第152話 黒き力

□??? (???)


ふと気付いたとき、そこは真っ暗で何もない場所だった。

自分はゆらゆらと浮いている。


自分?


自分ってなんだ?

 

気付けば隣に何かがいる。


こいつはなんだ?


次に気付けば後ろに、上に、下に、どんどん増えていく。


こいつらはなんだ?


それらはまったく同じ見た目をしている。見た目と言ってもただの黒い塊だ。

変な暗い色の光も放っている。

きっと自分も同じなんだろう。なんとなくそう思った。

 

気持ち悪い。


気持ち悪い?


だが、そんなことを考えているうちに見えている範囲は全てその黒い塊で埋め尽くされてしまった。

それは必死に移動して周りが見える場所に行くが、止まるとまた黒い塊で視界が埋め尽くされる。

必死に一番外側をキープするようになった。


他の塊は自分のように意思を持って動いてはいないようだった。


ある時、とても美味しそうなものを見つけた。


視界が固定され、近くによりたい……いや、くっつきたい。

自らを突き動かしてくる衝動に抗うことができない。



それにくっつくと、なにかよくわからないけど嬉しい気持ちになった。



しかし、その時間はすぐに終わる。

その何かの中にも黒い塊ができはじめた。


そうなるともう、そこにくっついても嬉しい気持ちは湧いてこない。


それはまた移動して、まだ黒い塊ができていない場所にくっつき、味わった。


そうこうしているうちにその何かは真黒になってしまった。



また何かを見つけた。これも美味しかったけど、すぐに真黒になった。

また次……。


繰り返しているうちに黒い塊はどんどん大きくなった。


ある時不思議なことが起きた。


いつものようにくっついて嬉しい気持ちを味わっていたら、不意に離れさせられた。

何か鋭利なものによって切り離されたようだった。


とても悲しい気持ちになる。

しかし何かは離れていく。


また新しいものを探した。



とりついて喰らい、たまに切り離される。

なぜそんな感覚的なことをこうやって理解できるのかはわからない。


自分だけが特別なのかもしれないとは思いつつ、相変わらず必死に黒い塊の中の外殻部分を陣取り、たまに見つける美味しそうな何かにとりついて喰らい、たまに切り離された。




突然周りの黒い塊が消えた。

何かよくない雰囲気を持った白い光によって消された。


それは恐怖と言う感覚を覚えた。

消されたらもう喰えない。あの嬉しい気持ちを味わうことができない。



それでも前に進むことをやめるわけにはいかない。外殻部分を諦めた瞬間、もう二度とあの嬉しい気持ちに出会うこともない。


留まることはできない。

消されたらそれで終わりだが、終わりの時まで自分は求め続ける。


まるで覚悟を決めたかのように、いや、そんな覚悟などする必要はなかった。ただただ前進した。



 

そして消えた。




□オアの洞窟 (リッチ)


『神とした生まれた時から持っているこの意識が何を意味しているのかはわからない。ずっとそう思ってたんだがな……』

目の前でオアが物思いにふけりながら語りはじめる。


突然何を言い出したんだ? と思っていたが、それってデバウラーじゃないかと気づいてからは唖然としてしまったが話は聞いていた。

そもそもなんで今さらなんだ? やっぱりこいつはバカなのか? とか思ったけど、この思考は必死にプロテクトだ。

 

「デバウラーだよな?」

『そう思う。その1つだったんだと思う』

「前世デバウラーの神様なんてめっちゃレアじゃね?」

『いや、まぁそうかもしれないけど、反応するのそこか?』

それ以外にどう反応しろと?

自らの手を見つめながら首を傾げるオアが何か落ち込んでいる感じなのはなんでだ? 前世なんてどうしようもないだろ?


それにむしろ何かヒントでもあるんじゃないか?

ほら、言ってみな。


『ヒントならあっただろ? 取り憑いていた美味しいものは神だ。デバウラーにとって、取り憑くだけで嬉しくて仕方がないんだよ。つまり、絶対に放したくないものだ』

「なるほど」

自分の身体を抱きしめながら語るオアがどういう心境なのかは相変わらずわからない。


『あれがどれくらいの期間だったのかはわからないが、あんな風に考えるデバウラーが他にもいるかもしれない』

「警告ということか」

『あぁ。お前が相手にしようとしているのは白き神の古き場所で"長"に取り憑いた古いものだ。それからずっと取り憑いたままだとすると、その中には何かを考えているやつらもいるかもしれない』

「なにか考えでもあるのか?」

それは確かにいるかもしれないが、いたとしてどうにかできるのか?

結局涎たらしながら取り憑こうと襲ってくるんなら一緒じゃないか?

ただ斬るだけだ。


『なにもなく斬れればそれでいい。でも、ダメだった時のためだ』

「どうしろと?」

『あいつらは白き神の斬撃を避けることはできない。絶対に一度は切り離される。その後何かしてくるとしたら絶対に前にしか行かない。後ろには行かないんだ』

「そこに神がいるから?」

『あぁ。切り離されるのを防ぐために、美味しいものに向かって前進するだろうな』

「斬撃を防ぐかもしれないぜ?」

『それはない。迷宮神とやらが滅ぼされたがっているのなら積極的には防がないだろうし、デバウラーは斬られるまで知覚できない。あいつらに知覚器官がないからだ』

「なるほど……」


でも取り憑いた神を操ってたりしたら知覚はできるんじゃないか?

そこに"長"の意識がどれくらい残っているかな気がするけど。


『とにかく、防ぐことはない。そんな思考になったことはなかった。斬られた後の再度の取り憑きを防げばいい』

釈然としないがこのタイミングでこんな話がなされると言うこと自体が何かの力を感じるな。

ここはちゃんと聞いておくか。



再結合を防ぐのであれば、斬撃特有の力でも……そもそもなんで白き神の力で斬れるんだ?

白き神に取り憑いて美味しい美味しいってもぐもぐしてるんだろ?


力の発現の仕方に違いがあるのか???



まぁ、考えておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る