第3話 女ゾンビを探せ
「シンイチ!ゾンビがスーパーアイアンハルクのタイヤを外そうとしてるぞ!くそぉ!あいつら考えやがったな!もうダメだろこれ!」
「落ち着け。タイヤが一つ外れても、まだ三つ残ってるからまだ大丈夫だ」
「シンイチ!あと残り一つだぞ!流石にこれ以上はもう無理だ!」
「落ち着け。また蹴散らしてやればいいだけだ……それじゃ優ちゃん、悪いけどまたお留守番を……」
「シンイチ……大好き……すやすや……」
「うわああくそおお!もう終わりだ!おしまいだあ!」
ショットガンを手に取った友人の男はヤケクソ気味に飛び出していくと、ゾンビの群れに容赦なく散弾を浴びせ続けた。
「お、おい、落ち着けって……まだ希望は捨てなくていいだろ」
シンイチも慌ててショットガンを手に取ると友人の男の後に続いていく。
「おりゃああ!死ねえぇ!くそ雑魚ゾンビどもがあ!」
友人の男のすさまじい猛攻にゾンビたちが次々に弾け飛んでいく。
あっという間に道路は真っ赤に染まり、シンイチも負けじとショットガンを乱射する。
「シンイチ!もうだめだこの野郎!」
「落ち着け。どうした?何をそんなにヤケを起こしてるんだ」
硝煙と腐った血の匂いが漂う中、スーパーアイアンハルクにしがみついていたゾンビたちは砕け散り、肉と臓物の山がうず高く積み重なっていく。
「シンイチ!男二人にかわいい女の子が一人、そんな話ってないだろう!」
「落ち着け。仕方ない奴だな……この危機を脱したら一緒に女を探しに行ってやるよ。これでやる気になったか?」
「うおおぉぉおぉお!!女女女、女女、女ぁあ!!シンイチいぃッッ!!」
「だから落ち着けって!」
そして二人は背中合わせに回転しながら乱射を続け、ゾンビの集団をもはや動くことのない肉の塊へと変えていく。その姿はさながら無敵要塞!
それからものの数分でゾンビ集団のことごとくは肉片となって土に還り、束の間の静寂が訪れたのであった。
「シンイチ!そろそろ車を乗り換えないか?」
「落ち着け。タイヤを替えればまだまだ走れるさ」
「シンイチ!そうじゃない、こんなボロボロの車に女の子を乗せてたら愛想をつかされるだろ」
「落ち着け。だけどお前の言うことにも一理あるな……優ちゃんのためにも新しいスーパーアイアンハルクにしたくなっちゃったよ」
「シンイチ!そうこなくっちゃあ!まだまだ希望を捨てちゃあだめだぞ!絶望の淵から這い上がってやる!」
「落ち着け。調子のいいヤツだな。じゃああんまり腐ってない女から探すことにするか」
シンイチは再びハンドルを握る。
世界が終ろうが車が大破しようが好きになった女がゾンビだろうが何時だってチャンスはある。それがシンイチの信条なのだ。
「うーん……むにゃむにゃ……シンイチ、もう海についたの?」
「まだだよ優ちゃん、ごめんな」
「ううん、いいの。シンイチ、好き……」
優ちゃんは後部座席で安らかな寝顔を見せている。
「シンイチ!探せ!女だ!そこまで腐ってないやつだぞ!」
「……」
「シンイチ!女だぞ!女だ!」
「落ち着け。わかってるよ」
血走った目で前方を睨みつける友人の男をなだめながら、シンイチは女ゾンビが沢山いそうな施設を頭の中でピックアップしていた。
美容院にヨガ教室、それからエステ……どこに行ってもゾンビがたむろしているだろうが今の友人の男にとってはどれもこれも宝の山に違いない。
「シンイチ!女だぞ!女だ!」
「落ち着け。わかってるっつーの!」
前方に見えたのはひときわ目立つ白い壁の病院のような建物だ。
ガラスがいくつか割れてはいるものの全体的にはそこまで損傷しておらず、ゾンビの襲撃からうまく免れているように見えた。
女ゾンビどころかあるいは生き残りの人間も……シンイチは祈るような気持ちで駐車場に車を停める。
「……ここは動物病院じゃねーか。こんな所に女がいるってのかシンイチー?」
「まあな、病院だしナースくらいいるんじゃね」
「なるほど、考えたなシンイチ!行こうぜ!」
「ちょっと待て、優ちゃんを起こすから……優ちゃん、ごめん起きて」
「んん……なにシンイチ、もう着いたの?」
優ちゃんを優しく揺り起こし、慎重にドアを開ける。
この先に待っているのは戦場かもしれない。決して油断してはいけないのだ!
院内に入ればそこにはやゾンビの存在を裏付けるかのような光景が広がっていた。
待ち合い室に散らばった制服と思わしき衣服の残骸や、引きずられたような血の跡がその時の惨状を物語っている。
「シンイチ!俺の思った通りだ、ここには女ゾンビがいるぞ!」
「落ち着け。あんまり腐ってない子だといいな」
調子のいいやつめ、と思った次の瞬間、友人の男が突然血相を変えて叫んだ。
「うああ!でっ、出たああぁあ!」
友人の男の視線の先に一体のナースゾンビの姿が見えた。
頭は腫瘍化した腐肉で大きく盛り上がり髪も崩れてしまっているものの、それでもなお美しい顔立ちであることは疑うべくもない。
だが血の通わぬはずのその姿からえも言われぬ魅力を感じさせるのだから人間の脳というのも恐ろしいものなのかもしれれない。
「おい、あっちにもいるぞ」
「シンイチ、あの人たち何かしてるみたいだよ」
不思議なことに、ナースゾンビたちはシンイチたちに襲いかかってくるわけでもなく、かといって意味もなく徘徊を続けているわけでもなく、何か目的を持って動いているように見えた。
そしてその目的はすぐに明かされることとなる。
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