第8話 悪夢来襲

むぅ……なんでこんな意味不明な戦闘をしないといけないんだよ!

負けても再ポップするから別にいいんだけど、なんか釈然としない……。


うぉお危ねぇ。

俺は一撃で俺の頭が体をさようならしてしまうような鋭い風の刃を避けながら今の状況を嘆く。


だが、嘆いても状況は変わらない。次々に襲い掛かってくる守護兵たちの連携攻撃を魔法で叩き落としながら、迫り来る素早い魔法攻撃をひたすら避ける。


モンスターになるとなかなかできない1対多の戦闘訓練……



ってなんでだよ!



同じやつと139戦目とか何をさせるんだよ俺に……

俺が負けるところを見て『やっぱたいしたことないじゃん』と思った探索者が来てくれるようになればいいかって思って周回を耐えてたのに、本気で戦えとか鬼か!


うおぉ、連携魔法かよ。なんでもありだな。

こっちも行くぜ!

ファイヤーストーム!!!


--------


話はしばらく前、俺がレファに指輪を贈った翌日に遡る……。

突然、新宿ダンジョン40層のボス部屋、つまり俺の部屋にこの悪夢がやって来たんだ。

『お久しぶりですね、塔弥くん』とか言いながら。


「まさか新宿ダンジョンの40層で魔力回復の指輪なんていうとんでもない代物がドロップするだなんて、これは確認しないわけにはいかないわよね……」

「○◆★□△◇☆▽……」


:うん、やべぇなこれ……。

:【悲報】リッチ様、ついうっかり秘密を口にした結果が化け物による周回プレイ

:リッチ様強いと思ってたけど、やっぱりSランク探索者の前だとこんなもんなのか?

:リッチ様~(涙)


レファに指輪を送って1週間、巷では龍が不穏な発言をしたとかで重苦しい空気が流れているらしいが、俺のまわりにはもっと重苦しい空気が流れていた。


『……』

「あら?もう喋らなくなったのね。う~ん、残念。今回もドロップしなかったわ。本当に落ちるのかしら」


消えていく俺の目が薄っすらと捉えた視界の中で、小柄で着物姿の大人しそうな純和風美人さんが首を傾げている。


今週こいつにられたのはこれで136回目……。

うかつにレアドロップをバラしてしまったせいで、悪夢がやってきてしまったようだ。


そもそも、こんな強いやつはもっと深い層に行ってほしい。

俺がやりたいのは探索者を育てることなんだから、育ち切って、なんなら引退宣言したやつにはお家でお茶でもすすっててほしい。


そもそもお前、魔力回復の指輪くらい持ってるだろうが!


しかし、きっと行ってくれはしない。

こいつは昔からそういうやつだ。


「ねぇ、塔弥くん。早く出してほしいんだけど。むしろその指につけてるやつを頂戴?」

「◆▽△★□◇☆○」


ついに目の前の悪夢さんは追いはぎにクラスチェンジしたようだ。


そしてスキルで生み出した守護兵たちに俺を羽交い絞めにさせてから指輪を奪い、そのまま俺の首を切り落とす。


もし君の知り合いがモンスターになってしまったとして、ここまで冷徹に非道なことができるかい?

それをこの女はやってるんだ。なんて怖いんだ。


「あっ、消えちゃった……。奪っても倒したら消えるのね。やっぱりドロップしないし……おっ、また来たわね」

「◆▽○★◇☆□△」


まじで勘弁してほしい。

1つだけ利点があるとしたら、俺が強すぎると思いこんで敬遠してたやつらが来てくれるようになるかもしれないってことだけだ……。



まぁ新宿のダンジョンマスターも、たまには俺以外を出せよっていう文句くらいは言いたいな。

なんでこの化け物の相手、俺一択なんだよ。

一応4種類くらいは出る設定だろ、ここ? 


『まだドロップしませんか。でも、あれの前に他のモンスターを出したらトラウマになってしまって働かなくなるのでリッチさんが頑張ってくださいね……』

そんな俺の頭に響くのは、この新宿ダンジョンの100層のボスである始祖ヴァンパイア・ロゼリアの声だ。

見ているならなんとかしてほしい。お前が出てくるとか。

 

『それにあの方はあなたから魔力回復の指輪がドロップするまで帰らないでしょうから、他のモンスターを出すのは無駄なのです……主にダンジョンエネルギーの』

なにも否定できない。たしかに、としか思えないけどよぉ。


『だからドロップするまで頑張って。ね、あとでご褒美上げるから』

お前の膝枕とかだったらぶっ飛ばすからな。せめて……


『膝枕してあげるから♡』

ふざけんな!お前も大人の女ならもっと頑張れよ!跪いて舐め……って、いねぇじゃねぇか!聞けよ俺の話を!


 


「あっ、ようやく出たわ。う~ん、魔力回復(小)の指輪ね。5分で1%回復……微妙だけど……まぁいいでしょう。ドロップすることは確認できたわ」

『◆▽○★◇☆□△』


やっと俺の悪夢が終わるらしい。

ホッとした。

さすがに同じ相手にひたすら殺され続けるのは精神的にきついぞ。


しかも、相手は元世界ランキング2位。

今ではほぼ引退状態でダンジョン協会の依頼を受けてたまに動く程度になったが、相変わらずSランク探索者で、化け物だ。


:やっと終わったみたい。

:オレ、ダンジョン協会に逆らうのやめるよ……。

:早紀さんが世界で最も怖い説!

:普通にリッチ様と早紀様、知り合いっぽかったのに容赦なさ過ぎて草

:リッチ様は元人間って話だったけど、塔弥っていう名前だったのかな?

:飛行機墜落事件で亡くなった中に同名の人がいるけども……

皇ちゃん:やめておけ。


ようやく悪夢が終わったと配信を見ていたら俺の詮索が始まって、皇ちゃんが止めていた。

まぁ、調べられてもなんの問題もないけどな。

普通の一般人だったし。

それにしても疲れた……コメントする気力もないぞ……。

 

:あっ、会長ちぃ~っす!

:会長乙

:〇〇を探ってはダメ……あっ

皇ちゃん:禁止用語登録させてもらった

:【悲報】リッチ様、お名前が発禁処分!!!


ふざけんなよ。どんどん意味深になるじゃねーか!

俺だってなんでこんなとこにいるのかわかんねぇのによ!

 

皇ちゃん:まったく早紀の奴。お仕置きだな

:きっと会長がお仕置きされるのに一票!

皇ちゃん:なんでだよ!

:だって、会長と早紀様の初対面の話、有名ですし……

皇ちゃん:よし、仕事に戻るぞ


皇帝ちゃんが早紀との初対面のときに、早紀の部下に全裸で猿ぐつわと目隠しされて捕まえられた話は有名だった……。


「じゃあ、塔弥くん。最後に一回真面目に戦いましょ」

『〇o?』


:はっ?

:はっ?

:はっ?


疲れ果てた俺にとんでもないことを言いながら早紀が守護兵たちを出して行く。

当然自らもバフかけて臨戦態勢だ……なんで?


「なんかしゃくじゃない。あなたは弱くないのに、今日の配信だけ見た人に侮られちゃうわ。それは申し訳ないから」

「◇△□★◆▽☆○」


いらないんだよ、そんな気遣い。

むしろ侮ってくれたらもっといっぱい探索に来てくれて、俺が指導する機会が増えるから万々歳じゃね~か!

それだけを期待してお前の周回に耐えてたんだよ!

ふざけんな!?


「ちゃんと戦ってくれないと、あと1,000回は挑むからね」

「????????」

って、くそっ。これなんて地獄だ?

めちゃくちゃ魔力練ってやがる。

おい!ロゼリア!なんとかしろ!


 

『……』

ふざけんなよ。居留守じゃね~か!


--------


という流れがあって、俺はまじめに戦った。

焦っていたので考えが及ばなかったが途中で気付いたので配信は切った。


もう遅かったらしいけども……まじで悪夢かよ!

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