13.手がかり
翌朝、私はシルビアが夜中に体験した出来事を、彼女と共にシャロとエミリアにも話した。
勿論、シルビアが漏らした事は隠して。
「実は……最近この町で、夜な夜な不気味な人形が徘徊しているらしいって噂を聞いた事があるのよ。ただの噂だと思っていたんだけど……」
私達の体験した内容に対し、エミリアはそう話した。
恐らく、夜中にシルビアが目撃した人形が噂のものだろう。
それにも関わらず、人形が消えてダイアウルフのゴーストだけが居たというのも不可解な話であり、更にはゴーストに呪符が付いていたことも気掛かりだ。
ゴーストに何かしらの細工がされている事は明確だが、人形も含めそれらの目的が分からず、一層気味が悪い。
「何の目的かは知らないけど、あーしは自警団として平和な町を荒らす奴が許せない。ベリィ、シャロ、カンパニュラを出るのは、この件を片付けてからでも良い?」
「もちろんだよ! アタシもこの国に何かあったらイヤだもん!」
当然、私もシャロの故郷を守りたいと思っている。
「でもシルビア、ゴースト怖いんだよね?」
私の問いかけに、少し焦る様子を見せたシルビア。
「違っ……! あれはベリィがツノ出してたから……いや、違う何でも……」
勝手に墓穴を掘ったシルビアに、私は笑いを我慢できず吹き出してしまった。
「お、おい! 何笑ってんだよ!」
「え、だって急に意味分かんないこと言うから。私のツノを見て、何かあったの?」
「お前……! そ、そうだベリィ、レオン公爵に会いたいんだったよね? 今日は先にそっち行ってみよう!」
話を逸らされた。
「うん。でも、私達が直接行ったところで通してもらえるのかな?」
レオン公爵とお父様は面識があるものの、私の正体を簡単に伝えてしまうのはリスクが大きい。
かと言って、いち国民であるシャロにはそんな権限も無い。
「あーし、一応は自警団だから。取り合ってもらえるかもしれない」
その手があった。
お漏らしの事ですっかり忘れていたけれど、シルビアはこう見えてシリウス自警団なのである。
私設軍隊と言っても、このカンパニュラ公国にも名前が伝わっている程の知名度だ。
上手くいけば、レオン公爵と話が出来るかもしれない。
「ありがとう、シルビア。さっきまでお漏……弄ってごめん」
「別にいいから余計なこと言うんじゃねぇ! ほら、さっさと支度して行くよ!」
シルビアは顔を真っ赤にしながら言い、そそくさと自警団の服に着替え始めた。
と、これまでの私とシルビアの会話を、シャロはずっと不思議そうに聞いていたのだった。
支度を終えた私達は、シャロの家を出てレオン公爵がいるであろうフランボワーズ邸へと向かった。
レオン・ベル・フランボワーズ、このカンパニュラを統べる公爵であり、温厚で民思いな人物だと聞いている。
お父様が死ぬ直前に話した人物……この人とは、どうしても話がしたい。
フランボワーズ邸の付近までやって来ると、門前には門番らしき人物が一人立っていた。
シルビアはその人物に近寄り、丁寧に挨拶をしてから本題を切り出した。
「シリウス自警団のシルビア・フォクシーと申します。レオン・ベル・フランボワーズ公爵との面会を希望したいのですが、可能でしょうか?」
「申し訳ありませんが、ただいま取り込み中ですので……」
「そうでしたか。これは失礼致しました」
どうやら、駄目だったらしい。
こちらに戻って来たシルビアの表情は、少しばかり困ったようなものだった。
「あの門番、自警団の名前出したときに若干イヤな顔したわ。団長があんなんだから、こんな所まで自警団の悪評が広まってるよ……」
彼女はそう言って苦笑した。
言われてみれば、リタの悪評が染み付いた自警団という組織を、そう簡単に国のトップと会わせるわけにもいかないだろう。
本当に、困った人である。
諦めて一旦踵を返そうとした、その時だった。
少し離れた場所で女性の叫び声が聞こえてきたのだ。
「何だろう?」
「さあね、とりあえず行ってみよう」
「そうだね!」
私達三人は、直ぐに戦えるよう武器を構え、叫び声のした方向に走って行った。
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