第19話 おんどりゃっ!(2)


 俺と茶々ちゃちゃが怨霊の欠片かけらを始末している中「回収するよ」と『呪い屋』。

 いつの間にか、踏切内へと入ってきていたようだ。


 果南かなんちゃんは心配そうに踏切の外で待っている。

 まあ、電車が来ると危ないので、その方がいいだろう。


 しばらくは、この踏切に怨霊が出ることもない。『呪い屋』は茶々へ「ご苦労様♪」とねぎらいの言葉を掛けた後、踏切の中央へ向かって真っ直ぐに歩く。


(俺に労いの言葉は無いのか?)


 そして、引っり返ったまま――手の平を上に向け――動けずにいる子供の霊をつまみ上げた。同時に、用意していた可愛らしいうさぎのヌイグルミの中へ、霊を押し込む。


 商品の完成である。

 『呪い屋』の商売――それは霊の売り買いだ。


 彼女の場合、基本的に霊を捕まえては、それを人形の中へと詰めて売りさばく。

 あまりめられた事ではない。


 俺が彼女を「さん付け」で呼びたくない理由でもあった。

 出来る事ならめさせたいのだが――


(残念ながら……)


 『霊を売り買いしてはいけない』という法律がないのも事実だ。

 また、霊を欲しがる連中もいる。


 すべての霊を除霊していては、自分たちで『新たに怨霊を作り出そう』とするやからも出てくるだろう。


 人間社会の秩序ちつじょを保つためには、ある程度、霊を流通させる必要があった。

 人間社会の不思議な所である。


 一見、正しいと思える事でも、どこかに皺寄しわよせがいく。

 極端な例をげるのなら、勉強ができる、スポーツができる、そんな人間の裏には『できないヤツがいる』という事だ。


 グローバルな視点からすると、日本の教育は「クラスの全員が同じレベルになるよう、指導するのが特徴だ」といえるだろう。


 そんな中、成績が悪かったとしても、義務教育では留年することもない。

 各家庭の経済状況や個人の向き不向きに関係なく、義務教育を修了できる――


(と言えば聞こえはいいが……)


 『落ちこぼれ』を作り出す教育スタイルともいえた。

 同じ教育を受け、平等に機会を与えられているのに出来ない。


 結果、自己責任の言葉で片付けられてしまう。

 俺としても、すべての人間が正しく成長できるとは考えていない。


 だが、今の時代の日本人はどうにも、他者を感情で攻撃し、人格を否定する傾向が強いように思う。


 大切なのは失敗に対し「どう気付きを与えるのか」ではないだろうか?

 そんな教育を受け、大人になった日本のサラリーマンは、仕事を苦痛に感じ、職場に不満を抱きながらも、それを肯定しつつ働くという。


 どうやら、自分たちの受けた『苦痛』や『不自由な働き方』を次の世代にも伝えたいらしい。


 「成長を実感できる仕事がしたい」などという若者の主張は、受け入れられないのが現実だ。世界は呪詛師じゅそしなどいなくても――


(【呪い】に満ちている……)


 呪詛師の組合としては、正規のルートを確保することで『呪詛師を管理することにもつながる』と考えているようだ。正式な商売として許容されていた。


 仮に禁止した場合、不正なルートで霊を入手するしか方法はなくなるため、日本全土に混乱を及ぼすのは目に見えている。


 また、犯罪者としてのレッテル張られる以上、霊を扱う呪詛師の立場が弱くなることも明白だ。呪詛師を守るためにも『呪い屋』のような仕事は必要だった。


 それに法律で禁止できないため、霊の売買が裏の組織など、巨悪の資金源になることは目に見えていた。


 危険度の少ない霊を確保しつつ流通させることは、治安維持の観点からも大切なことである。


(納得できるのかは別として……)


 すでに霊の買い手が決まっているのか『呪い屋』はルンルン気分だ。

 霊の入っているヌイグルミをクルンクルンと回す。


 首の後ろにひもが付いていて、指に引っ掛けられていた。

 あまり雑にあつかわないでやって欲しいのだが――


(俺が言えた義理でもないか……)


 虐待ぎゃくたいという意味では、俺の方がひどいことをしている。浄化能力があれば、こんな事に加担しなくても済むのだが、今は他の方法を知らない。


 俺の除霊は霊を散らしているだけだ。

 今回のように殴るなどの衝撃を加え、霊を黒い霧へと変える。


 弱体化させることで「いずれは消えて無くなる」というワケだ。

 だから、完全に消滅させたワケではない。


 カンカンカンカン――と警報機がなる。どうやら、電車が来たらしい。

 俺は茶々を抱えると、踏切から出る。


 もう、頭の上に乗る必要はないだろうから、果南ちゃんへ茶々を返した。

 暑い中、逃げないようにしっかりと茶々を抱き締める彼女に、


「ミャーオ♪」(ただいま♪)


 と茶々。「悪いヤツはお姉ちゃんがやっつけたから、もう安心よ!」と得意気な表情をする。だが、次の瞬間――初めて見たのだろうか?――来た電車におどろいていた。


 どうにもまらない所が猫っぽい。


 「ミャ、ミャー」(ビックリした、早く帰りましょう)


 茶々の言う通り、本来なら、そうしたい所なのだが、


「ちょっと待ってくれ」


 と俺は2人と1匹に待ってもらう。『呪い屋』としては目的も果たしている。

 暑いので「早く帰るぞ」とでも言いたいのだろう。


 果南ちゃんたちはいいが――


(俺たちは原因を突き止める必要があるだろうに……)




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 ฅ(^ •ω•*^ฅ♡ニャー 無事、怨霊を退治し、

 果南ちゃんのもとへ戻った茶々。

 事件は解決したかに思えましたが、

 もう少しだけ続くようです。

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