第20話 祈りの石(1)


 『呪い屋』の素振そぶりに俺は内心であきれつつ、線路の方へと視線を向けた。

 ある一点を凝視ぎょうしするためだ。


 『呪い屋』も俺が視線を向けた先――黒い霧が集まる場所――に気が付いたのか、口をつぐむ。


 本来なら電車が通過したことで、力を失いつつある怨霊の欠片かけらは、線路上にらばるハズだった。後は自然に消滅するのを待つだけだ。


 だが、一箇所いっかしょだけ、黒い霧が消えずに残っている場所がある。

 俺は動こうとした『呪い屋』を手で制し、1人で近づく。


 呪詛師じゅそしと言っても、その能力には個人差がある。

 当然、得意分野も様々だ。


 綺沙冥きさめさんのように【呪い】に関する占いを得意とする者や『呪い屋』のように霊を人形へ封印し、持ち歩くことが可能な者。


 逆に共通する能力としては【呪い】への許容量だろう。

 免疫めんえき力と言いえてもいい。


 同じ【呪い】を受けても平気な人間と、影響を受けやすい人間がいるのはそのためだ。俺が綺華あやかを関わらせたくない理由の1つでもある。


 呪詛師じゅそしとして、俺には特殊な能力がない。

 だが【呪い】への許容量だけは、他の呪詛師と比べても異常なほど大きいらしい。


 普通の呪詛師なら【呪い】と関わるたびに正気を失っていくらしいが――


(今のところ、特に問題はない……)


 猫神の【呪い】を受けても日常生活に支障がないのは、それが理由だろう。本来なら『きつねき』で有名な『けもの憑き』のような状態になっていたのかもしれない。


 まあ、それならそれで、猫好きの綺華は喜びそうな気もする。

 通常なら事件の後は1週間程度、休みを取るモノだが、俺にはその必要がない。


 ただ【呪い】に関する事件がそうそうあるワケではないので、自然と休みを取る結果になってしまうのが、この業界でもある。


 『呪い屋』の【呪い】に対する許容量は、呪詛師にしては小さい方だ。

 無理に近づく必要はない。


 茶々も異変に気が付いたのか「シャー」と威嚇いかくをした。

 しかし、流石さすがに『第3の怨霊がいた』という落ちではない。


 俺は原因を目視で確認した後、立ち止まると振り返って『呪い屋』たちへ「問題ない!」とげる。


 念のため、右手のみに軍手をめつつ、電車が来ていない事を確認した。


 線路の下や、その周辺にある石は――通常は『バラスト』と呼ばれるモノで――電車の重さを支える役割を担っている。


 船の脚荷あしに気球ききゅうの砂袋など、乗り物を安定させるモノを『バラスト』と呼ぶので、単語くらいは聞いたことがあるだろう。


 地下鉄などでは、コンクリートにレールが付いているタイプが多いようだ。

 地上のバラストと違って摩耗まもうしたり、土砂が混ざったりする事もない。


 そのため「メンテナンスの手間が少なくて済む」という利点がある。

 ただ、費用に関しては、バラストを使った方が安い。


 加えて、バラストを使った方が騒音と振動を小さくする効果も高く、科学技術が進んだ今でも、昔と同じように使われ続けているようだ。


 場所によっては、騒音と振動をおさえる必要がある。その場合は『バラスト道床』を使うか、『コンクリート道床』にえてバラストを置くこともあった。


 また、高架化工事では『弾性バラスト軌道』が原則採用されているようだ。

 低コスト、低騒音、低振動、メンテナンスフリーらしい。


 今、目の前にある線路の場合、使われているバラストは2~6センチほどの大きさモノが基準のようだ。


 一般的に「火山岩の岩盤を切り出した砕石が使われる」と聞く。

 だが、明らかに違う石が混ざっていた。光沢がある。


(丸い水晶か?)


 まぎれ込んだ――というよりは、誰かがてたモノだろう。

 種類からいって、パワーストーンの一種のようだ。


 こういうのは女性の方が詳しいかもしれない。

 確か、石の種類によって、得られる効果が異なるハズだ。


 近くで見ると青味掛かった灰色のため、周囲のバラストと比べても、特に気にはならない。


 最初は軍手を嵌めた手で拾おうと思っていたのだが、先に綺沙冥さんに聞いた方が良さそうだ。


 なんの石か教えて欲しいむねを簡潔に書き、スマホで写真を撮って送信する。

 スグに返信が来るとは期待していなかったが、思いの他、早く返信がきた。


 1分も掛かっていない。今日は暑いので「エアコンのある部屋で丁度、PCの操作していた」と推測できる。


 占い師といっても、個人情報のあつかいや占いに関する勉強、データの集計やホームページの更新をする必要がある。


 占いは超能力やスピリチュアルではなく『統計学』が基本だ。

 技術的にはIT関連と相性がいい。


 仕事や金運、恋愛などに関する占いのアプリは、大抵の人間なら好きだろう。

 綺沙冥さんからはURLが送られてきたので、俺はそれを確認する。


「『エンジェライト』……」


 それが、この石の名前のようだ。

 『思いりの石』や『いやしの石』として、有名らしい。


 慈愛じあいの心をはぐくみたい場合、後悔や自責の念を解消したい場合などに身に付けるといいようだ。


(なるほど……)


 あの怨霊が『子供を失った母親の霊』と仮定するのなら、相性は良さそうだ。

 また、パワーストーンには『石酔い』と呼ばれる現象がある。


 石が持つ強いエネルギーに感受性の高い人などが過剰に反応し、体調不良や不快感を覚える現象だ。その辺は【呪い】と性質は近いのかもしれない。


(だとするなら、俺には関係なさそうだが……)




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 ฅ(๑*д*๑)ฅ!! 今回の事件の原因は、

 パワーストーン? 猫に小判です。

 分からない事は詳しい人に聞きましょう。

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 ※明日からは、また投稿時間を変更します。

  19時頃の予定です。

  🐟 🐟 🐟 ฅ(^ω^ฅ) ニャ~ ᗦ↞◃

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