て、リザードマン・ロードは目を大きく見開く。


「隙あり!」


 誠也はリザードマン・ロードの首に向かって戦斧を振るった。

 しかし戦斧が当たる直前、リザードマン・ロードは素早く後ろに下がり攻撃を躱す。

 

「クソッ。そんなデカい大剣を持ってんのになんで速く躱すことができるんだよ。……少し本気でいった方がいいな」


 誠也は一度息を吸い、吐く。


「〈盾強化〉〈斧強化〉〈超加速〉」


 彼はいくつものスキルを発動し、己と己の武具を強化。

 そしてさらにスキルを発動する。


「〈魔気〉」


 右手に装備していた斧から黒い陽炎のようなオーラが発生。

 黒いオーラを纏った斧を構え、誠也は脚に力を込める。


「いくぞ」


 誠也は地面を強く蹴り、弾丸の如き速さでリザードマン・ロードに突撃した。

 そして戦斧を力強く横に振るう。


「キシャアアアアアアアアアアアア!」


 リザードマン・ロードも大剣を力強く振るった。

 斬撃と斬撃が衝突し、大きな金属音が鳴り響く。


「オラアァァァァァァァァァァァァァァ!!」

「キシャアァァァァァァァァァァァァァ!!」


 誠也とリザードマン・ロードは雄叫びを上げながら、何度も武器を振るった。

 戦斧と大剣が何度もぶつかり合い、火花が飛び散る。


(このままじゃあ、埒が明かない。なら)


 誠也はスキルを発動する。


「〈猛毒魔法〉猛毒煙ポイズンスモーク!」


 リザードマン・ロードの周囲に紫色の魔法陣が出現。

 その魔法陣から紫色の煙が放射された。

 煙を吸い込んだリザードマン・ロードは顔を歪めて、口から血を吐き出す。


「〈呪術〉身体能力低下フィジカルダウン


 誠也が別のスキルを発動すると、リザードマン・ロードは床に片膝をつけた。

 ハァハァと荒い息を漏らすリザードマン・ロードに、誠也は攻撃を仕掛ける。

 だがその攻撃は当たらなかった。


「キシャアアァァァァァァァァァァァァァ!!」


 リザードマン・ロードと誠也の間に氷の壁が出現。

 誠也の攻撃は氷の壁によって防がれた。

 

「コイツ魔法も使えるのかよ」


 チッと舌打ちした誠也は盾で氷の壁を殴り、粉々に粉砕した。

 その直後、大きな光の剣が誠也に迫った。

 慌てて彼は戦斧で光の剣を弾く。

 光の剣を放ったのは他でもない。リザードマン・ロードだ。

 リザードマン・ロードの周囲には無数の光の剣が浮かんでいた。


「光と氷……面倒だな。こんなのを隠していたのか。……仕方ない。奥の手を使うか」


 誠也は目つきを鋭くし、告げる。


「〈狂化〉!」


 次の瞬間、誠也の身体から赤黒い炎が発生し、彼の目が赤く光り出す。


「さぁ……いくぞ」


 危険を感じたリザードマン・ロードは光の剣を飛ばした。

 高速でやってくる無数の剣。

 それを誠也は戦斧で全て叩き斬る。

 そして目に見えない速さでリザードマン・ロードの背後に移動した。


「喰らえ」


 誠也はリザードマン・ロードの背中を戦斧で斬り裂く。


「キシャアアアアアアアアアアアア!?」


 血を流し、悲鳴を上げるリザードマン・ロード。

 誠也は目の前のモンスターを殺すために、戦斧を何度も振るう。

 右腕を切断し、左脚を切断し、胸を斬り裂く。


「キシャアアアアアアアアアアアア!?」


 血を大量に流すリザードマン・ロードは顔を恐怖でゆがめた。

 今……リザードマン・ロードの瞳には、誠也が途轍もない化け物に見えていた。


「死ね」


 そう言って誠也はリザードマン・ロードの首を斧で斬り飛ばした。

 リザードマン・ロードの頭は床の上を何度もバウンドする。


「討伐完了……疲れたな」


 誠也は地面に尻をつけ、息を吐いた。

 スキル【狂戦士】の〈狂化〉は、肉体を大幅に強化することができるチート能力。

 だが強力なぶん、肉体の疲労が激しい。


「さて……リザードマン・ロードの皮でも剥ぎ取るか」


 立ち上がった誠也はリザードマン・ロードの皮をナイフで剥ぎ取る。

 剥ぎ取り終えた後、皮は次元袋の中に収納した。

 その時、なにもないところから金色に輝く箱が三つ出現。

 そして壁の一部が扉へと変わる。


「よし!まずは報酬確認を」


 誠也は箱の一つを開けた。

 箱の中に入っていたのは、一冊のスキルブック。


「〈鑑定〉」


 誠也はスキル【鑑定士】を発動した。


<><><><>


 スキル:【精霊王】〈精霊召喚〉あらゆる精霊を召喚することが可能。〈精霊強化〉召喚した精霊を大幅に強化することができる。


<><><><>


「これだ……これがあれば故郷を……家族を……聖ちゃんを救える!」


 スキル【精霊王】。スキルの中で最強と言われるスキル。

 強力な精霊を召喚し、戦わせるという能力。

 タイムリープ前の世界では、『白の死塔』を攻略した守護騎士がスキル【精霊王】の力で何千ものモンスターを殲滅した。


「さて目的のものは手に入った。残りのものも確認しよう」


 誠也は二つ目の箱を開け、中身を見る。


「アレ?またスキルブック?」


 箱に入っていたのは、二冊のスキルブックだった。


「おかしいな……あの守護騎士は『白の死塔』で手に入ったのは【精霊王】だけって言ってたよな。なのにスキルブックが二冊……とりあえず調べてみるか。〈鑑定〉」


<><><><>


 スキル:【賢者】〈知識の髪の加護〉修得したスキル全ての性能を二倍に上昇。〈未来予知〉数秒先の未来を見ることができる。体力を大量に消費すれば数か月、数年の先の未来を見ることができる。〈賢者の全力〉一定時間、習得したすべてのスキルの性能を十倍まで強化することが可能。

     【愚者】〈愚かな者〉自分よりも強い相手と戦う時、習得したスキル全ての性能が二倍に上昇。〈最弱化〉一定時間、敵の全能力を十分の一まで下げることができる。


<><><><>


「スゲー……こんなスキルがあるのかよ」


 誠也はしばらく呆然とした。

【精霊王】なみの強力なスキル二つ。

 どちらか一つ持っているだけで、大抵の敵を簡単に倒すことができるだろう。


「最後の箱には……いったい何が入ってるんだ?」


 ゴクリと唾を呑み込んだ誠也は、最後の箱を開けた。

 箱の中身を見た彼は、兜の中で顔を歪める。


「なんだ……これは」


 箱の中に入っていたのは……ドクンドクンと動く心臓だった。


「……〈鑑定〉」


 なんの心臓なのか気になった誠也はスキル【鑑定士】を発動した。


<><><><>


 アイテム:《吸血女王の心臓》食べると最上位吸血鬼になることができる。


<><><><>


「吸血鬼……か」


 吸血鬼。遥か昔に滅んだ種族。

 血を吸い、夜に活動する存在。

 どうやらその心臓のようだ。


「心臓って……別にいらないし置いていこうか……いや待てよ。今あるスキルを使ってこの心臓を武具の素材にすれば」


 ブツブツと言いながら考えること三十分。


「よし。気持ち悪いけど、持ち帰ろう」


《吸血女王の心臓》と三冊のスキルブックを次元袋に収納した。

 そして誠也は扉に向かう。


「さて……帰ったら新しい武具や防具を作るか」


 そう言って扉を開けた次の瞬間、視界が白く染まった。

 気が付いた時には塔の外に誠也はいた。

 

「なんとか無事に出れたな」


 ホッと安堵した時、『白の死塔』が白い煙と化して消え始めた。


「え、嘘!?」

「塔が……!」


 周囲に居た人達は騒ぎ出す。


「ここで手に入れたいものは手に入れた。あとは……準備するだけだな」


 誠也は家に向かって帰った。

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