第33話 避難

飛翔したエルダードラゴンは新宿駅を燃やし、周囲のビルを倒していった。


日本が初めて経験する……いや、世界が初めて経験するモンスターによる大災害だった。


そのエルダードラゴンは自らの攻撃によって上層部が崩れ落ちた都庁の上に飛来し、止まった。


まるでちょっと一休み、とでも言うかのように翼を横たえて佇む。


その下ではダンジョン協会員と自衛隊員たちが、必死に一般人を逃がしていた。



「早く!急げ!」

みなエルダードラゴンの威容に恐慌状態に陥っており、ダンジョン協会の湊会長が軍団スキル・冷静沈着を発動してもなお落ち着かない。


それでも助かりたい一心で避難は継続していた。




□ ダンジョン協会会長 湊皇一


「なんてデカさだよ。お前なんか地上に出てきていい大きさじゃねぇだろうがよ」

俺はどうしても憎らし気にエルダードラゴンを睨んでしまう。

当然ながら早紀と一緒に撃退した経験はある。


深層のモンスターであるエルダードラゴンの攻略法は単純だ。やつの火力と防御力を上回る攻撃をあてて力づくで倒すしかない。

ただただ純粋に強力なモンスター、それがエルダードラゴンだ。



この場には都庁舎で働いていた者に加えて、対策本部として移ってきたダンジョン協会職員、さらに逃げ遅れていてダンジョン協会員と警察、および自衛隊員たちが避難させた一般人、あわせて3万人近い人たちがいた。


新宿ダンジョン内でやってた配信に巨大なモンスターが映っていたという報告を聞いて、都庁の低層に集合させていて助かった。


しかし、エルダードラゴンが都庁の上層を止まり木にしてしまったので、今、一斉に避難を開始していた。


そんな混乱の最中では戸惑うもの、慌てるものも出てくる。


なにせ一般のモンスターも闊歩し始めている。

ただエルダードラゴンから逃げればいいわけではない。


幸いエルダードラゴンは羽休みをしているのか、攻撃をやめて都庁の上に佇んでいる。

俺は退路を確保するために防御系の魔法を組み合わせてエルダードラゴンから見えづらくした通路を作って維持している。


一般のモンスターが直接入ってきてしまったらどうしようもないが、それでも一定の威力のスキルや魔法などは防ぐことができる壁だ。

なんとか今のうちに都庁から一歩でも遠くに行かなければならない。


そんな中……


「あっ……」

母親と思われる女性と手をつなぎながら走っていた小さな女の子が何かにつまづいたのか、倒れる。


「メイ!メイ!!!」

母親は必死に手を伸ばすが、後ろからくる人々に押されてしまう。


「おぃ、モンスターだ!モンスターが来たぞ!」

そこに運悪くオークたちの群れがやってきてしまう。

ちょっと待て。あれはまずいじゃねーか。


女の子の母親は、モンスターから逃げる人々に押し流されて娘からさらに引き離されてしまう。


「おかあさ~~ん」

その状況は女の子に恐怖をもたらし、彼女は泣き叫んでしまう。

そして、オークたちの注目を集めてしまった。


「メイ!立って!こっちよ!」

なんとか逃げ惑う人々の集団から外れた母親は、女の子に向かって走り出す。


周囲で共に逃げていた公務員や避難民たちのうちの何人かがその親子の様子に気付いたが、立ち止まることはできず、逃げ去っていく。


助けてやりたいが自分たちにそんな力はない。

駆け寄っても一緒に殺されるだけだ。


一方で、避難を誘導していたダンジョン職員や探索者も気付いた。

距離的には間に合わないかもしれない。

それでも何とかしようとして武器やスキルでモンスターに攻撃を放ったり、親子に駆け寄ろうとした。


しかしモンスターたちは止まらない。

数匹が倒されても全く気にした様子はなく、女の子に向かって槍や剣や爪を振り上げながら走り寄っていく。




□東都テレビジョンのスタジオ


撮影していたヘリコプターをすでに退避させ、放送を協力してくれる探索者の配信映像に切り替えていたスタジオの司会者やコメンテーターたちも騒然としていた。

あの女の子がこれから殺されてしまう。もしかしたらその母親と思われる女性も。

しかし自分たちにできることはない……。



□ ダンジョン協会会長 湊皇一


やばい。距離的に探索者たちの方が一歩遅い。




間に合わない……。


 


個人戦闘力の低い俺でも無理だ……。



くそっ……。




そしてオークが振りあげていた槍を突き立てる様が見え、誰もが目を背けた。






ガキィーーーン!!!


 

しかし、それに続いて鳴り響いた音は、金属が打ち鳴らされた音……。


 

この光景から目を逸らした者たちが恐る恐る顔をあげると、そこで槍を防いでいたのは杖……




そしてその杖を掴んでいたのは黒いローブを羽織った骨……



塔ちゃんだった。




ありがたい。間に合ったな。



助かる。




俺は地上に展開していた壁を消す。

残したのはエルダードラゴンとの間に張っているものだけだ。

 




 

「なっ……」


娘を助けようとすぐ近くまで走って戻ってきていた母親が、塔ちゃんの容姿と周囲に張り巡らされた黒い魔力によって恐怖心に飲み込まれたのか、へたり込んでしまう。



周囲では誰もが……モンスターたちまでもが動きを止める。




そんな突然出現した不気味な静寂の中で、塔ちゃんは女の子を抱き上げる。




女の子の方は気絶しているのか大人しくしている……いや、塔ちゃんにしがみついてるように見えるから意識はありそうだな。驚きながらも危害を加えられることはないと分かったのか?強いな。



そんな女の子を抱っこした塔ちゃんはゆっくりと歩いて母親の元へ近寄り、その腕に女の子を預ける。



「おーい!立てるか?立てるなら、退避を!そのリッチは味方だ!」


俺は母親に声をかける。


余り大きい声を出してエルダードラゴンを刺激したくはないが、この場に塔ちゃんが来てくれたことで、俺の心にも余裕が生まれた。



* * *

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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まだまだこれからもこの作品を書いていきたいと思いますので、引き続き応援(作品フォロー、レビュー(コメント、星評価(☆☆☆→★★★))、応援(♡)、コメント)の程、よろしくお願いします。

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