第35話 リッチの決意

俺は魔力を使って浮き上がり、大きく穴が開いた天井から空に飛びあがった。


そこで俺は佇んでいるエルダードラゴンを眺める。

そんな俺に反応したのか、エルダードラゴンが首を持ち上げ、俺を睨むと、白い光球を放ってきたので、空に向かって弾いておいた。


うん、たしかにこれはなかなかきついかもしれない。

魔力回復の指輪を失っているのが痛いな。


そして、エルダードラゴンは翼を広げ、空に飛びあがったので、俺も追う。

地上に向けて光球を連発されたら面倒なので、やつよりも上に。


:モンスターvsモンスターなのに制空権を争う戦闘機の戦いみたいになってるな

海堂:実際そうだろ。リッチ様は地上への影響を避けるためだろうが、エルダードラゴンはプライド高いから頭上を取られるのは嫌うだろ

:なるほど……って、海堂って世界36位、日本トップ探索者の海堂?

海堂:あぁ。悪りぃけど、沖縄にいる俺が新宿に行くのは無理だからな。リッチ様も来たことだし、解説に徹するわ。


なるほど。

エルダードラゴンってプライド高いんだな。いつも周囲の被害は気にせず適当に倒してるから知らなかった。スマホも覗けるように浮かしててよかったな。


とりあえずもっと高く飛んで上空に誘導してみるか。


俺は魔力で浮かび上がっていく。

するとエルダードラゴンはついてきた……というか追い越していった。


そして光球を放ってくるので、俺も魔力弾で応戦した。


「数の勝負なら負けんぞ?」


ギャルルルォォォオオオオオ!!!


俺の魔力弾は全ての光球を撃ち消し、さらにエルダードラゴンにも何発か当たったが……むぅ、効きづらいな。

魔法耐性でも持ってるようだな。

 

しかし、どうするか……俺は周囲の魔力を吸収しながら考える。

魔力回復の指輪を失っているので魔力運用は慎重にならざるを得ない。

 

 

すると、俺が攻撃を止めたことでエルダードラゴンは勝機とでも思ったのか、光球と、さらに爪による真空波を撃ってくる。


光球も真空波も障壁で防げるが、魔力量がやはり厳しい……。



:すげ~打ち合いだ……。

:もっと圧倒するのかと思ったけど、よくよく考えれば深層クラスのモンスターと普通に打ち合ってる時点でやばかったわ。

:リッチ様ファイト!

海堂:街への被害を考えて全て撃ち落としに行ってるんだろ。それに加えて何発か当ててるのがさすがだな。

:当たったのにエルダードラゴンには効いていない?

海堂:魔法耐性だろうな。リッチ様の魔法が当たった時の反応を見る限り。

:相手もやばすぎる。スタンピードでしれっと出てきていいレベルじゃね~よ!

フラン:このままだとまずい……(ドイツ語)

:フラン?世界9位の???

:リッチ様が押してるように見えるけども……

フラン:リッチの左腕は私が切り取ったままだ。魔力回復の指輪などが失われている。(ドイツ語)

:あっ……。

:だから、前に見た早紀さんとの打ち合いの時に比べてリッチ様の攻撃が控え目なのか……



となると、これしかないな……。

俺は先っちょがなくなった左腕の肘のあたりを右腕で掴んだ。

 


□東都テレビジョンのスタジオ


「なんという攻防なのでしょうか。都庁の上部を崩落させたものと同様の光球をあの巨大なドラゴンが何発も放っていますが、それを全て相殺した上に逆に何発かの攻撃をそのドラゴンに当てています」

引き続き司会の男がマイクを握りしめてモニターに映る様子を喋り、完全に実況中継の様相を呈していた。


「リッチ様は新宿の街に被害が行かないように上空で戦っているものと思われます。さらに、エルダードラゴンの光球をただ回避するのではなく、魔力弾で相殺して街に落とさないようにしてくれています。凄すぎる……頑張れリッチ様!頼む!」

大木も司会の男の横に陣取って、自らも解説している。そのスタンスは完全にリッチ応援団だった。


だが、今エルダードラゴンと戦えるのはリッチしかいない。

スタジオ内も、視聴者も、もうリッチを応援するしかないのだから、リッチの応援で全く問題なかった。

 

「大木さん、これはいけますよね!」

司会の男が興奮しながら喋るが、大木の表情は硬い。 


「どうやら新宿ダンジョン40層での戦闘で左腕を失った後、回復できていないため、リッチ様は普段のように魔力を惜しまず戦闘するということができない状態にあるようです。あと、明らかに魔法攻撃に何らかの耐性を持ったイレギュラーなエルダードラゴン……これがどう戦闘に効いてくるのか……」


「ぐぅ……みなさん、応援しましょう!我々にできることはあのリッチを応援することだけです。なんとか新宿の被害を抑えてくれている彼が、勝ってくれることを祈りましょう!」


司会の男は苦し紛れだったのかもしれない。

しかしその言葉はスタジオ全員の気持ちを代弁していたし、視聴者の気持ちも代弁していた。


東都テレビジョンのツブヤイターにはリッチを応援するコメントが嵐のように殺到していた。


 

「リッチ様……頼む……倒してくれ!って、おい……なにを???!?」

そして日本中が息を飲んで見守る中でリッチは……




「あのリッチはなにを???なぜ自分の左腕を!?これはどういうことでしょうか、大木さん!?」

司会の男は悲鳴のような声をあげる。



「わからない……なにをするつもりなんだ、リッチ様?」

大木もモニターを見ながら固まってしまった。




そこに映る、手首から先の部分がなくなっている自らの左腕の骨をまるごと肩から引っこ抜いたリッチの姿を見ながら……。





* * *

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