第4話

女が日柴鬼銀の顔を見て怪訝そうな表情をした。

金髪の女性だ、黒いパーカーを着込んでいる。

夏場の様に熱い砂漠だからか、彼女の恰好は水辺で燥ぐ様な、黒いビキニにホットパンツを着込んでいた。


「誰だ、てめぇ?」


自動拳銃を向けながら聞く。

日柴鬼銀は手ぶらだが、臆する事無く彼女に言う。


「鉄屑屋だ、同業者だろ、お前」


同業者ならば、分かっている筈だと言う。

だが、その言葉を受けても彼女は不遜な態度を取る。

一歩近づくと、自動拳銃で日柴鬼銀の足元を撃った。


「おぉっと、それ以上近づくなよ?」


満面の笑みを浮かべる。

鮫の様に鋭い牙が見えた。

機械神に自動拳銃を向けて主張する。


「これはなぁ、あたしたちンものなんだよ」


彼女は脅しが足りないと思ったのだろうか。

深く被った黒パーカーを外した。

金髪の頭頂部に、機械改造された猫耳型拡張デバイスが装着されていた。


「いや…正確には、このキャスパリーグさまのもんだ」


キャスパリーグ。

その名前を聞いて、少なからず日柴鬼銀は反応した。


「(悪名しか轟かねぇ、悪辣猫キャスパリーグか)」


横領、掠奪、殺人。

鉄屑屋の中でも、先ず出会いたくない人物の一人だった。


「…鉄屑屋の鉄則があるだろうが」


苛立ちを隠しながら、鉄屑屋としての矜持を語る。


「先に撃破ヒットした奴の取り分だ」


それが暗黙の了解である筈だ。

だが、彼女にはそれが通用しないらしい。


「ああ?そんなもん、ここじゃ意味ねえだろうがバーカバーカ」


自動拳銃を再び日柴鬼銀に向ける。


「いま、ここで、ミンチにしてやってもいいんだぜ?」


後ろに居る機骸に目を向ける。

二体の機骸は、他の機械生命体が来ないか警戒していた。


「こっちは機骸が二体いんだぞ?」


彼女の命令次第で、このまま日柴鬼銀を殺害出来ると言っている。


「…脅してんのか?」


お道化た様子でキャスパリーグは言う。


「死にたくなけりゃ、脅しだけで済むぜ?」


日柴鬼銀は溜息を吐く。

そもそも、彼は許す気は無かった。

トラックに向けて弾丸を打ち込んだ時点で、だ。

このキャスパリーグの後ろにどれ程の後ろ盾が居たとしても。


「先に脅したのはそっちだからな」


即時。

発砲音が二つ。

それは、銃火器を構える取り巻きが発砲…したワケでは無かった。

日柴鬼銀の手には、過去、警察官に導入されていた回転式拳銃を握っていた。

音に驚き、日柴鬼銀の顔を見て発砲した事を悟り、後ろを振り向いた。

取り巻きの二人、その頭部には小さな穴が開いていた。

早業だった、一瞬にして二人を撃ち殺してみせたのだ。


「は?…あ!?て、テメェ、何をうぷッ!」


再び日柴鬼銀に顔を向けるキャスパリーグ。

自動拳銃を向けようとした、が。


「黙ってろ馬鹿が」


しかし、それよりも早く、日柴鬼銀は詰め寄ると共に彼女の首を腕で捕らえてこめかみに銃口を押し当てる。


「動いてみろ、撃ち殺すぞ」


その様に言い放ち、日柴鬼銀は牽制した。

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