第69話 大転換
□???
ふと気付くと知らない場所にいた。
どこだここ?
ロゼリアはどこ行った???
真っ白な場所だった。
少なくとも新宿ダンジョンじゃない。
感知には何も引っかからない。
いや……違った。
意識をしっかりと持って、目の前に集中すると見えて来た。
巨大な気配が。
こいつの存在感がデカすぎて何も知覚できなくなってたんだな……。
<貴様は力を得た者か?>
不意に頭の中に音が響く。
なんのことだ?
力とは?
<力は力だ。我を倒す力だ>
いや、無理だな。
どう考えても敵うわけがない。
<残念だ。期待したのだが>
俺はモンスターだ。
きっとその期待には応えられないと思うんだが。
<モンスター?別に構わない。我を超えることが重要だ>
お前が世界を滅ぼそうとしているのかと……
<我であり、我ではない>
どういうことだ?
<抗うのだ。種族も立場も世界も無関係だ。等しく機会があり、等しく責任がある>
だからモンスターたちにも意識があり、行動できるのか?
俺をそこに入れたのも……。
<足りない。せっかく世界までつなげたのに……>
世界をつなげた?どういうことだよ!?
<期待している>
おい!ちょっと待て!
しかしその言葉を最後に、巨大な気配が去って行った。
やつが消えるのと同時に視界が開けてくる。
やはり、さっきのやつの存在感がデカすぎたんだな。
「起きたのね」
「〇▲……」
声をかけてきたのはロゼリアだ。
しかし、知覚が戻ってきても、ここがどこだかわからない。
休んでいる間に連れて来られたのだろうか?
そして、こんな場所でも俺の声帯は仕事をしない。
「あなたを連れてきただけで迷宮神が反応するとは思わなかったのよ。ごめんなさいね」
なるほど、やはりさっきのは迷宮神か。
ロゼリアが本気で申し訳なさそうな表情をしている。
俺は特に怒ってもいない。
あんなのを制御するのは不可能だろうからな。
会話しているようで会話していない。
ただ要求を突き付けられただけだ。
「ふむ……聞いていたとおり、強大な力を持つモンスターだな、キミは」
ロゼリアの後ろからコツコツと足音を響かせながら老人が顔を出す。
……ヴァンパイアではなさそうだな、こいつはなんだ?
「我の種族か?我はエルフじゃよ。ロゼリアたちに合わせるならば、ハイエルフじゃの。ジュラーディスという」
ハイエルフ……物語とかだとエルフの王族とか言われるあれか。
ラガリアスなんか、霞んで見えるくらいの魔力量だけども、申し訳ないがハイエルフのお爺さんなんかに需要はない。
TS化してこ……いかんな、遊んでる場合でもない。
このお爺さんは髭を弄りながら笑顔を向けてくるが、目が笑っていない。
「まぁ座るがいい」
お爺さん……ジュラーディスがそう言うと、俺たちの間にテーブルとソファーが出現したので、俺たちはそこに腰を下ろす。
「無理やり呼んで悪かったのぉ。ラガリアスのやつを倒したモンスターを見てみたかったんじゃ。それが即、迷宮神を呼ぶことになるとは想定外じゃった」
一見すると好々爺のようなやつだが、モンスターだ。
何を考えているのかはわからない。
のんきにお茶する気にはなれないんだが、残念なことに思考は全て読まれてしまう。
「ふむ……警戒は正しいじゃろうな。新宿ダンジョンだったか。そこには別のモンスターを置いておいた」
なに?またかよ。
「ちょっとジュラーディス?あそこは私のものよ?」
俺が思考で反応するよりも早く、ロゼリアが立ち上がって主張する。
それはそうだ。もともとあそこの100層ボスはロゼリアだ。
「はぁ……今しがた迷宮神に言われたばかりじゃろうに」
「私は関係ないわよ?」
ロゼリアはジュラーディスのため息交じりの発言を聞いて、どさっと座り込んだ。
どうでもいいけど今日は服着てるんだな。珍しい。
「迷宮神の主張からすると、我々はあれを倒さねばならん。打倒を目指さねばならん。ボスなどやって遊んでる場合ではないということじゃ。我らにはもうあまり時間は残されていなかったのじゃ」
なんだと?
「はぁ、面倒ね。今さら人と手を取り合うの?これまで散々殺してきたのに?」
本気で気だるげにロゼリアが呟く。
それは理解できる。
意識がしっかりしたモンスターであればあるほどそうだろう。
「だからじゃよ。ラガリアスに加えて、エメレージュ、ファルノクス、バラジット、ゴルシュ、クオノリアは仕方がないからダンジョンボスをさせるしかあるまいのぅ」
ロゼリアに応対するジュラーディスは声を抑え、しかししっかりとした口調で宣言する。
誰か知らないやつらの名前がたくさん出てきたな。
ラガリアスと同じように人間を殺せ!と考えている奴らなんだろうか。
「まぁ、妥当ね。頭の悪い奴らには壁になってもらいましょう。いっそ、先を目指せるモンスターにもダンジョン攻略を推奨する?」
一方のロゼリアは……こいつが何かを自重することはない。
清々しいほどはっきりと駒にすると言い切っている。
「あやつらを倒せたものが候補者だのぅ。さてどうなるか……」
雰囲気作って呟いてるところに悪いけど、俺は関係なさそうだから帰っていいかな?
「ダメじゃ。お前は"候補者"なのじゃ。"候補者"になったのじゃ。しばらくここで他の"候補者"を待つがいい」
いや、せっかく娘を救出したんだから会話させろや。
お父さん怒っちゃうぞ?
「それは構わん」
淡々と老人が答えた。
俺は苛つく感情を露わにしてしまったが、決してそれに反応したわけではないと思う。
いいのかよ。
ダメって言われると思って、ここを抜け出す方法を探ってたんだが。
「ここもダンジョンの一部だ。新宿ダンジョンの先にある場所でもある。ダンジョン内で通信できるならここでも可能じゃろう」
とりあえずスマホを開いて詩織と姫乃と皇ちゃんにメッセージを打っておいた。
*--
モンスターの役割変更みたいなのがあって、新宿ダンジョン100層ボスは外れた。たぶん40層にも戻らないが、心配するな。
通信はつながるから何かあったら連絡くれ。
あと夢乃と話すときは教えてくれ。
*--
完璧だ。
***
ここまでお読みいただきありがとうございます。
無事、カドカワBOOKSファンタジー長編コンテストの応募期間を走り抜けまして、あとは来週9/3 11:59までの読者選考期間を残すのみとなりました。
みなさん、どうか当作品の中間選考突破に向けてお力添え(作品フォロー、星評価(☆☆☆→★★★))をお願いいたします。
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