第149話 再集結

俺たちは早急にチャットを終了させた。

総理大臣には作戦の成功を祈ると言われ、日本をよろしくお願いしますと伝えた。


俺はモンスターになって人間たちとの関りは減ったけども、俺のことを覚えていて、声をかけてくれる人もいる。

なにより戦女神をはじめとする探索者たちが太平洋に行って戦うには日本が平和である必要があるだろう。後顧の憂いは断ってもらう必要がある。


そして皇ちゃんと早紀とは新宿ダンジョン協会で合流し、戦女神の帰還を待った。


戻ってきた彼女たちの表情は暗い。


「お父さん……」

俺は項垂れている夢乃を抱きしめた。


「すみません、師匠せんせい。身動き取れず……」

リーダーである詩織が謝ってくるから頭を撫でておく。


「状況を教えて欲しい」

「「「「「!?」」」」」

俺が物憂げな表情を作って語り掛けると、全員はてなマークが浮かんだような顔をしている。

どうしたんだ?


師匠せんせい、喋れるの?」

「ん? あぁ、そうだった。リポップの間に出会った神様が話せるようにしてくれたんだ。そう言えば、配信でいきなり喋ってみんなを驚かせようと思ったんだった。内緒な」

「お父さん……」

しまった。悲痛な雰囲気を全てぶち壊してしまって、夢乃がジト目で眺めてくる……。


「すまん。話を聞かせてくれ」

「はい」

みんなを代表して詩織が話し、時折他のメンバーが補足してくれた。


白い何かが現れ、疑問に答えてくれて、最後に光ったと思ったら姫乃がいなかった。


う~ん、どういうことだ?

あんまり敵っぽくないんだけどな、その白い何か。


むしろ迷宮で白い魔力となると、白き神々しか思い浮かばない。

さすがに長とか守ってことはないんだろうけど、白き神に連なるものが迷宮に囚われていてこのタイミングで解き放たれたってことか?


詩織は死を覚悟したって言うけど、魔力を収めて会話するなんて、かなり理性が残っているんじゃないかと思う。

もしかしたらデバウラーに囚われていたとか?


いずれにせよ、その白い何かに姫乃を害する意識があるようには思えない。

なぜ連れて行ったのかには心当たりもある。


おそらく守である雪乃の影響なんじゃないか?

『懐カシキ匂イ』っていうのは守のことを指していた場合、雪乃とよく似ている姫乃のことだろう。

夢乃はどっちかというと前々世の俺に似ていて、雪乃や姫乃とはちょっと違うからな。


そして俺は転生神様の真似をして覚えた記憶を覗く魔法を使わせてもらう。


「詩織。ちょっと記憶を覗かせて欲しい。その白い何か。俺なら見えるかもしれない」

「はい。そういうことなら。どうすればいいですか? 頭開きましょうか?」

「ないから。どんな猟奇的な彼氏やねん。魔力で探るだけだから」

恐ろしい発言だけど、きっと詩織なりのボケだよな?


と思いつつ、魔力を詩織の頭の中に込める。

ここで物質化して脳みそをぐちゃぐちゃにかき混ぜたりしたらやばいやつだけど、そういうことじゃないからな?

あくまでも魔法で記憶を覗くだけだから。



すぐにイメージが見えて来た。


詩織の恐怖も感じるが、その相手の姿を見て俺はやっぱりなと思った。


詩織たちは顔も体も何もかも視認できなくて、ただそこに何かがいるというとらえ方だったらしいが、俺には顔が見える。

渋いおっさんだ。しわも深いから、もし人間だとしたら老人に近いくらいの年齢だろうな。


そして白いローブを羽織っている。


あれは白き神の誰かだ。

間違いない。


そして白き神であれば、守神の生まれ変わりである雪乃の娘を害するとは思えない。

詩織の記憶を見る限り確かに記憶に混乱が見られる。


この感じはデバウラーから救い出したゲシャに近いものを感じるから、やはりこの白き神は迷宮神と同様にデバウラーに取り憑かれてたんだろうな。


もしかしたら白き神の古き世界で迷宮神と一緒に取り込まれた可能性だってある。

だとしたら意識を手放していてジュラーディスのことも、今までの間に取り込まれた世界のことも知らなくても説明はつく。


なぜ今になって解放されたのかはわからないが、もしかして迷宮神に何かあったのか?


会話を改めて追っているが、俺も"従来"というのが気になった。

この神はおそらく自分の意思だけで喋ってない。


何かの影響を受けているように見える。

転生説明神様がその場所の影響を受けているのと同じように。


「相手は間違いなく白き神だ」

「白き神?」

夢乃が恐る恐る繰り返す。その表情は姫乃を心配して悲しげだ。

そんな夢乃の頭を撫でる。


「理由は憶測でしかないから今は話せない。でも、安心していい。白き神が姫乃やお前を害することはない」

「あの白い力は怖かったけど、お母さんのお守りと似た魔力を感じました」

「勘がいいな。はっきりとしたことはわからん。でも、雪乃はその力を持っていた。居場所を探す必要はあるし、この白き神の目的や行動理由を突き止める必要はあるがな」

「わかった。ありがとう、お父さん」

俺の言葉でだいぶ落ち着いてくれたらしい。

心配していたフランや詩織の表情も少し和らいだ。



結論は出た。

やることは変わらない。


「俺たちがやるべきは迷宮神を……いや、迷宮神に取り憑いたデバウラーを倒すことだ。それができれば、姫乃を探すこともできるだろう」

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