第41話 3C(2)


「確かに、この季節は『ドロッ』としたカレーが定番ですね」


 そう言って、夕陽ゆうひは「帰りにカレーを食べよう」という綺華あやかの提案に対し、シャバシャバカレーの否定とも取れる答えを返した。


 ポニーテールの綺華と違って、彼女の髪型は前上がりのロングボブで、キノコというよりは日本人形に近い。


 以前に行った彼女の実家では、確か巫女装束を着ていたハズだ。

 その印象が残っている所為せいもあって、夕陽には「和服の方が似合う」と言える。


 綺華あやかのフザケた(本人からすると真面目まじめな)発言に対して「色々とツッコミどころがある」と思うのだが――


(スルーらしい……)


 俺と同じで「反応するのが面倒だ」という理由ではなく、やはり綺華と波長が合うようだ。細かい事は気にならないらしい。続けて夕陽は、


むことによって、カレーとライスを一体化させる『ドロッ』とカレー。『味の深みとコクを感じる』といった所でしょうか? 一方で『シャバシャバ』のカレーは、スプーンで口に運んだ瞬間に、口の中でのどから鼻へスパイスの香りが抜けます。」


 『香りを食べる』といった所ですね――などと語る。

 その言葉を聞き、綺華は、


「フッ、流石さすがは夕陽ちゃんです」


 此奴こやつ、できるな!――そんな感じで、いてもいない汗をぬぐ仕種しぐさをした。


(いったい、なにと戦っているのやら……)


 何処どこかに台本でもあるのだろうか?

 すみません! 俺、その台本もらってないんですけど。


 カレー談義をする女子中学生というのも珍しい。

 もう少し見ていたい気もするが、今は仕事が優先だ。


 報告書の作成の他に、借りている部屋のかぎも返さなくてはならない。それに遅くなると「なにかあった」と思い、探偵事務所の人たちも心配するだろう。


「分かった、帰りにおごってやるから、店を調べておけ」


 そんな俺の台詞セリフに「やりました♪」「ヤッター♪」と女子2人。

 示し合わせたかのようにハイタッチをする。


 最初、内見の仕事に綺華が「付いて行きます!」と言った時は「どうしようか?」と悩んだのだが、問題なかったようだ。


(まあ、どの道……)


 断ると白鷺しらさぎ女史を始め、『呪い屋』や綺沙冥きさめさんから色々と言われそうなので、俺に選択肢はない。


 問題は「誰と組むのか」だろう。

 呪詛師じゅそしは2人以上で行動が義務付けられている。


 最初は犬飼いぬかいにでも声を掛けようと思っていたのだが、綺華とは相性が悪い。

 そこへ丁度「夕陽が遊びに来た」というワケだ。


 綺華には仕事が終わるまで「近くのファミレスで待っていてもらえばいい」と考えていたのだが、一緒に現場まで来ると言い張る。


 夕陽も本家の人間なだけあって、呪詛師としての格は俺よりも上だ。


「わたくしが綺華さんに付いていますので、問題ありません」


 と押し切られてしまった。どうやら俺は、綺華に対して過保護らしい。

 まあ、除霊といっても「俺が殴れば」だいたいはかたが付く。


 一方で夕陽は『呪符じゅふ』などの呪具を使うことにけていた。

 結界などを張る「支援タイプ」と考えるのがいいだろう。


 怨霊と対峙した際は、俺が前衛で彼女が後衛となる。

 役割的には間違っていないハズだ。


 しかし、1つ誤算があった。

 それはマンションに出る怨霊の正体が『人面ゴキブリ』だったことだ。


 動きが素早すばやいうえに素手でたたつぶすには抵抗がある。

 更にオッサンの顔が付いているのが腹立たしい。


 この場合、虫の背中に顔が付いている。

 数が1匹だけ――というのが、せめてもの救いだろう。


 1人暮らしで「なにかの気配を感じる!」といった時のは、きっとコレが犯人だ。

 幼虫ならわずか1ミリの隙間があれば、通ることが可能らしい。


 成虫でも数ミリの隙間で十分なようだ。いつの間にか家の中に入ってくる。

 換気扇や通風孔、サッシの隙間やエアコンの排水ホースなど、侵入経路は様々だ。


 流石さすがに5階くらいの高さなら大丈夫だろうが、マンションの低階層なら余裕で侵入する。


 夕陽に頼んで、猫の式神を使役してもらい、捕まえてもらう作戦に変更した。

 俺1人だったら、危なく素手でゴキブリをつぶすハメになっていただろう。


 怨霊よりもゴキブリの方が手子摺てこずるとは想定外である。


(まあ、無事に退治できて良かった……)


 いや、今はそれよりも、思わぬ出費になってしまったことを後悔すべきだろうか?

 しかし、喜んでいる2人の様子を見て、どうでもよくなる。


「じゃあ、早いところ点検を終わらせて帰るか……」


 まずは水回りだな――そんなことをつぶやいた俺の手を取り、


「甘五くん! お風呂を見ましょう♪」

「まずはキッチンですね♪」


 と2人。順番に見て回ればいいモノを――何故なぜか左右に分かれて――俺の手を引っ張った。やれやれである。


 わざとだろうか? それとも遊んでいるのか? 2人とも体重を掛けて俺を引っ張るので、組体操の『おうぎ』みたいな体勢になってしまう。


 どちらか1人だけなら問題ないが、女子中学生2人に全体重を掛けられるのは、流石さすがにキツイ。


 しかし、同時に綺華の体重も、すっかり元へ戻っているようなので安心した。

 夕陽と同じくらいだろう。


 俺がそんな心配をするのも、以前――ある呪詛師の手によって――『黒曜石こくようせき病』という都市伝説が流れたからだ。


 思春期の少年少女の身体からだむしばみ、黒く変色させるという【呪い】で、ネットで拡散されたことにより、中高生の間で流行はやっていた。


 皮膚ひふが光沢を持つ漆黒の石のようになって、それが身体全体へと広がり、最後にはバラバラに砕け散って死ぬ――やまい


 俺が探偵事務所で最初に関わった事件であり、綺華と知り合うけになった事件でもある。




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 🌸ฅ^•ω•^ฅ🌸 「両手に花」の猫森くん。

 案の定、苦労しているようです。


 思わぬ強敵(人面ゴキブリ)も何とか

 退治し、次回からは回想となります。

 ニャンฅ(>ω< )ฅニャン♪

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