第17話 決着!教頭先生



「ぅうおっ!」

「だから汚ねえっての!!」




 シンイチと友人の男はさっと身をかわすとショットガンをそれぞれ発砲する。


 そして教頭先生の顔面にはどでかい穴が開き、ピンク色の脳みそや舌なんかがだらりと垂れ下がる……はずだったのが。




 「むっふふふ……何だねキミたち~その哀れな攻撃は~……ぷっ、くくくく」




 教頭先生はフラフープを回すように腰をふりふりと揺らしながら余裕の表情でニタリと笑う。


 まさか……効かなかったのか?


 いやそんなはずはない、確かに無数の弾丸が直撃していたはず!

 だがしかし、教頭先生のはんぺんと見紛うばかりのしっとりふわとろボディは無傷ではないか!




 「そ、それがあんたの研究とやらの成果なのか!?」

 「むふふふっ、さぁどうかなあ~?」




 だが絶望するのはまだ早い。


 シンイチたちにはショットガンを遥かに上回る強力な武器がある。

 それは……そう!心強い友人の存在だ!




 「おりゃー」


 優ちゃんが恐るべきスピードで動いた次の瞬間、教頭先生の喉元に強烈な足刀蹴りが突き刺さった。頸椎ごと首をへし折る一撃に空気がずどおんと震え、校舎がミシミシと音を立てる。




「ええっ!き、効いてない!?」




 驚愕するシンイチ。


 これはどういうことか。優ちゃんの攻撃にさえ怯むことはなく、教頭先生は相変わらずぺちんぺちんと余裕の態度で腰を振っているではないか。




 「むふふふっ、なかなかすさまじいパワーじゃないか。研究用に欲しいくらいだ」

 「あー……むかむかーっ」




 優ちゃんは悔しそうな表情を浮かべると、次は超高速のコンビネーションを浴びせかけた。


 もちろん優ちゃんが手を抜いている様子は一切ない。


 超音速のパンチとキックが教頭先生に打ち込まれるたびに衝撃波で足元が激しくうねり、シンイチたちは立っていられないほどだった。




 「おっほ~っ!!……やるじゃないかキミぃ、このワタシでなかったら大変なことになっていただろうね~!」

 「むうーっ!」




 ムキになったのか、優ちゃんはさらに連打の回転速度を上げていく。


 シンイチにはもはや優ちゃんが殴っているかどうかすらわからなかった。


 だがそれでも平然とした様子で腰をくねくねふりふりとフルチン金魚運動を続けている教頭先生。

 戦車砲のようなパンチとキックの雨あられの中で、この余裕はどこから来るのだろうか?




 「うーむ……キミはスピードとパワーは申し分ないのだがね、いかんせん攻撃のバリエーションが乏しいようだねー」


 「ぎーっ!」

 「ではそろそろ反撃といかせてもらおう!」


 教頭先生はそう叫ぶと、両腕を広げて抱きしめるように激しく腕を振る。優ちゃんが咄嗟に回避するとぶおんと音がして、辺りに猛烈な風が巻き起こった。


 スピードは大したことはなさそうだが、どうやら優ちゃんですら回避しなければいけないくらいのパワーはあるようだ。


 あるいは単に気持ち悪かったので優ちゃんに避けられてしまったのかもしれないが。




 「さあ、休んでいる暇はないぞ!」


 次に教頭先生たちはVの字にフォーメーションを組むと一斉に腰を前後に振り始める。うわ~っ、なんという醜態であろうか。




 しかしその攻撃は見た目に反して恐ろしい効果を持っていた。


 ぺちんぺちんと貧弱なサウンドでこちらの不快感を煽り、正常な判断力を奪ってしまうという前代未聞の技なのだ。




 「やだあーっ!」

 「くそ!このおっさんふざけやがって!」




 シンイチたちはやけくそになりながらショットガンを撃ちまくるが、それでもやはり教頭先生たちの鉄壁の布陣の前では豆鉄砲のようだ。




 「シンイチ、この教頭、気持ち悪いけど強い!」


 優ちゃんがとうとう教頭先生の強さを認めた!


 こんな教頭先生が残り9体もいるのだ。もはや絶望的としか思えない。打開策は一体どこにあるというのだろうか?





 だがシンイチには優ちゃんがいるのだ。彼女という太陽のある限り、シンイチの心に絶望の影が差すことは決してない。


 そうだ、自分には彼女がいるんだ……だから負けるはずがないんだ。


 そんな強い意志を胸にシンイチはショットガンを構え、そして再び教頭先生と対峙するのであった。




 「むふ~っ!!どうしたキミたちの力はその程度かね?」


 「おい教頭!あんたの力の秘密はもしかしてその腰の動きにあるのか?」


 「むふふ……そんなことを教えるわけないだろう、と言いたいところだがその通りだ!」

 「なんだって!?」




 教頭先生は何とも楽しそうにプヨ腹を揺らしながら腰を振る。その様はまさに変態の極み、とても正視に耐えられるようなものではない!


 (……ってそんなバカな話があってたまるか!)


 でも実際に教頭先生はぴんぴんしているし、確かにそう考えればすべての辻褄が合うのかもしれない。




 しかし、何か引っかからないか?

 シンイチは質問を続けることにしてみた。




 「つまり……その腰振りを止めてしまえばあんたを倒せるんだな?」


 「いやーとうとうワタシの強さの秘密がバレてしまったか、まったくその通りだ。心配せずとも、強化ゾンビー皮脂装甲腺のおかげでほぼ無敵というわけではないんだよ!」



 「えっ?強化ゾンビー皮脂装甲腺のおかげでほぼ無敵?」




 友人の男の言葉に教頭先生たちはぎょっと目を剥いて驚く。


 「な、なぜキミが強化ゾンビー皮脂装甲腺のことを知っているのだ!?」

 「え……いや、さっきあんたが自分で……」


 「そんなバカな!強化ゾンビー皮脂装甲腺の存在は超極秘事項なんだぞ?!ましてや前方からの攻撃には無敵だが、背後から攻撃されればあっさり突破されるという強化ゾンビー皮脂装甲腺の弱点は誰も知らないはずだ!?」




 「えい」

 「うっ」




 優ちゃんが後ろからゴツンとげんこつすると教頭先生は頭を抱えてうずくまり……やがて動かなくなった。シンイチたちの執念がついに勝利をもたらしたのだ!


 しかし、喜ぶのはまだ早い。

教頭先生のクローンゾンビがまだ9体も残っていることを忘れてはいないだろうか。


 「後ろから殴ったらみんなくたばったよ」

 「さすがだ優ちゃん」




 「シンイチ!こんなおっさんたちはほっといてさっきの女の子を探しに行こうぜ!」


 「落ち着け。ああわかってる、だから勝手に行動す……」

 「シンイチ、危ない!」


 優ちゃんが叫ぶ!


 なんと死んでいたはずのゾンビと化した教頭先生がむくりと起き上がったのだ!


 まさか死んだふりからの攻撃か?しかし友人の男が背後から狙いをつけると教頭先生はぴたりと動きを止めた。

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