第77話 新宿ダンジョン100層の攻防

□新宿ダンジョン(詩織)


私たちは81層から特に苦労することもなく100層に辿り着いた。

途中でヴァラックと遭遇することはなく、現在100層のボス部屋は戦闘中。


彼らはここに入っているんだと思う。

それにしても彼らの目的がわからない。

前回アンノウン改に全滅させられたのにどうして?


最後の最後に新宿ダンジョンを攻略して師匠せんせいへの嫌がらせとか?

そんなことより捕まりたくないって感じの人たちのような気もするし……。


「詩織。どうしたの?」

私が開かない扉を前に考え事をしていると、姫乃が話しかけてくれた。


「ヴァラックはどうしてここの攻略を今さらやってるのかなって思って」

特に隠す必要もないので素直に話す。

話したところで答えは出ないと思う……


「あぁ。たぶん、コントロールパネルが欲しいんだと思う」

意外なことにあっさりと回答が返ってくる。


「コントロールパネル?そう言えば前回、赤坂じゃなくて新宿を探索していたのは……」

「えぇ。お父さん不在の新宿ダンジョンを攻略してコントロールパネルを奪うつもりだったの。あの時は破壊して、ダンジョンを崩壊させてやるとか言ってたけど」

「えぇ?そんなことが?」

姫乃が教えてくれた内容には驚いたが、それなら八咫烏が戦力を分けたのも頷ける。

恐らくあのラガリアスというモンスターにでも聞いたことなんだろう。

 

「私は、もしそうならお父さんはコントロールパネルを守る仕組みも作ってる気がして、無謀だなと思ってたんだけど」

「確かに……。師匠せんせいは用意周到だから」

師匠せんせいを信頼している姫乃の言葉に私は同意する。

もしそんなことができるなら、師匠せんせいが対策していないわけはないから……。


「詩織はお父さんのこと好きなんだもんね」

「なっ……突然なにを!?」

「ふふふ。あっ、扉が開いたわ!」

「えっ?ちょっ、ちょっと!姫乃!」

「みんな行くわよ!」



フランもレファも夢乃も、私たちのやり取りを聞いていたのか、少しニヤニヤしながらついて来る。

もう、ボス部屋なんだからみんな警戒してね!


「部隊強化!」

「進軍!」

「鼓舞!」

「凱歌!」


レファが湊会長に宣言していたとおり私たちに全体バフをかけてくれる。

力がみなぎる。


一瞬でみんなの顔が引き締まる。





「ぐわ~……」

「たっ、助け……ぎゃーーーーー!!!!」

「ぐふぉ……」

「……」


どうやら扉が開いたのは戦闘終了ではなく、時間切れだったようだ。

前のチームが残っている。

そしてボスモンスターに止めを……。



そう……止めを刺されていた……。



「あっはっはっはっは。弱~い」


止めを刺していたのは女性型のモンスター?で、刺されていたのは私たちが追ってきた人たち……ヴァラックのメンバーだった。


Sランクの探索者もいたのに、あんなにあっさり……。


「相当強いモンスターらしいな。前にいたロゼリアとは違うが、そいつも始祖ヴァンパイアだ!」

フランがチームに警戒を促すように声をあげる。


「鑑定。始祖ヴァンパイア・エメレージュ。魔法使い型のようね」

姫乃が鑑定を使って情報をくれる。


「みんな、防御主体で行くわ!陣形はいつもの通り!」

それを受けて私は指示を出す。



「やる気ね。いいわ。戦っちゃうわよ!ナイトフォール!」

エメレージュという女が腕を掲げ、そこから黒い魔力が放出される。

闇属性魔法だ……。


「「マジックシールド!」・闇耐性付与!!」

レファと夢乃が即座に魔法障壁を展開する。

レファのものはさらに闇属性への耐性が付与されたものになっている。


「うらぁ!!!!」

そして魔法を放っている間にフランが接近して剣劇を放つ。


「セイクリッドバースト!」

そこにフランに当たらないように射線に気を付けながら姫乃が魔法を放る。


絶妙な連携。


あとは私だ。

あいつが退避するのか、剣撃と魔法のどちらに対処するか……。


フランは躱されても追うだろうから、私は魔法が回避されたり、かき消された場合に備えて複数の光球を準備する。

魔法使い型のヴァンパイアなのはロゼリアさんと一緒。


自信満々っぽい性格からすると回避はしても、退避はしなそう。

だとすると、おそらくフランの攻撃だけは避けた上で、魔法でやり返してくる。


それなら、転移で姫乃の後ろ。


「セイントミラー!」

「ダークフォール!」


予想通りの位置に転移した女は予想通り闇魔法を放ってくる。

私が展開したのはミラー魔法。すなわち相手の使った魔法を弾き返す。しかも、弾き返すときに聖属性に転換して放つ魔法だ。


「……なに!?ダークフォール!!!」

それを女はもう一度闇属性の魔法を使うことで相殺する。


「「セイクリッドスラッシュ!」」

そこにフランと姫乃の剣技が炸裂する。

魔法の相殺に気を取られた女は隙だらけだったからだ。

 

「くっ、ふざけんじゃないわよ!ネクロフォービア!!!」

「ピュリファイ!」

ダメージを負いつつもさらに魔法を使ってくる女に向けて夢乃が浄化魔法を使う。

まるで女が使ってくる魔法を読んだみたいに相性の良い魔法……実際に使われる魔法がわかっているんでしょうね。


「聖隷の檻」

火力は問題ないと判断した私は女の足止めを行う。


「なっ、なによこの魔法は?」

明らかに闇属性の女は私が生み出した聖属性魔力で作られた檻に捕らわれる。

私だって師匠せんせいの教えの元、魔法の改造の練習をしてきたのよ。


「ナイス詩織!!!くらえ!聖なる剣の一撃セイントスラッシュ!!!」

そこに全力のフランの攻撃が放たれ、女の肩に突き刺さる。


「ぐぅっ……やるわね……でも、捉えたわ!シャドウシフト」

「なっ、なに?」

フランの大剣が肩に食い込んだままの状態から女が魔法を放つと、フランは影に包まれて消える。


「フランなら死んだりしないわ!ルクスバースト!」

「大丈夫です。軍団系スキルで補足できています!この階層で別の場所に移動させられただけです!シャイニングストライク!」

レファも夢乃も強い。

少し慌ててしまった私とは違って、冷静に魔法攻撃を重ねている。

 

「わかったわ!セラフィックジャッジメント!」

「ディバインスラッシュ!!!」

「がぁ……」

魔法の着弾に合わせて私も姫乃も攻撃を放った。

聖隷の檻はまだ残しているから、全てクリーンヒット。


「こんな……まさか……許さないわ……絶対に……」

そして黒い魔力になって消えていく女。

しかし……



「◆●▽!★□▲!!!」



え?

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