第35話 全裸焼肉大会(2)


 おそらく、人形の起こす事件については、教授も気が付いていたのだろう。

 犬飼いぬかいの話によると、大学のキャンパスで怪我けが人が出ているようだ。


 最初は事故というワケではなく、些細ささいな怪我程度だった。

 しかし、日を追うごとに被害は大きくなったという。


 人のうわさには尾鰭おひれが付く。すべてが怨霊の仕業ではないのかもしれないが、その多くはサークル棟である8号館の周りで起きていた。


 それも、例の雛人形を片付けた日から、頻繁ひんぱんに起きているようなので、状況的にも偶然ではないのだろう。


 げんに気味悪がって、生徒たちは部室へ近づかないようにしているらしい。

 怪奇現象の調査には都合がいいのだが――


(人目が減るのは、怨霊にとっても都合がいいからな……)


 俺はあらためて、犬飼に雛人形のことを聞いてみる。

 気になった点や、他に人形はなかったのか?――そんな問いだ。


 彼は「うーん」と考え込んだ後、


「そういや、お雛様だけで、お内裏だいり様は無かったな……」


 顔の半分は罅割ひびわれてて、着物にげ跡もあった――と告げる。

 なにやら『フランス人形』の怪奇現象と特徴が一致する。


 どうやら、教授は完全に気付いていたようだ。隠し事をしているように見えたのは「フランス人形が生徒たちをおそっている」という事実を知っていたからだろう。


(だから、急いでいたのか……)


 本来なら呪詛師じゅそしなど不審がるモノだが、その様子がなかった。

 最初から怪奇現象で怪我人が出ていることを知っていたのだ。


 そして、原因が自分の部屋にあるフランス人形であることも――


(最初から言ってくれれば、もう少し早く解決したのだが……)


 まあ、信用されていないのだろう。仕方のないことだ。

 俺自身も、すべての呪詛師を信用することは出来なかった。


「ああ、そうそう!」


 そう言って、ポンッと手を打つ犬飼。なにか思い出したようだ。


「焼肉してると『捨てた』と思った人形が、いつの間にか戻ってきたんだ……」


 勘違いかと思って、また捨てたけど――と後頭部をきながら語る。

 お酒も入っていたのだろう。今の今まで忘れていたようだ。


 捨てられた人形が部室へとテレポートして、戻ってきたのだろう。

 本来なら気味悪がられ、怖がられるハズだ。


 だが、戻ってきたハズの場所は『全裸焼肉大会』の会場。

 これでは、どっちが被害者か分からない。


(お気の毒様……)


 ただ、これで最初に聞いていたフランス人形による怪奇現象と、能力は一致する。

 正確にはテレポートではなく『幽世かくりよ』を使って移動したのだろう。


 【呪い】の正体さえ分かれば、それほど脅威きょういではない。

 なにかあった時のために、探偵事務所へは報告しておく。


 俺たちが帰らなかった場合、所長が動いてくれるだろう。

 部室を出る同時に、俺は調査結果と怪奇現象に対しての推測を『呪い屋』へ話す。


 正直、人形に関しては彼女の意見を参考にした方がいい。『呪い屋』は「なるほどね」と言いながら、自分の髪を指でクルクルとする。そして、スグに、


「最近、生徒が怪我をした場所は何処どこ?」


 と彼女は対格差のある犬飼の両肩をつかみ、たずねた。

 【呪い】の力がれていたので、もう芝居をするはめたようだ。


 目がわっている。流石さすがの犬飼も、これにはおどろいたのだろう。

 助けを求めるように俺を見た。仕方なく、俺は溜息をくと、


一旦いったん、落ち着いてください」


 と言って『呪い屋』を犬飼から遠ざけるように引っ張る。

 チッ!――と舌打ちする『呪い屋』。感じが悪い。


 どうやら『全裸焼肉大会』をするような男子は、好みではないらしい。


(いや、人形を雑に扱ったからか?)


 自分はいいが、他人はダメ――といった所だろう。

 俺は「すみません」と謝った後、


「サッカー部のお友達は、どこで怪我をしたんですか?」


 と改めて質問をする。「ああ」と犬飼。

 おどろいていたようで、考えるのに少し時間を要したようだ。


「大学の帰りに、交通事故にあったらしい……」


 学校のそばらしいけど――そんな事を言ってほほを指でく。

 てっきり、キャンパス内の事件かと思ったのだが――


(違うらしい……)


 別の事件について聞くべきかと俺が考えていると、


「事故にう前に『誰かに会った』とか言っていなかった?」


 と『呪い屋』。彼女がびている【呪い】の所為せいだろう。

 すっかりビビッてしまった犬飼は、萎縮いしゅくしつつも、


「ああ、それなら……」


 美少女を見たぜ――と語り出す。フザケているのだろうか?


(殴られても知らないぞ……)


 と俺は思っていたのだが、話を聞いていると、その少女が怨霊らしい。勿論もちろん、犬飼は「その少女があやしいとは」これっぽっちも思っていないようだ。


 話を要約すると――サッカー部がグラウンドで練習をしている時間帯に、8号館にあるルーフバルコニーから、青い服を着た女性がずっと彼らを見ているらしい。


 距離があるので、実際に美少女かは不明だが、サッカー部の誰かのことが好きで「ずっと、こっち見ているんだ」と噂になっていたようだ。


 皆で「オレを見に来てるんだよ!」と喧嘩ケンカしていたそうだ。


(男子って、そういう所がお目出度めでたいよな……)


 交通事故にあったというサッカー部の生徒は、ソレを確かめようとしたらしい。

 犬飼がお見舞いに行った際、


「バルコニーへの階段を上っている所までは記憶にあるんだが――」


 と言っていたそうだ。




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 ฅ(๑*д*๑)ฅ!! すでに被害者が多数⁉

 フランス人形に取りいた災厄は、

 かなり危険なようです。

 『全裸焼肉大会』が雛人形を怒らせ、

 思わぬ結果を招いてしまいました。

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