第6話 龍の躍動

「くっ、ひと思いに殺しなさい!」

「なっ、なにを言ってるんだレファ!?」

こいつら、毎回これだな……。


「△◆■□▲▼※☆◇彡」

俺はついつい配信に向かって声を出しながら"酸の嵐アシッドストーム"という魔法を発動する。


:いや~~~~~レファちゃんが~~~~

:グロっ!?

:とっ、溶けていく~レファちゃんが溶けていく~

:あばばばばばば

:【悲報】嬉しそうに指輪をはめて襲い掛かったレファちゃんがリッチに溶かされる映像で嘔吐者続出

:マジで放送事故やんけ!

:なお、恭一は既に入り口にリターンした模様


<戦闘終了です。挑戦者は全員戦闘不能に陥ったため、設定に基づいてダンジョン外に転送されました>


ふむ。防げなかったか。まだまだだな、あいつも。

ちなみにレファはそこそこ頑張った。俺にオリジナル魔法を使わせたのだから。

贈った魔力回復(中)の指輪もさっそく有効活用していたな。


でも恭一はダメだ。

盾役のくせに魔法使いより先に落ちてどうするんだよ。

 


レファ:ふざけんなですわ!あんなのどうしろと!?

:ちょっ、レファちゃんwwwwwwwwwwww

:すげぇな、もう治ってんの?

:さすがリッチ様の回復魔法ですわ~

:そもそも設定により転送ってのもリッチ様がやってんだろ?どんだけ魔力あんだよ

:そもそもどうやってるのよ?あれも魔法なの?


「▼□△■※◆▽☆彡〇」


:そして何言ってるかわかんないからwwwww

塔ちゃん:悪い悪い。どうしても癖でな。

:そんな、まるで人間みたいなことをwwww

詩織:よし、レファは完敗っと。次は私ですからね!

レファ:くぅ~詩織、なにを言うのです!くそリッチを倒すのはわたくしですわ!

:【悲報】美少女たちがリッチ様に夢中!

塔ちゃん:そりゃ、俺も元人間だからスマホ打つより喋っちゃうよな。指も爪も細くて打ちづらいし。

:!?

:は?

レファ:は?

詩織:は?


「◆〇?」

なんだ?どうしたんだ?なにがあったんだ?


:元人間なの??????????????

:えっ?どういうこと?

皇ちゃん:おい!くそリッチ!!

塔ちゃん:ん?あぁ、言っちゃダメなんだっけ?やっぱなしね。高尚なウソってやつね

:【悲報】リッチ様が元人間だと暴露して世界騒然

:悲報ばっかやん

塔ちゃん:違う違う。ないから。それに世界なんて大袈裟な

:同接20万人ですがなにか?

:すでに"リッチ様元人間だった件"が飛び交ってますがなにか?


「◇△★◆▽□■※彡〇」

ちょっと待て、今の感覚は……。

決して嫌な感じじゃないけど、なにか巨大な力の残滓が駆け抜けていった。これは……。


:露骨な会話逸らしなんだろうけど、ちょっとなに言ってるか分かんないwww

:立ち上がって目まで逸らしてるしwwwwww

:まぁもとが何だっていいわよね。リッチ様はリッチ様よ!

:頑張って、リッチ様~!

塔ちゃん:おい、龍が動いたぜ?

:龍?

皇ちゃん:マジで?ちょっと行ってくるわ~

:行ってらっしゃいませ

:ちなみにあれはどなたですか?

:おい、知らねぇのかよ!あれは湊皇一。ダンジョン協会の会長だ。

:はっ?なんで?

:私も呼び出されたので行ってきます(協会調査部員)

:ファイト~!


皇ちゃんとは前々世でまだ俺が人間だったときの知り合いなんだよ。別に隠してないから言っとこう。


 


□ダンジョン協会調査部第二課長 柳原(ダンジョン協会本部にて)


『第二課員は急ぎ部署に戻り、龍の監視に入ること。

 龍がランキングボードの上で翼を広げている。

 これは龍がなにかを世界に伝えようとするときの行動だ。

 繰り返す、急ぎ部署に戻り、龍の監視に入れ!』


リッチ様の言う通り、監視画面では龍が移動していたので、即座に課員全員に向けたメッセージを打った。

心臓が高鳴る。部署内は既に騒然としており、部下たちが次々とデスクに戻ってきた。


「龍が動くのは久しぶりだ。12年前ぶりかな……」

年配職員の佐藤さんが周囲の若い職員に話をしてくれている。

12年前には『この世界はある程度の生育を達成した。よくやった。そのためこれからは位階が変わる』という発言があり、ダンジョン内に変化があったのだ。


「ちょこちょこ歩いてる姿は可愛いですね……」

「バカ!」

「すっ、すみません!」 

しかし、若い職員には佐藤さんや私ほどの緊張感はないようだ……。


「前回の時は、ボスモンスターがそれ以前より浅い層で出現したりするになった。今ではボスの都落ちと言われるあの現象だ。この世界の人間の戦力が一定以上に育ったことを讃え、龍がダンジョンを強化したと考えられる」

そんな職員たちも、丁寧に説明する佐藤の話をモニターを見つめながら聞いている。

 

「そのさらに前には、ボスモンスターの登場する層が変わった。5層と10層は変わらなかったが、それ以降が40、70、100層だったのが、20、40、60、80、100層になった。今回は何が起こるやら」


モニターから目を逸らすことはできない。そこでは巨大な龍がランキングボードの上で威厳を持って翼を広げていた。

その姿は、過去のようになにがしかの変化が起こると確信させるものだった。


そして龍の声が響き渡る。

 

『残念ながら計画に達していない。

 軌道を変える。


 新たな罠、新たな敵を生み出し、そして一部の制約を外す。

 探索者たちよ。抗い、育ち、攻略せよ!』


この発言に聞いていた者たちは騒然となる。

まさか龍からネガティブな発言があるとは誰も思っていなかったのだ。


この世界は何かを間違えたのかもしれない。

なんとかしなければならない……と、そう感じたものがほとんどだった。


そこで鳴り響く電話の音。


「はい、調査部第二課の柳原です」

『湊だ。準備をしてくれ。官邸で緊急会議だ』

「はっ」


明らかに過去とは様相が異なっていた龍の発言に世界が動揺している。

課員たちは慌ただしく準備を始める。


私はこれから始まる長いけど何も決まらなそうな憂鬱な会議に思いを巡らせながら、湊会長の説明や質疑応答を予想して資料をまとめるよう指示を出し、出来上がったら送るように伝えて席を立った。

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