猫森くんのネコ助け~好奇心は猫をも殺す?

神霊刃シン

好奇心は猫をも殺す

プロローグ

第1話 ネコ助けな日々


 人を殺してもつみにはならず、それゆえさばかれない商売がある。

 その一つが『呪詛じゅそ師』だ。


 当たり前の話だが、日本の法律では呪詛による殺人は不可能とされ、処罰しょばつされる事はない。【呪い】など、誰も証明できないからである。


 そのため「バレた」としても「頭の奇怪おかしい人」と思われ――


(病院へ行くことになるのがせきの山だろう……)


 勿論もちろん、人間や動物を生贄いけにえに使えばばっせられるが、それは「呪詛を使ったから」という理由で逮捕されるワケではない。


 呪詛自体は神仏などに祈願して、超常の力によって人を呪うことだ。

 本来は『悪霊』や『怪異』を対象と見做みなして使用する。


 それらを「めっする行為こうい」であり、所謂いわゆる調伏ちょうぶく】と呼ばれるモノだ。

 だが、その方法は昔から殺人にも利用されてきた。


 対象へ『死にいたのろい』を掛けるのだが、この場合は【呪殺】と呼んだ方がイメージしやすいかもしれない。


(精神的な苦痛を与える霊的な手段……)


 といった所だろうか? 人によっては『善意の殺人』などと呼ぶこともあるが、結局「殺し」は「殺し」である。


 『人を呪わば穴二つ』という言葉もある通り、ノーリスクとワケにはいかないようだ。俺――『猫森ねこもり甘五あまい』――のご先祖様は、そんな商売を生業なりわいとしていた。


(まあ、その事実を知ったのは……)


 数日前の話である。けは、俺がとある【呪い】を受けてしまった事に起因きいんした。特に前触まえぶれもなく『猫神ねこがみ』と名乗る存在が夢に現れたのだ。


 『夢枕ゆめまくらに立つ』というヤツだろう。夢でお告げがあった。その『猫神』が言うには、俺は『猫神の娘』とやらと結婚しなければならないそうだ。


 具体的には、本家にる三姉妹。そのいずれかと婚姻こんいんむすばなければ、俺は死ぬらしい。三姉妹とは「年も近い」という事で「丁度いい」と判断したようだ。


 にわかには信じがたい話なのだが――


(【呪い】の力が本物である事は確認した……)


 これは両親も知らなかった事なのだが、俺の家は代々呪詛師であり、その分家らしい。仕事の内容が呪詛師なだけあって、伝わっていなかったようだ。


 また、肝心かんじんの本家とは長い間、連絡を取ってはいなかったので断絶状態である。

 一般的なサラリーマンの家庭となった今の状況からすると『寝耳ねみみに水』の話だ。


 また、俺に【呪い】を掛けた犯人である『猫神』は、本家を守護する存在らしい。

 呪詛師という仕事から考えるに「婿むこは誰でもいい」というワケではないのだろう。


 おそらく「呪詛師としての素養も関係する」と考えられる。


(このご時世、跡継あとつぎ問題はどこも深刻なようだ……)


 くして、俺は『猫の言葉が分かる』という奇妙な【呪い】を受けてしまった。

 猫好きにとっては嬉しい状況なのかもしれないが、俺はそこまで猫が好きではない。


 どこからかうわさぎ付けた猫たちがトラブルをもってくるので「それを解決しなければいけない」そんな状況である。


 いったい『猫神』がなにを考えて、こんな【呪い】を選んだのかは分からないが――


(勝手に変な【呪い】を掛けないで欲しい……)


 ご丁寧ていねいに「101匹の猫を救えば【呪い】は解呪される」という事まで教えてくれた。


 俺が成人するまで――と期間は限られているが「今すぐ死ぬ!」といったたぐいの【呪い】ではないため、自分のペースで対処していく予定だ。


 ただ、そのためにも【呪い】のことをよく知る必要がある。俺は本家の伝手つてを頼り――呪詛師について――組合が行っている2週間の講習を受けた。


 そして、今はさらなる勉強のために『研修バイト』という名の「実地訓練を受ける事にした」というワケである。


 呪詛師にも資格があり、取得するには研修が必要なようだ。

 その研修が終われば、俺も晴れて呪詛師になれる。


 まあ、別に呪詛師になりたいワケではなく――


(お金が欲しい!)


 というのが理由の大半をめていた。高校生にもなると、色々と物入りなのだ。

 確かに危険をともなう仕事でもあるが、本物ホンモノの呪詛師は数が限られている。


 そのため、俺みたいな学生であっても、その存在は貴重らしい。

 危険手当込みのようだが、普通のバイトよりも実入りが良かった。


(まあ「ちょっとした好奇心」というのもあるが……)


 若さゆえの「怖いモノ見たさ」というヤツだ。

 親には「自衛じえいのため」と言ってせた。


 君子くんしあやうきに近寄ちかよらず――普段の俺なら警戒して、自分から、わざわざ危険な物事には関わらないようにするのだが、不思議と楽観視していた。


 【呪い】を受けた事によって「れた」と考えるのが、理由としてはしっくりとくる。また、講習で呪詛のことを色々と知ったからだろう。


 【呪い】を解くのが一番の目的ではあるが、解けなかった時のことを考え「経験を積むのは悪い選択肢ではない」と考えるようにもなった。


 季節は春の初め。まだ寒さが残る中、梅の花が咲いている。


(晴れているのか、曇っているのか……)


 微妙びみょうな寒空の下、俺は駅の近くにあるオフィスビルの前で立ち止まった。そして、


「『迷宮館めいきゅうかん探偵事務所』……」


 フロア案内版に書かれている文字を読み上げる。

 事件が迷宮入りしそうな名前だが――


(どうやら、ここで間違いないようだな……)


 バイト先もとい研修先だ。勿論もちろん、普通の探偵業も営んでいるが【呪い】に関係する仕事も引き受けている。


 そのため「本物の呪詛師が必要」というワケだ。【呪い】に関わる仕事なので、如何いかにもそれっぽい場所かと思っていたが――


いたって普通のオフィスビルだな……)


 テナントビルのようで、他にも色々な会社が入っている。

 1階にはカフェもあり、ここへ来るまでの途中、コンビニもいくつか確認できた。


 利便性は悪くないようだ。エレベーターがあったのだが、事務所は2階である。

 俺は階段で上ることにした。


 着いた先は白を基調とした清潔感のあるフロア。

 やはり呪詛師とは、これっぽっちも結び付かない。


 表向きは普通の探偵事務所なのだから当然といえば、当然なのだろう。緊張きんちょうやわらげるため、軽く深呼吸をした後、俺は受付に置かれた内線用の固定電話を取る。


 ここから、俺の『猫助けな日々』が始まるのだった。




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【作者からのお願い】(,,ΦωΦ,,)

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