第139話 手探り

「焦るな」

映像を見て唖然としていた俺に向かって、説明神様が声をかけてくれた。

心配してくれたようで、その表情は優しい。


「あの巨大な板が崩れ落ちたとしても下は海だし実害はないだろう」

確かにそうだ。

あんな場所に誰も常駐してないだろうし、ランキングボードの破片が流れて行ったとしてもあれだけ細かくなっていたら問題はなさそうだ。


それにしても、なんであんなことになってるんだ?

いよいよ迷宮神がやばいのか?


「あれは間違いなくデバウラーだ。あの暗い光は」

「起きている力を見逃すなってことは、あの光が当たっている部分を見ろと言うことか。作用ってことは」

あれがデバウラーなら、まさにランキングボードに作用して崩しているということだろう。

そもそも材質とかわかんないけど、神の力によるものを崩しているってことだ。


「少しずつ寄ってみよう。もし取り憑いた神格の力も働いているならこちらに気付いてしまうかもしれないから、ゆっくり行くぞ」

説明神様の言葉の通り、ゆっくりと映像が近づいて行ったが、特に太平洋の龍も動かないし、暗い光の動きも変わらなかった。


しかし、作用か……。

暗い光が当たったらランキングボードが崩れているけど、そこに何か原理みたいなものがあるのか?


「わからんな。魔法が当たった時と同じように対象物を破壊しているようにしか見えない」

説明神様の言葉に全面同意だ。

全くわからん。


ランキングボードを崩している力はあきらかに魔力ではない、なんてことも言えない。

違いが判らない。


いや……待てよ?


おかしいだろ。



あの光はデバウラーのはずだ。

なのに触れたら崩れるってなんでだ?

魔法や魔力による攻撃じゃないんだ。


なのに崩れる……。

あのランキングボードには神の力が宿っている……というか、神の力で作られているから、デバウラーに力を喰われたら消えてしまうとか、そういうことなのか?


そう思って眺めると、あのランキングボードはデバウラーに力を喰われて削り取られているということか?

あれ……全部崩した後、あの暗い光……デバウラーはどこに向かうんだろうな?


神の力を求めてどっか行くならいいけど、人の世界に襲い掛かるのか?



「原理はわかったようだが、あれの何がヒントなんだろうな。示されていたものがあれではないのかもしれないが」

説明神様は顎に手を当てて考え込んでいる。

「今すぐ地球に帰れるか?」

「どうしたんだ急に」

そんな説明神様に声をかけると、驚いたようにこちらに顔を向けた。


「ランキングボードを喰らい尽くしたら次はどうなるのかと思って……」

「ふむ。なるほどな。しかし、デバウラーは生命体に興味を示さない。あくまでも神であり、神のエネルギーだ。まだ時間はあるだろう。むしろ、あの状態で迷宮神の本体がどうなっているかの方が気になるな」

もう一回殴り込んでくるか?

しかし、まだ分離する方法が思いつかない。


そもそもあれは俺のせいかもしれない。

最後に放った魔法であいつの3分の1くらい吹っ飛ばしたから、その回復……というか、迷宮神の力が減じたときにデバウラーがより繁殖したとか?

ゲシャにもそんな感じがあった。

あれはオアが吹っ飛ばしまくって、その回復の度に浸食がすすんだ感じだった。


まさか中途半端に傷付けるのが一番まずいのか?


もしくは思いっきり傷付けて出て来たデバウラーを消していくとか……。


わからん。

情報が足りなくて答えが出ない。


「なにか気付いたのか?」

顔を上げた俺に向かって、説明神様が聞いてくる。が、気付いたのはあの力のことじゃない。


「俺が迷宮神にダメージを与えたせいで、デバウラーは勢いを増したのかなと思って」

「ふむ……それはあるかもしれないな。ロデアガルド様もそうだが、記憶にある限りデバウラーと戦う高位神様達は必ず先に分離を行っていた。そうしないとダメージが与えられないからかと思っていたが、取り憑かれたまま神格にダメージを与えると侵食が深まるからなのか」

むぅ……。


そうなるとやはり分離……切り離すしかない。



「あのファナと言う女を連れてきたらマズい?」

「マズいな……というか、そもそも今は不可能だ」

「なんで?」

あんなに気軽に行ってたのに?


「自分で時空をこじあけていけるような高位の神とは違って、私はいつでも気軽に好きな時代、好きな世界に送り込めるわけではない。特定のタイミングじゃないと無理だ。あの時はたまたま行ける場所にオアがいたから送り出したけど、また同じ場所同じ時に行くのは難しい」

そうなのか。


「あとはもう"剣”に頼るしかないか……」

「あのときファナに持たせた剣か?」

俺の呟きに反応する説明神様。"剣"の力のことは知らないのか?

いや、そんなことはないよな。

そもそも説明神様が10万年前の世界で作った剣だし、そこにオアが力を込めて出来上がったはずだ。


「俺の記憶を見てもらえるか? 魂を斬る剣があるんだ。それがあの時の剣だと思うんだが」

「ふむ……」

説明神様は納得したように頷きながら、俺の頭に向かって掌を向けてくる。

こうやって読むんだろうか?


「これは確かにそうだな。見た目もほぼ同じだ。だが、恐らくだけど迷宮神という神にぶつけるには出力が足りない。もっと力が必要だ。そもそも未完成のように見えるしな」

「未完成?」

どういうことだ?

あの時作ったのは説明神様なのに未完成とは?


「力を失ったわけではなく、今はそう感じる。恐らくだが、この10万年の間にもっと強い力を持ったことがあるのではないかと思う。だから、今見ると未完成に見えるんだろう」

「どこかの時代を探る?」

「あぁ。今ならあれから1万年後、つまり9万年前に行けるみたいだから、行ってきてくれ。何かの力を感じる。私は引き続きお前の世界を見ておこう」


その役割分担の方がいいだろうな。

俺が見続けたら、きっと帰りたくなるから……。


そうして俺は地球の確認を説明神様に任せて、9万年前の世界に向かった。

過去に行っている間に地球の時間が進むようなことはないらしいから、そこは安心して光の中に飛び込んだ。


「もしかしたら時代がずれるかもしれないが、大切なのは力だから気にせずな……って、もう行ってしまったな」

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