第92話 新宿100層ボスのリッチ
□新宿ダンジョン(姫乃)
「強い……でも、まだ諦めはしない!ボルカノンスラッシュ!」
「チェインクロス!!!」
疲労を抱えながらも高熱を纏った大剣を振るうフランを支援するために、私は相手を拘束する魔法を唱える。
しかしあえなくどちらも避けられてしまう。
高速で飛ばせる鎖なら間に合うかと思ったが、無理だったか。
「いったん戻って。体制を整えないと!」
「……わかった」
夢乃の指示に悔しそうに従うフラン。
私たち3人ではまだ新宿ダンジョン100層ボスのリッチには敵わない。
というか本当にお父さんじゃないのよね?
強すぎない?
私もフランも別のダンジョンでは100層を突破してその先の深層を探索した経験を持つSランク探索者だ。私はまだ無理だけど、フランはこの前、皇居ダンジョンの100層を単独突破していたくらいだ。
そんな私たちが組んで、さらに妹の夢乃が支援してくれているのにもかかわらず、このリッチに歯が立たない。
私たち3人は部屋の入り口付近まで後退する。
このリッチはここまで戻ると攻撃してこなくなる。
一定時間戦っていると、倒していなくても先に進める。
それに例え負けてもお父さんがやっていた死に戻りが発動されて1層に戻されるだけで死なない。
なのにこのリッチはお父さんじゃないみたい。
そもそもスマホでお父さんとチャットできるから、目の前のリッチがお父さんじゃないのは確定なんだけども。
「精が出るのね。そして、やっぱり強いわね、リッチ……」
「あなたは……」
そこに入ってきたのはロゼリア。
もともとこの部屋のボスだったモンスターだ。
ラガリアスとリッチがここのボスになって以降、ずっとフラフラしてるらしい。
赤坂ダンジョンとか他のダンジョンで見かけたという情報もある。
なにをしてるんだろう?
「あのリッチはリッチじゃないけど、あなたたちを育てる意思を持っているのは分かるわ。どういう状況でこうなってるのかはわからないけどね」
「それはわかる。だから挑む」
フランが力強く宣言する。
彼女は強い。
なのになんで私たちにつき合ってくれるんだろう?
そこはわからない。
以前は土台を作ればこのメンバーでもっと先へ行ける、もっと強くなれると言っていた。
そのために少し足踏みするくらい全く問題ないと言っていた。
そんな彼女の期待に応えるために、詩織もレファも夢乃も頑張った。
こんなに早く実力をあげてくるなんて。
私もうかうかしていられない。
きっと詩織とレファはお父さんと一緒に異世界でもっと強くなってくる。
私も頑張るわ!
再びリッチに挑む。
凄まじい速度で魔法を展開し、いろんな場所から飛んで来る。
なんて多彩な攻撃。
それはまさしくお父さんの戦い方で、転移を駆使した捕らえられない攻撃。
でも、やられっぱなしにはしたくない。
糸口を見つけ出し、攻撃して行かないといけない。
ハチの巣にされて終了。そんなことを何度も繰り返してはいけない。
私と夢乃でリッチの魔法に合わせた細かいコントロールで防ぎ、回避し、弱める。
それをしながらリッチを捕え、フランの攻撃につなげる。
当たる確率は低い。
それでも今はこの方法しか採れない。
考えろ。
自分の魔法に、自分の攻撃に、自分の作戦に、自分の支援に。
何が足りない?
何を足せばいい?
私はそんなに頭がいい方じゃないし、考える方じゃない。
それは詩織の方がよっぽど得意だった。
でも今は彼女がいない。
そんな状況、いつだって起こりうる。
フランがいない状況だってある。
あのエメレージュというヴァンパイアとの戦いのとき、フランは別の場所に転移させられた。
メンバーが常に揃うなんてことはない。
万全の体制じゃなくても、その時その時にあわせて戦わなければならない。
自分と、自分たちと、その場と、そして相手。
考えろ。
きっと同じように夢乃も考えている。
この子は私より頭がいいけど、まだ経験は少ない。
明るくて茶目っ気があって突飛なことも言うけど、根っこは真面目。
だったら私が意表を突かないと。
「チェインクロス!」
私はまた鎖を放つ。魔力追跡と転移まで付与した。
その魔法はリッチの転移についていく。
捕まえたか?
しかし杖で弾かれる。
むぅ……。
「ボルカノンスラッシュ!」
おぉ!
そこにフランが剣撃を叩きこんだ!
私の魔法で捕まえられなかったものの、それでできた隙を突いたんだ。
リッチは大きなダメージを受けてよろめく。
「「セイクリッドストライク!」」
そこに私たち姉妹で聖属性魔法を撃ち込んだ。
そして気を抜いてしまった。
展開されていた闇属性の魔力が一気に収束し、リッチに集まる。
その闇は聖属性魔法を防ぎ、フランを弾き飛ばし……なんとリッチが回復する。
「くっ……」
また勝てなかった。
振出しに戻ってしまった。
もう一回……。
バタン
「ん?」
闇属性魔力によって回復したリッチがスゥっと地面に着地する。
攻撃してこないらしい。
そしてその後ろの扉が開いていて、そちらを指さしている。
ここを通って先へ行けと言っているのかしら?
「どういうことだ?まだ倒してないのに?」
「戦力的に……他のダンジョンなら間違いなく深層に行ける戦力を示したとは思うわよ?」
フランは疑問を浮かべているのに対して、ずっと戦闘を眺めていたロゼリアさんが答えてくれる。
「進んでみればわかるわよね」
リッチの様子を見ながら夢乃が歩いて奥の扉まで行く。
こういうときは度胸がある子だ。
リッチはやはりもう攻撃してこない。
空洞になっている目が私たちに向いている気がする。
そこに浮かぶ感情は全く読み取れない。
「あなたたちの力をそのリッチは認めたということでしょう。行きなさい」
ロゼリアの言葉に従って先に進んだ私たちは、101層で訓練を続けた。
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