喰らう代わりに口付けて

黒い白クマ

喰らう代わりに口付けて

アカリはマニキュアを塗るのが下手だ。


「除光液使ってもいい?」

「好きにしろ。終わったら窓は開けろよな。」

「うん。」


そんなに頻繁に塗らないからというのもあるかもしれないが、元来不器用な質なんだろう。爪だけに塗ればいいはずのそれは必ず指先の皮膚を汚す。落ち込んだ時に彼女はよく自分の爪を赤く塗るが、沈んだ顔と赤く染まった指先は未だに私をぎょっとさせる。


いつもそんな様だから、彼女が爪を塗るのは必ず入浴の前だ。今だって、そう。塗り上げてから周りにはみ出したマニキュアを拭き取って、それでも皮膚に残った色は、浴槽で落としてしまう。湯船に浸かっている時に擦ればすぐ取れるよ、とアカリが説明してくれたが、マニキュアを使う気のない私には関係の無い話だった。


潔癖のきらいがある彼女は、私よりも先に入浴をすませる。いつだって、彼女があがった後の浴室は入浴の痕跡が見当たらないほど綺麗に片付いていた。髪の毛1つ、残さずにだ。かかったタオルと敷き詰められたタイルが濡れていることだけが、アカリがついさっきまで同じ浴室を使っていた数少ない名残だった。マニキュアを落としたはずの日でさえ、浴室は綺麗な状態で渡される。落としたマニキュアが浮いているようなことは無かった。


不器用だが、器用な奴だ。彼女がマニキュアを上手く塗れないことなんて、丁寧に仕上げてしまえば分かりやしない。ベチャベチャに指先全部染まっていたのが嘘みたいに、綺麗に整った爪先が彼女を完璧に武装させる。皮膚から浮いたはずのマニキュアは掬われて髪の毛と一緒に流されて、まるでなかったように隠される。


整えられる前の染まった指先を知るのも、隠されたはずの彼女の生活の痕を排水溝に見るのも、共に住んでいる私ただ1人だけだ。


そんなことを、アセトンの香りを肺に吸い込みながらぼんやりと考えた。アカリが除光液の蓋を開けたから、すぐに部屋はこの香りでいっぱいになる。


「除光液変えたのか?匂いが前よりキツい。」

「変えた。前のやつ、匂わないけど全然落ちなかったんだよね。」

「なるほどな。」


読んでいた本をテーブルに放ってからソファを降りる。後ろから肩に手を回して、彼女の手元を覗き込んだ。くるくると回すことが出来る彼女のワークチェアが揺れた。


彼女の爪から少しずつ黒が消えていく。


アカリがマニキュアを落とすことも下手だと、知っている。同時に、落とし損ねた色も最後にはベースコートで綺麗に隠して無かったことにしてしまうことも、知っている。


不器用で、器用な奴。


彼女の作業机に赤いマニキュアが出ているのを見て、私は少し口角を上げた。滲む彼女の弱みを見る度に浅ましく喜んでしまう自分が嫌いだ。


「人がマニキュア塗るの見てても、楽しくなくない?」

「そうか?面白いさ、へったくそで。」

「下手で悪かったな。やってみなよ、難しいんだから。」


ベースコートが残った黒を覆うと同時に、爪からはみ出して手を汚す。


「本当に下手だな。」

「ハケが大きいのが悪いんだよ。」


笑えば、アカリも肩を揺らした。離れた自分の机にあるワークチェアを引っぱってきて、私は彼女の横に座った。


家で1番広い仕事場兼リビングのこの部屋には、作業机とワークチェアが二つずつ、それからテーブルと大きなソファが置いてある。仕事場、といっても2人とも大学生なのだから、勉強部屋という方が正しいかもしれない。それでもアカリはここでバイトの丸つけもしているし、私はここで服のデザインもしているので、見栄で仕事場と呼ぶようにしている。


「貸せ、やってみる。」

「……なんか、言い出しといてアレだけどユズはそつなくやりそう。」


上手くいったら今度からやってもらおうかな。きっと何気なく言った言葉を拾って、約束だぞ、と押し付ける。真意に気がついているのかいないのか、彼女は笑って頷いた。作業机に置かれた彼女の手を取る。


「……また、噛んだな。」

「ちょっとだよ。」

「どこが。」


マニキュアがつかないように、と彼女の袖をまくれば赤黒い痕が現れた。ミシン目のような痕が緩やかにカーブを描くそれは、見慣れた歯型だ。甘噛みでは絶対につかない、はっきりとした鬱血痕。黙ってそれをなぞれば、アカリは擽ったそうに笑った。


「噛みたかったんだから、しょーがない。」

「そう言ってしまえば、まぁそれまでだろうが……。噛んで、治まったのか?」

「んー……」


苦笑いで返事をされて、私はまた少し口角を上げた。言葉を促すこともせず、黙って彼女の爪を覆っていく。案の定、はみ出すことも無く綺麗に塗ることが出来た。ベースコートを塗り終われば、アカリが乾かそうとしているのか手をパタパタと振る。


「何か嫌なことでも?」

「別に。いつも通り、なんか、色々。もうそろそろ今年終わるなーとか、来年度もう3年だなーとか、インターンどーしよっかなーとか。」

「考えたくないから、か。」

「そー。」


彼女が爪を塗るのも、彼女が自分の腕を噛むのも、理由は同じ。


考えたくないから。


ぐちゃぐちゃに絡まった思考回路に対処出来なくなった瞬間、彼女は真っ先に痛みに逃げ込む。腕に歯を目一杯喰い込ませた瞬間だけは、痛みで気を紛らわすことが出来るから。


もう少し余裕があれば、何かこういう作業を始めて気を紛らわす。だから彼女がこうしてマニキュアを手に取った時点で、まだ思考から逃げ出そうと藻掻いていることは明白だった。私がそれを知った上で、治まったかと聞いてきていることをアカリも分かっている。


「分かってるのに聞かないでよ、ユズ。」

「はは、バレたか。」


だからアカリはいつものように、ただ眉を下げて苦笑いを浮かべるのだ。嫌な事聞くなぁ、と。


アカリは不器用だが、器用な奴だ。悩み事なんてありませんみたいな面をして、実の所心の中で吼えて暴れる有象無象を全部自分に向けて牙を剥くことで消化している。いつだってギリギリでその面を保っていた。


人にそれを見せなかった。人にそれを向けなかった。私にそれを見せなかった。私にそれを向けなかった。


それが私は大層不満であったのだ。だから、よせばいいのに踏み込んでいく。


「他に、何かないのか?気を紛らわす方法ってやつが。」

「……あるこた、あるけど。」

「ふぅん?教えてくれよ。」


アカリは一瞬言葉に詰まって、くるりと机の方に椅子を回した。そのまま、掌をぺたりと机に置く。


「引くなよ。あとセクハラとか言うなよ。」

「あるとしても逆じゃないか?聞いているのは私なのだし。」

「それもそーね。」


顔だけこちらを振り返って、アカリがニィ、と笑った。


「気持ちいいこと。痛いのと一緒で、快楽でいっぱいにしとけば楽でしょ。」


アカリはいつも通りの声色でそんなことをケロリという。なんとなく予想はついていたので、私もニィと笑った。


「へぇ?よく声が我慢出来てるな。聞こえたことないぞ。」

「1人じゃ声なんて出ないよ。調節効くし。」

「それもそうか。なぁ、噛むよりそっちの方が良いんじゃないか?痕も残らないだろ。」


机に置かれた彼女の手をするりと撫でる。噛み痕、痣、引っ掻き傷。綺麗な彼女の手がこんなに痛々しくなるくらいなら、快楽に逃げる方が健全な気がした。いつかきっと、アカリはやり過ぎて取り返しのつかない怪我をする。


「まぁ、自分でやるには限度があるでしょ?痛みの方が、手軽に強い衝撃作れるって言うか。昼間から盛る訳にもいかないし?」

「はは、そりゃそうだ。」

「それに自分じゃなかなか、思考が飛ぶくらいイイコトも出来ないからね。」

「つまり、飛ぶくらいイイならそっちを頼るって言うんだな?」

「……ま、別に痛いのが好きなわけじゃないからね。そりゃその方がいいけど、頼る人もいないから。」


視線が合う。まるで喧嘩をしている時のような、キツい目線。一瞬睨み合った直後、立ち上がってアカリの顎を掬う。何か言いかけて開いた口に噛み付いた。


驚きに大きく開いたアカリの目に、こちらも目だけで笑いかける。顎から頬に手を滑らせて、空いていた手で頭を引き寄せる。彼女の目が苦しげに細まったのを合図にして、ようやく解放してやった。


「……首いてぇ。」

「感想はそれだけか?バカ言えって突き飛ばすところだぞ。」

「や、無理だよ。私今、両手塞がってんだけど。」


くるりと椅子を回してこちらに向き合って、アカリはひらひらと両手を振った。速乾性のベースコートはとっくに乾いている。それを、私もアカリも知っている。


「じゃあ、次は舌でも噛んで抵抗しろ。」

「どうせなら、これ塗り終わってからにしてくれない?」

「……換気して、風呂も済ませて?」

「そーいうこと。」


挑発的に、アカリが笑う。


あぁ、また歯車が狂った。


胸の内で呟いて、今度は隠しもせずに思い切り口角を上げた。


***


アカリは、ただの友人だったはずだ。


最初に歯車が狂ったのはいつだろう。初めて目にした時か、それとも、本人から聞かされた時か。


初めて彼女の悪癖を本人の口から聞いたのは、高校3年生の頃だった。もう2年以上前になる。


「ユズ、何に怒ってんの?」

「何、ってお前……」


アカリの腕を握ったまま、私は馬鹿みたいにただ黙って彼女を睨むことしか出来なかった。見られたという気まずさも浮かべずに、ただ不思議そうにこちらを見てへらへら笑うその面に、言いたいことが喉元まで来ては散り散りになっていく。


ただ、見た事のある背中に近づいただけだ。待っててくれても良かったのに先に帰ってコンビニで買い食いなんていいご身分じゃないか、と肩を叩いてやろうとした。突然立ち止まったその背中に不思議に思って足を止めた、その時。


目の前で彼女が電柱を殴った。


いや、殴ったと言うよりも、右腕全体をそこに叩きつけるみたいに、ぶつけた。人の体はあんなに勢いよくぶつけても、案外音は鳴らないものらしい。鈍い重い音が辛うじて耳を掠った。何が起きたか理解する前にもう一度彼女が腕を振って、人通りのない道にまた鈍い音がした。


当の本人が痛みをこらえるように呻いた声が脳に届いた瞬間、咄嗟に走り出した。足音に気がついたアカリが振り返って、こちらを見る。


ぶつけた方、右の腕を取れば、彼女は少し眉を寄せた。左手に持ったコンビニのチルド飲料のストローから口を外して、アカリは何に怒っているのか、と不思議そうに聞いた。


「帰る約束してないよね?教室にいなかったから帰ったんだと思ってた。」

「そう、じゃ、ないだろ。」


手を離せば、彼女はじゃあ、何?と至っていつも通りに訊ねる。私が口ごもっている間にも、残り少ないカフェオレがするする減っていく。


「何を、していたんだ。」

「何って?」

「……電柱。」


適切な言葉を拾うのに苦労して、ようやく転がり出したのは説明にならない単語だけだった。それでも彼女には伝わったようで、ひとつ頷く。


「電柱くらい丈夫なら別にいいかと思ったんだけど。ま、物に当たらないに越したことはないか……気分悪くしたならごめんね。」


妙にズレた答えに、そうじゃない、と殆ど掠れて音にならない言葉を落とした。


そうじゃない。


飲み終わったカフェオレのカップをそのままリュックの横ポケットにねじ込んで、アカリは家に向かって歩き出す。その横をいつも通り歩きながら、ちらりと彼女が右腕を擦るのを見た。


「何故電柱なんか殴ってたんだ。……なにか、腹の立つことでも?」

「そんな感じー。」

「いつもか?」

「いつもって?」


努めて軽い話題のように言葉を運ぶ。


「腕の痕、ああやって全部自分でつけたのか?」

「……見えてた?」

「時々な。」


そう。知っていた。見ないふりをしていただけで。いつの間にか長袖を着ていることが増えた事とか、時々袖から覗く痣とか、手の甲に残った噛み痕とか。知ってはいた。でも、何も言わなかった。


アカリとは一等仲が良かった自負があったから。だからこそ、彼女の言葉を信じた。


「あー、これね。うん、引っ掻いた。」


一瞬、目に入った赤い痕。初めて見たのは、いつだったか……あぁ、修学旅行で二人部屋に泊まった時の話だ。だから、高校2年生の時。


シャワーを浴びるから、と彼女が羽織っていたパーカーをベッドに放った。その時に目に入った腕についた痕に、掻いたのかと何気なく尋ねたことをはっきりと覚えている。そう、と答え脱衣室へ向かう彼女の背中を見ながら、釈然としなくて首を傾げた。


引っ掻いたのかと聞いたのはこちらだが、引っ掻いたところであのような痕にはならないだろう。傷は線状ではなかったし、広範囲でもなかった。どちらかといえば、虫刺されか、かぶれたか、あるいは。


ふと思い当たり無粋なことを聞いたかと肩を竦めたが、同時に彼女にそんな相手がいるようにも思えなかった。四六時中といえば語弊はあるが、放課後も休日も、殆ど共に時間を過ごしていたというのに。いたとすれば相手を随分と放っておいていることになりそうだが。


そのホテルでの出来事以降、意識して観察しているうちに段々と不自然さに気がついた。


夏でも長袖を着ている日が増えた。何気なく捲った袖からは、あの時と同じような痕や痣が見えることがあった。手の甲に、ミシン目のような噛み痕が残っていたこともあった。


一体、誰が、何故。同意の上か、それとも。


「……なんか、悩みがあるなら言えよ。」

「え、なにユズ。藪から棒だね。」

「いや。少し気になっただけだ。」

「なにそれぇ。」


当たり障りなく聞いて、平気そうじゃないかと安心して。話しにくい話題だから、と先延ばしにして。そうやって、1年近く。目の前に広げられた正解は、想像していたものよりもある意味深刻だった。


「そっかぁ、見えてたかぁ。」

「いつからだ。」

「え?」

「いつから、そうしているんだと聞いている。」

「えー、いつからだろ?あんまり考えたこと無かった。」


ついた習慣がいつから始まったかなんて意識することは無い。裏返せば、いつから始まったか分からないのならばそれはもう生活の中に組み込まれた習慣であるということ。非日常として私が息を呑んだ光景は、彼女にとっては日常の光景だった。


「嫌なことがある度、電柱を殴って歩いているのか?難儀な奴だな。」


無理やり頬を引き上げる。どう振る舞うのが正解か分からないから、へらへら笑う彼女に合わせて世間話のように言葉を続けた。


「外じゃ滅多にやらないよ、人が見て気分がいいもんじゃないのは分かってるしね。大抵寝る前とか。」

「部屋で?」

「そ。てかベッドの中?私寝付き悪くて。寝られないと色々考えるでしょ?大学受験の事とか、その先のこととか。」


そんなにしょっちゅうはないだろう。返しかけた言葉を飲み込む。私にはなくても、彼女にとってはよくある話なのだろう。否定することは出来ない。


「昼間に眠そうなのはそのせいか?」

「やだな、別に昼夜逆転した結果とかじゃないよ。体質なんだよね。偶然夜寝れた時も昼は確実に眠いし、徹夜した次の日でも夜は目が冴えてる。」

「……難儀だな。」

「ホントにね。人間の世界は夜型に厳しいから。寝れないから考えちゃって、考えちゃうからどうしようもなく死にたくなる。」


寝たい時に寝られればいいのに、と笑って彼女はこちらを見た。本当に、あまりにもいつも通りの顔で。


「どうしようもなく死にたくなったら、ユズはどうしてんの?」

「……どうしようもなく死にたくなったことが、ない。」

「あは、ユズっぽい。……私ねぇ、脳は不随筋だと思うんだよね。」

「また唐突な。そもそも脳は筋肉だったか?」

「イメージの話。止め方がさ、分からなくて。へこむだけなんだからやめとけばいいと思っても、思考は止まらないから。」


死にたくなっても、止まらない。いっそ楽しげな声で、アカリが呟く。


「考えるの嫌いなの、私。なのに頭が勝手に考える。ほら、痛い時は、痛いことで頭がいっぱいになるでしょ?だから寝られなければ腕に歯を立てる。それだけ。」


授業の愚痴や家での出来事を私に話す時と同じように、身振り手振りを交えながら楽しげにばら撒かれた彼女の弱い部分。聞かれれば誰にでも見せるのか、それとも先程私が偶然目にしてしまったからなのか。常は欠片も見えぬよう懇切丁寧に仕舞い込まれていたはずのそれは、随分あっさりとこちらに向けて開かれた。


彼女はずっと、笑っている。


「最初は肩とかさ、服着たら絶対見えないところ噛むくらいで良かったんだけどね?楽になるって分かると、ついつい。」

「それで長袖が増えた、と。」

「そー!最近は外でも人に見られてなければつい自分で腕とか殴っちゃうからいつ痣増えるか分かんないし。あ、あぁやって物に当たっちゃったりするのはホント滅多にないんだよ!」


そこを気にしているわけじゃないんだが、と思わず眉を寄せる。その表情を見て何を勘違いしたのか、彼女は慌てたように言葉を重ねた。


「痣、やっぱり見えるといい気はしないよね?ごめんねぇ、もうちょいちゃんと隠すからさ!」

「……親に見られたりはしないのか。」

「ないない、脱衣場あるし。ユズくらいじゃないの、気がついてるの。」

「そんなものか?」

「いつも一緒にいるからさー。」


なら良かった。一瞬浮かんだ言葉にかぶりを振る。振り返れば、私だけが知っているのかと安心しかけたあの時点で、既に独占欲が芽生えていたのだろう。


「……やめる気は?」

「大丈夫、見えないようにやるから!」


笑うアカリに、次にかける言葉が思いつかなくて黙り込む。周りに迷惑をかけなきゃ、別にいい。その主張も、一理ある。一理ある、のだが。


「寝られればいいのか?」

「寝られればって言うか、考え込む時間がなきゃ、別に。わざわざ痛くしたいわけじゃないし。でも寝れないのは体質だし、考え事する時間は他にも結構あるし?」

「それも、そうだな。」


結局、あの時は止める言葉が思いつかなかった。そもそも、止める理由があるのかと聞かれれば答えることも出来ない。別に私がなにか不利益をこうむる訳では無いのだから、聞かなかったことにすればいい。それだけだ。


***


次に歯車が狂ったのは、偶然一人暮らしの場所に選ぼうとしていた駅が彼女と同じだったことに気がついた時だろう。


志望校の最寄りはバラバラだったが、お互い最寄りから近い家賃の低いところを探した結果同じ駅に行き着いたのだ。


「じゃあもういっそ、同じ部屋に住むか?」


家賃が安くなる、とか、家事が楽だ、とか。それらしい言い訳はいくらでもあった。それでも。咄嗟に出たその提案は、きっと彼女の癖を知らなければ思いつきもしなかったに違いない。


「あぁ、それいいね。私料理出来ないし。」

「はぁ?シェフ扱いする気か。」

「他のことやるからさぁ。ユズ、掃除下手でしょ。」

「掃除が下手なんじゃない、整理が苦手なんだよ。」


その場では、お互いただ適当に思いつきを話しただけのように話題は流れていった。


どうせ彼女のことだ、忘れているだろうと思っていた。思いの外、お互いの合格がハッキリとした時に再びアカリの口から提案される程度には、彼女の記憶に引っかかっていたらしい。


「ねぇ、なんか住むのに外せない条件とかある?」


合格の報告をしたら、寄越された返事はそれだった。


「……アカリも受かったのか。」

「うん。何その顔、落ちると思ってた?」

「いや、まさか覚えてると思わなかった。」

「あ、ジョークのつもりだった?言質は取ってるからな、頼むよシェフ。」

「シェフ扱いする気満々じゃないか……」


ポーズだけ溜息をついて、いいだろう、と返事をやる。妥協したような面をしながら、実の所安堵の息を吐いただけだった。


――これで、見張れる。


そんな楽観的な予想はすぐに砕かれることを、当時の私は知らなかった。


多少の大声が問題にならない程度に壁が厚い部屋。それが、アカリの提示した唯一の条件だった。その真意を、その時は知らなかった。


「やー、私達すぐ騒がしくしちゃいそうでしょ?」

「まぁな、お前も私も笑い声が大きい。」

「そうそう!」


そうは言っても、賃貸の壁は軒並み薄い。どうしたものかと悩んだが、問題はあっさり解決された。


近辺に住んでいたアカリの伯母さんが、丁度引っ越すところだったのだ。引っ越したあと売る予定だったマンションの一室を、私達が卒業するまで4年間破格で貸してくれることになった。結果、騒音問題を気にせずに暮らせる2LDKを学生の身で手に入れたわけだ。伯母さんちの近くに住めばいざと言う時頼れると思ったのになぁ、と下心ありで住む駅を決めていたらしいアカリはちょっと不服そうではあったが。


彼女の悪癖を知り、それを止められるのではと共に暮らすことに決めた時点でも、まだ私は彼女を「仲の良い友達」として認識していた。それが変わったのは――次に歯車が狂ったのは、初めて彼女が泣いたのを見た日か。


二人暮らしが始まって、意外とお互いの生活リズムが異なることに気がつく。いつも決まった時間に講義がある私とは違って、アカリの講義は曜日によってかなりコマの数が違った。


その日、アカリは全休の曜日であった。最終講義が教員の都合で休講となり、いつもよりも早く学校が終わった私は、別に連絡するほどでもないかとその事を伝えずにマンションに戻った。


ドアを引いた、瞬間。


「っとにいい加減にしろよ!いっつもこうだ、あぁクソそろそろ学んだらどうなんだ!同じような失敗ばっかさぁ!」


靴を脱ぎかけたまま動きが固まる。慌てて玄関に並んでいる靴に目を滑らせた。見知らぬ靴は、ない。アカリは確かに1人のはずだった。ならば電話だろうか。


――嫌な、予感がした。


取れる選択肢は2つ。わざとドアを大きな音を立てて閉め、彼女に自分が帰ってきたことを知らせるか。ただ黙って、彼女に気づかれぬように部屋に入るか。


おそらく彼女はリビングにいる。ドアを隔てて、また声がした。


「ごちゃごちゃ考えてる暇があるなら動けよ!動け、頼むから……」


萎んだ声は、途切れて聞こえなくなった。音を立てぬように靴を脱いで、廊下を歩く。ドアノブを慎重に回して、リビングを覗き込んだ。


人が人を殴るのを、私はその時まで見た事がなかった。


パン、と肌と肌があたる乾いた音が鳴る。想像よりも、ずっと軽い音。


ソファに座って、彼女は右手を左腕に振り下ろす。何度も、何度も。それが戯れじゃないことは明白で、勢いよく下ろされる拳は加減されているようには見えなかった。


泣いていた。表情は見えないけれど、叱られた子どものようにしゃくり上げる声が聞こえた。


馬乗りになって怒鳴りながら拳を振り下ろしているのを、見てしまったような気がした。泣きながら殴られる人を、見てしまったような。そのどちらも彼女なら、私はそれを止める権利があるのだろうか。


一度ドアを閉めて、音を立てないように玄関に戻る様が我ながら滑稽だった。靴を履かないまま玄関に降りて、音を立てぬように家のドアを開ける。深く、息を吸った。


「ただいま!」


ガシャンと乱暴にドアを閉め、帰宅を告げる。いつも通り自分の寝室に寄って荷物を放ってから、さも今帰ったかのようにリビングのドアを引いた。


この少しの間に、アカリはソファに寝転んでいた。スマートフォンを持った右腕で顔を覆っていたが、色の薄い服が濡れて変色しているのが見える。左腕はソファの横に力なく垂れていた。


「今日早かったねぇ、ごめ、今ちょい映画見てて情緒ガバなんだよね。」

「……泣いているのか?」

「そー、泣いちゃった。」


ほら見て、とスマートフォンを掲げて笑った顔に、言葉に詰まる。こうやって塗り固めて、全部無かったことにしてきたのか、こいつは。


そんなに頼りないか、私は。その程度の存在か。なぁ、辛いのならば全部私にみせてしまえ。


咄嗟に浮かんだ怒りに、戸惑う。


狂って、狂って、間違ったところにカシャリと歯車が嵌った。


仲のいい友達だった。アカリが大切だった。同時に、自分よりもずっと器用で、容量が良くて、頭の良いお前が眩しかった。


順風満帆な人生を歩んで見えたお前が、私の何倍も生きることを苦手としていることを。ギリギリでその笑顔を保っていることを。ずっと上にいると思っていたお前が今目の前に落ちてきたのを、知って。


なぁ、手に入れられるじゃないかと、そう思ったから。要らないのならば私に寄越せと思ったから。


だから初めて、お前が欲しくなったんだよ。


「なぁ、左腕どうしたんだ。」

「え、」

「いや何、動かしづらそうに見えてな。」


白々しく問うて、私は彼女の左腕をとった。


私に悪癖を話して以降、彼女は一緒に住んでもなおその鱗片すら見せなかった。ただ最近、脱衣場のドアを必ず閉める、暑いだろうに頑なに長袖を着る日がある、といったことが気にかかっていた。


彼女が焦ったように何か言うのを無視して、袖を上げる。まばらに散った鬱血痕と、先程の殴打で腫れた場所が顕になった。するりと手を這わせれば、赤く腫れた場所が熱を持っているのが伝わる。


「これも、自分で?」


知っていた。それでも、彼女の口から確かめたくて尋ねた。アカリの目が言い訳を探して泳ぐ。


「……暫くは、収まってたんだよ。大学に慣れるのに必死だったからね。」


忙しくて死にそうな時、案外人は上手く息が出来る。脳のキャパシティに余剰が出来た時、人は気が付かなくていいことに気がついて呼吸を忘れる。


「でも、最近はそうだね、」

「……なぁ、やめられないのか。」

「見せないように気を使ってたつもりだったんだけど。」

「見えるか見えないかじゃないんだ。痕が見えるから不快なんじゃない、お前がこうやって自分を傷つけるのが、私はたまらなく嫌なんだ。」

「なんで、」


赤い目がこちらを睨みつけた。


「なんで、そんなに私のこれが嫌なの。ユズには関係ないでしょ。目につかないようにするから、気にしないでよ。」


なんで、か。かつてはぼんやりとして言葉に出来なかった独占欲を、私は慎重に口にした。逃げられては元も子もないのだ。


「例えば、そうだな。私が作った……なんでもいい、デザイン画にしようか。」


自分の作業机に近づいて、先日アカリがいたく褒めちぎったコートのデザイン画を手に取る。それを彼女が見えるように掲げて、首を傾げた。


「これを私が君の目の前で捨てようとしたら、止めないか?」

「……捨てるくらいなら、頂戴とは、いうかも。」

「どうして?」

「どうして、って……勿体ないでしょ。」

「それと、同じさ。」


戸惑いの表情を浮かべたアカリに、笑いかける。


「勿体ないじゃないか。いらないなら、私にくれればいい。」


そう言えば、一瞬彼女はぽかんとした顔をした。笑う私に長々と溜息をついて、人間は譲渡不可なんですけど、と呆れた声で呟く。


「体だけ切り離してあんたにあげられる訳じゃないんだから。」


それでも、彼女はそれ以降私がその行為を咎めても「関係ない」とは言わなくなった。声をかければ止めるようになった。痕をわざわざ隠そうとしなくなった。


そうして緩やかに彼女の悪癖は継続されたまま、同居は2年目を終えようとしていた。


***


アカリの悩みを解決してあげるべきなのではないか。否、そう上手くも行くまい。だいたいがところ1つの悩みが片付いたところで次の悩みが湧くことは明白である。


就職に関しては、まぁ彼女なら何とかするだろう。以前、


「お前なら如何様にもなるさ。」


と言った時は


「その信頼が困るっつってんだろ。」


と目をつり上げられたが。


それに、何ともならなければ、ならなかった時にまた考える。私達は皆そうやって生きていくしかないのだ。他者が手を貸すところではない。


考えることは大切だ。残念なことに人間が脳味噌をここまでデカくし、社会を築き上げてしまった以上思考から何時までも逃げ回れるはずがない。


ただ、建設的に考えられる元気がある時に考えなければ意味が無い。気が滅入る一方なら一度考えるのをやめたほうがいい。"正常な"止め方があるのなら。


アカリの問題は、悩みそれ自体ではない。未来を考えるのが著しく苦手という生来の性と、思考をストップする方法が自傷しかない、という行動パターンが問題なのである。


「アカリ、またやったろ。」

「うげバレた。物には当たってないよ。」

「そーいう話じゃないつってるだろ。」


繰り返されるやり取り。


彼女の持つ途方もない加虐性と被虐性が彼女の外に向くことはほとんどなかった。加虐性が垣間見える瞬間はあっても、彼女自身に向けられたような熾烈さを見せることは無かった。


まぁ彼女自身、口がきついほうだ。尖った言葉がこちらに牙を剥くことは珍しい事じゃない。じゃれ合いの中で彼女の手が出ることもあった。それでも、こちらの顔にほんの少しの苦痛を読み取った瞬間、アカリはサッと顔色を変えてその牙を収め謝罪を口にする人だった。


彼女は自分自身が一番彼女の牙を受けていたから、牙を向けられた時の痛みを知っている。他人に加虐性を遺憾無く振るえるのは、その痛みを知らない人だけだ。彼女がそう出来るはずがなかった。


罵られれば痛い。殴られれば痛い。


自分を大声で罵倒する彼女が、自分を殴りつけて、皮膚を食いちぎる程自分に歯を立てる彼女が、それを知らないはずがない。


「ただいま、あー!お前まぁた噛んだな!」

「おかえりユズ。」

「噛むな、そのうち抉れるぞ。」

「うん、ごめんね。」


だから彼女はただ笑う。笑って自分に牙を剥く。見つける度に止めて、なにか気を紛らわせてやろうとしたけれど、それを完全に止めることなんてできなかった。それを私に向けさせることも出来なかった。


被虐性も、常は外に向かうことがない。彼女は痛みを好むわけではない。己でコントロール出来ぬような痛みを欲しがるはずはなかった。手網を握れるからこそ、それで気を逸らすことが出来るのだから。


それでも、時折それは外に向いた。


カッターを使っていて、不注意で手を切った時。うっかり物を落として足に当たった時。転んだ時。


彼女の目は、少し揺れる。


外部から与えられる痛みに、安心したみたいに、揺れる。


それが、怖い。いつかきっと、取り返しのつかない怪我をする。


「つまり、飛ぶくらいイイならそっちを頼るって言うんだな?」

「……ま、別に痛いのが好きなわけじゃないからね。そりゃその方がいいけど、頼る人もいないから。」


彼女と視線が合った時。外から与えられた痛みに揺れる時とよく似た、焦がれるような欲求を確かに見た。初めて露骨にこちらに向けられた被虐性。


――いつだって、手が届くと思った瞬間に私はアカリが欲しくなるんだ。


支配欲と独占欲に噛み合った歯車は、今日、キスを受け入れられてまた狂った。


「ほら、風呂空いたよ。イイコトしてくれんでしょ、さっさと入ってきなよ。」


いつも通り、何の痕跡もない風呂場を覗く。軽い潔癖症のアカリが触れられることを受け入れたのが意外だった。せめてもの敬意として、何時もよりも丁寧に泡を滑らせる。


「前にさ、ユズは捨てるなら寄越せって言ったでしょ。」

「……言ったな。」


バスタオルで髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜながら脱衣場を出る。ソファに寝転んだアカリが、億劫そうにこちらに顔を向けて問う。


「それってつまり、好きなの?」

「……ん?」

「ユズ、私の事好きなの?」


髪を拭く手が止まった。


「好きなもん目の前で壊されるのは嫌かなって思ったから控えてたんだけど。」

「……控えてたか?」


取り敢えず自傷の話をしていることは分かったので、いつもの調子で答える。頭の中ではぐるぐると先程の問いが回る。


「控える努力をしてたんだけど。」

「あぁうん、控える努力は見られたな。」

「でしょ?それで、今も私の要望に乗ったわけだからさ。好きなのかぁって、聞いとこうかと思って。」


あぁ、またあの目だ。ほら好きにしてくれよと、自暴自棄にこちらに投げ捨ててくる。向けられた被虐性。そのくせ、こちらの思いを気にしてみせる。何処までも、気遣ってみせるのが、気に食わない。


「……あー……好きかどうか、つーと、それはあれだよな?人としてとか、そういう話では無いんだろ?」

「そういう話では無いね。や、そういう話なのかな?私もよく分からないから聞いてる。」


ずるずると変化してきた距離感。もう中学の頃からの付き合いだ。確かにただの友達だったはずなのに。好きかって?どうだろう、嫌いならこんなに長く一緒にいやしないだろうが。もし嫌いと答えたら、お前はどうするんだ。


ソファに近づいて、彼女を見下ろす。拭ききれてない髪から、彼女の頬に水が落ちた。


「……お前が傷つくのは嫌だし、止めるのは私でありたいと、思う。」

「結構な殺し文句だねぇ。」

「お前は?私でいいのか。」

「んー……気を紛らわしてくれるのは誰でもいいけど、1番信用できるのはユズかなぁ。」


ああそれに、と呟いて彼女が身を起こした。首に回った腕に引かれて、ソファに崩れる。咄嗟に、体重を逃がすように彼女の顔の横に手をついた。


「私はユズが1番大切だから、君が私よりも大切にするものがあったら嫌だなぁ。」

「……それは、気持ちの話か?」

「そーだね。」


目線が絡む。濡れた髪がカーテンみたいに彼女の顔の横に垂れていた。腕に回ったままだった手が、私の頬を撫でる。


「1番じゃなきゃ、こうはなってないだろ。」

「どうかな?」

「じゃあ、言い方を変える。私もお前が1番だから、私以外にはこうするな。」


きゅうと彼女の目が嬉しそうに細くなった。


「いいよぉ。」


彼女の返事が鼓膜を揺らす。


手に入りそうだと思ったと同時にこの劣情を自覚した。では、手に入れば興味は失せるか?


――否。


あぁ、自分よりもずっと器用で、容量が良くて、頭の良い、順風満帆な人生を歩んでいるお前が。


「……お前の部屋にお邪魔しても?」

「ふふ。髪乾かしてからおいでよ。」


組み敷くような体勢から体を持ち上げる。わざとらしく手を貸して彼女がソファから立ち上がるのを手伝った。


リビングから出ていく背中を目で追ってから、棚にドライヤーを取りに行く。


自分よりも高い位置にいた彼女を、独占欲のままに引きずり落とした。


これは、恋か?


乱雑にタオルで髪を混ぜながら自問する。


どうでもいいような気もした。欲しかった物が、この手に落ちた。それだけで十分だ。


***


スープを火にかけて、タイマーを入れる。あとはタイマーが鳴れば朝食の完成だ。弱火だからまぁ、目を離して平気だろうと踏んでリビングに座った。


そろそろ10時を回りそうだ。休日とはいえ起こしてやるべきか。ただ昨日の今日だ、寝かせてやる方がいいかもしれない。そんなことを考えながらスマホの通知をタップして、友人から飛んできた雑談に目を通していく。


"恋人はいた方がいいよ、あんたも作れよ"


いつもなら偏見で固まった価値観だなとスルーする友人からのメッセージに、私はちょっと首を傾げた。耳に入った足音が思考を逸らす。


「おはよぉ。」

「立って歩けたようで何よりだよ、お嬢さん。」

「ばぁか、立って歩けないから壁伝いなんだけど。」


のろのろと寝室から出てきたアカリに思わず喉奥で押し殺したように笑う。もう一度ばぁか、と飛んできた文句に肩を揺らしてから手を貸してやる。


「あんだけ一方的にやられたらこうもなるよ、君、服すら脱がなかったし。」

「私はお前を何も考えなくていいくらいの状態にしたかっただけだ。私がどうこうなりたい訳じゃない。不満かい?」

「ユズがそれでいいならいいけど。」

「それ『が』いい。素面のまま乱れるお前を見るのが1番楽しい。」

「そーですか。」


趣味悪い、とボヤいて、彼女はソファに座る。本心なんだがなぁと肩を竦めてから、ふと先程のメッセージを思い出した。


「なぁ。」

「んー?」

「私達って恋人なのか?」


尋ねれば、アカリはきょとんとした顔でこちらを見返す。


「どう……どうだろ?まぁなんでもいんじゃない。私はユズの1番が私ならそれでいいよ。」

「そーかい。」


キッチンでタイマーの音がした。


「私は、な。結構独占欲が強い方なんだ。覚えておけ。」


口から出た言葉に、自分で少し驚く。目を見開いた彼女の手を離して、キッチンに足を向けた。


「やっぱり気が合うね、私達。」


弾んだ声に振り返れば悪戯っ子のように笑ったアカリと目が合う。降参するように、私はただ口角を上げた。

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喰らう代わりに口付けて 黒い白クマ @Ot115Bpb

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