第75話 捕縛依頼

□新宿ダンジョン協会の会議室(詩織)


『久しぶりだ。チームでの探索はどうだろうか?』


画面の中でナイスミドルな男性が少しはにかみながら声をかけてくる。

この方は普段、師匠せんせいと話しているときはとても砕けているが、普段は少し悪そうな見た目ではあるものの気遣いのできる優しい人だ。

たくさんの経験を積んできた深みも感じます。昔話はその……ちょっと破廉恥なものが多いですが、それでも新宿スタンピードの時のような有事には先頭に立って行動する信頼できるおじ様です。


テレビ会議の形式ですが、こちらが全員で話すと収拾がつかなくなるので、私が代表して話します。

 

「気にしていただいてありがとうございます。湊会長。今日は80層攻略でしたが、エルダードラゴンを倒しました」

『えっ、まじで?』

そんなおじ様が一瞬で取り繕った態度を放棄するくらいにはエルダードラゴン登場は驚きの事件です。

これまでは出たとしても100層でしたから。


「はい。驚きました。フランと姫乃がいなかったら厳しかったですが、なんとかチーム戦で守りながらダメージを与えて動けなくして、最後はレファの魔法で止めを刺しました」

『すげぇな……。それなら100層は行けそうだが……そこでもイレギュラーがあるとまだ厳しいかな?』


レファが腕組みをして画面に向かってたぶんドヤ顔と呼ばれるものをしていますが、可愛らしいのでまた姫乃に……あっ、フランにもですね。撫でられて真っ赤になっています。


そしてやはり、ダンジョンが変化しているようです。

師匠せんせいが言うには『迷宮神の動きのせいで高位のモンスターが焦ってるから色々変わるかも』とのことでした。


なぜか師匠せんせいご自身も高位モンスターと戦い続けているとのことで、たまに届くメッセージには愚痴も増えています。

私はどんなものでも連絡を頂けるだけで嬉しいのですが……。


「そうですね。夢乃がこの前会長から教えてもらった部隊強化スキルを使えるようになったので……」

『えっ?まじで?』

よっぽど驚いたのか、会長が夢乃を向きます。


「はい。教えてくれてありがとうございます。エルダードラゴン戦ではびっくりしてかけるのが遅れちゃいましたけど、100層に挑むときは最初からかけておくようにします」

『あぁ、それがいい。うんうん』

昔からの友人である師匠せんせいの娘ということで、まるで自分の娘のように優しい目で見つめているのが印象的です。


「それで、会長。ご用件は?」

『あぁ。君たちに頼みがあってな。八咫烏については確認できた犯罪歴があるやつはほぼ全員逮捕が完了し、すでに起訴して一部は刑の執行まで行ってるんだけど、逃げている奴らがいるんだ』

「捕縛任務ですか???」

戦力的には高いとはいえ、八咫烏と姫乃たちの因縁を考えるとどうなんでしょうか?


『まぁ、そうだよなぁ。ヴァラックってやつらなんだけど、ランクも高いし。やはり海堂たちに……』

「会長、少々お待ちを。こちらで相談しても良いですか?」

『あぁ、もちろんだ』

私が考えようとしているうちに、会長が話を撤回しかけたところで、フランが遮った。


「すまない、リーダーを詩織に任せながらこの場で異を唱えるのは違う気はする。でも、八咫烏関係であれば姫乃と夢乃の意思は確認した方が良い気がしたんだ」

やっぱりそうよね。

というか、少しだけ表情を曇らせてるフランだが、もう日本人と遜色ないくらい普通に日本語を操ってるのが凄い。


もともと犯罪行為を犯した探索者の捕縛が、別の探索者に依頼されることはあるのだから、捕縛任務自体には特に忌避感なんかはない。

 

「いえ。私も姫乃たち次第だと思います。どうですか?」


だから私も素直に姫乃と夢乃に確認する。


「私個人だと戦力的に厳しいから、お姉ちゃんはどう?」

「私はやりたいわね。さっきすれ違った時にも嫌な感じだったし。私自身の贖罪に使ってしまうようでみんなには申し訳ないけど」

ふむ、やる気満々ね。それなら問題ないわ。


「会長。ということでお受けします」

『あっさりだったな。それにさっきすれ違った?新宿ダンジョンの探索者の記録にやつらは入ってないが……偽装か?』

「魔力の流れがおかしかったから偽装だと思います。会ったことがあるからだと思うけど、野性的な感じで気付くお姉ちゃんにびっくりだったけど」

「えっと、夢乃。せめて直観的とかそういう表現を……フラン、どうしてそんなに嬉しそうなの?」

「ふふ」


話を整理すると、ヴァラックは追われていることがわかっていて新宿ダンジョンに入るために外見と探索者カードを偽装している。

一緒に探索したことがある姫乃は変な魔力に覆われている彼らに違和感を覚えつつもヴァラックのメンバーだと見破っていた。

それから、その直感を夢乃が野良猫とかそっち系の察知力と表現し、暴走系というかお姉さん系のフランが同類だと感じて嬉しくなった。


ということね。


「よし、ヴァラックを追いましょう!」

「あの、ちょっと、なんか釈然としないんだけど……」

「気にしちゃダメよ!こういう時は一思いにパクって檻にぶち込みましょ!」

「あっ、いやレファ。そこではなくて……」

「お姉ちゃんかわいい♡」

「やっぱりとりあえずぶん殴るか、斬り飛ばしてからだよな」

「えっ、いやそんなことは……」


さぁ、頑張りましょう。

なぜかオロオロしている姫乃以外はやる気満々だしね。


『助かる。くれぐれも気を付けてな。やつらが偽装したと思われるチームは、記録によると1層の管理室から81層に飛んだようだ。回復アイテムとかは新宿の協会にあるものを使ってくれていいから、よろしくな』

  

私たちはまるでエナジードリンクかのように、高品質のポーションやマジックポーションを飲み干してから、さっきまでいた81層に飛んだ。

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