私心譚

野棘かな

第1話

風に乗せ海に流せし我が想いカモメ聞いたか波がざわめく


血と肉と喰らい噛み締め毒を吐くワインの赤とフランスパンと


うるさいよチョキで挟んで捨てるから約束違反それはだめでしょ


懐かしきああその歌にときめいて振り向けばあの娘が笑う


指先で弾かれて飛ぶ恋ゴコロいとまいかほどその軽さゆえ


地に落ちたサクランボには目もくれず緑は緑へ季は移り行く


燃え色に夏の終わりを告げる花その名は別離花言葉なり


孤独かい孤高なのかと問うてみる壺に巣を張り動かぬ蜘蛛に


躊躇なく新しき名で呼ぶ君に心を閉めて微笑み返す


寝ころべばしっとりしみる砂浜の温み愛しき海に抱かれて


やわやわとエコストローがへたれると心が折れてカフェを漂う


言いたきを胸におさめて帰りゆく頬を濡らすは何のしずくぞ


五月雨にとけて流れるゆかりかなうなだれ揺れる紫陽花の花


雨粒のストップモーション顔に受け目頭熱く心が走る


宵闇を切り裂きて飛ぶ蛍火よわたしひとりの灯となれ


水際の腐れ小舟の黒い影どこまで長く我を追うのか


抗えず白衣に染み付く泥のはね揺らぎの中で穢れをみつめ


手のひらにあなたの名前を書いてみる不安要素がじわじわくるね


朽ちゆくはたれのせいかと恨めども帰らぬ道をひとり行くだけ


お互いの闇を見つめて立ち止まる一度緩んでピンと切れゆく






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私心譚 野棘かな @noibara

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