「盲点。」~10代から20代に書いた詩
天川裕司
「盲点。」~10代から20代に書いた詩
「盲点。」
日々が遅れていた―――――憂鬱な日々が続いた。―――――――――――
――すぐ暗くなるような景色の中、大型のトラックが一台近づいてきた。それに、あの人が乗っていた。気分良くか、何か計算してか、割と意味深気に運転している。整備に出したクルマはまだ助手の様な人がガソリンスタンドで点検していた。請求書を貰って、少し困っている。とてもイカれているクルマらしい。変装している風に見え勝ちだがいつもの通り、これでなかなかぬけ目なくあちこち動き回っている。きれいな服を着ている別人が、斜めの太めのストライプの入っているタイをしめて、大勢の報道人に囲まれて目的の地に行こうとしている。ソファに掛けて、それが彼のブラウンのスーツに似合っている。変テコな足(すね)の持ち主の変装者は、どうも他所から来た風情をかもし出して、怖い雰囲気がある。――この者の前では、誰でも折れてしまう、そのきれいな服を着た人は、その変装者の雰囲気には合わないと見える。爽やかな雰囲気も、すべてが、裏目に出てゆく。きれいな服を着た人の目は、あのさえずっている小鳥が憎そうに見える。どこまで行っても、人間の内から出た欲望の行き先は見えず、一人で、クルマで走り続けるあの人は、太陽を見ながら、一つの疑問を思った。人間は個人的なものと、深刻な顔をして他人を無視して、我の世界の中に埋没してゆく。その行き先が、どういう結末かも定かではないままに。時間が問題ではなかった。人は一生をかけて善を行おうとするが、世に言う犯罪は一瞬で終わらせてしまう。人と人との触れ合いの、その時に交わす笑顔が、とてもかなしく見える。人の背後によく回る盲点が、人の内から出た欲望の一点が元になり引き金になっているという真実(コト)を知ってほしいと、あの人は言っていた。―――――――
「常識にて。」
この部屋のものも、何でも、目に見えるもの。自分で勝手に名前を決めてしまおうか。たとえば、この黒い形のテレビの前においてある四角張ったもの。リモコンをラジコンという。笑いながら、窓の外を指さした先には、すずめが一匹飛んでゆく。嫌になっちゃう……。
「かき方。」
責めるような文をかけ。何度も々言うが、それしかない。人目を引きたいのなら道徳をうち壊すような文章をかくのだ。秘書が居れば尚更良い。口で言ってかいてくれれば、もの忘れの非道い奴にも多少効き目があるのだろうに。
「ポテンシャル。」
潜在能力など”ない”と考えていい。使おうと思っては使えないのだから。それは能力などではない。偶然だ。
「無題。」
悪を見てしまうと、自分の中の悪が出てくる。その先に破壊があることくらいはわかる。限度をこえると何でも良くないのだ。でも人間(ひと)は欲故に競い合う。自分の存在が勝たねばなかなか気がすまないのだ。女は男と違ってこの世を楽しめるように化粧品と服が揃っているから存在などにこだわる必要はない。だが、“中身だ.”と言っている男は、その刺激あるものを見ると、その向上欲をあおり立てられれば、それ以上の自分の存在を欲しがるもの。例えば私がそれだ。そして私は人間である。
「孤独破壊。」
楽しいな、楽しいな、今は一人だけど、一人でベッドの上で世間から隠れてこのノートに思ったこと書きなぐってるんだ。誰にも見つからない。誰からも文句を言われない。私一人の世界だ。クーラーをつけて、部屋の灯は消して、ベッドの灯だけつける。これだけで充分。楽しく白紙に字は書けるさ。ルーズに生きたいものだ、ルーズなりにも、“きちっ”とした生活、人間いつかは消えてなくなる。この地上はそれまでの舞台だ。ただ神がいるっていうのが誰かれ少しは気がかりなもので。それでもたった一度きりの人生。自分だけのものだ。消えてなくなるまで、あいつと共に生きよう。
「苦悶答。」
神よ、何故に人間(ひと)に怯えねばならぬのか。何故に言い返してはならぬのか。何故にし返してはならぬのか。何故に臆病者には恐怖がつきまとうのか。何故に、汚いと思う悪を好んでしまうのか。何故に、この世は悪が栄える悪い時代なのか。私が思うこの世での本音、生きていくために仕方ない。頭の良さの他に、言い返す勇気と汚なさがいるのだ。殺される前に殺す正当防衛がいるのだ。でなければ自分の身を守ることはできない。いつも眠たげな眼をしていなければならない。死んだ不良のあの人が、どこへ行ったか、なんて、天国に行ったと言いたいもの。必然的な生き方は、正直物の生き方。そこに嘘はない。その本質を見抜いておいて何故に“しかえしは私がする.”と神は言うのか。ただ今も、ヤクザと名乗る者があの家族の家のドアを蹴破って入っていったのに。そこには病弱の父親と、健康な母親と、今年2歳になる女の子がいた。
「歴史の人。」
我は芥川よりも先に、その言葉を言った。なぜなら、我も、人間だからだ。
「Independence.」
どこまで行けば物語と夢話は接するのか。今にもいけそう、いけそう、ってなカンジで全然一緒にならない。それならば夢とは夢遊病だけにすぎない。この世には悪がいる。その事実がかわらない以上、夢を口にしていても、いずれはその毒牙にかかる。ないものねだりの人間だ。それをくり返し、くり返し、くり返していくに違いない。
「論談。」
僕の部屋には魔力があるのさ。何でもなくなるんだ。そういう魔力がある。
物語を信じるか信じないか、この世間では夢に浸ってるだけでは生きていけない。
見なくていいものは観なくていい。….そんな理屈が人間に通用するか。アダムとエバの頃から、そ うなのだ。
無欲になるのは欲に溺れたあとだ。
あんな奴等と話すことはない。どうせ下らん連中だ。
夜の議論はごらくだ。解決はないのだから。
人は人を救えない。神が人をつかわして救うのだ。
人の思うことはどこから来るのか。悪いこと、善いこと、どちらも神からくるのか。善いことは神、悪いことは人間、そういう不幸だ。僕は自分を救えるのか。
無欲。両者、何故男といて楽しい、何故女といて楽しいんだ?
一人でどこまでやれるか、僕の人生の“テーマ”はそれだ。そこに生きてゆく活力がある。 あいつ はあそこまでやったんだ。
人は誰も楽しくて陽気な人と話すのを好む。でも僕はずっとその楽しい人ではいられない。
ずっと灰色の目で世界を見てきた。だからあの人が着てる服が何色かがわからない。
人間は最強の肉食動物だ。
細かく言えば、生気に満ちてる時は、少し神から離れてるように思える時だ。ただその真偽はわからな い。
あいつに間違われ、あの子に間違われ、ついには君にまで間違われるのか。
「無緑思想。」
目もあけられない程の美人が、しょうじをあけて私がひとりでいる部屋に入ってきた。それは映画でもなくて、またもや現実だった。情に流されることが怖くて、目をつむった。一言、“出ていけ”と告げ、飲めないアルコールを腹に入れた。
時間の中で、生きていくのは、たえず人を気づかうこと。誰かの期待をうらぎることが怖くて、ひとりきりの臆病がたえまなくつきまとう。私はひとりの思い込みにまかせてしょうじの外を見た。恥知らずの世の中がまだ流れる。いい格好ばかりする人間の中で、その人間を殺したくなるのは必然かもしれない。男・女・子供、それが煩しいと思った私はこの世のいきおいにおされ、この世を恨む。どんな奴の殺人も、煩しい。まったくもって厄介な世の中だ。一時、“素直”という救いに身をまかせてもそれが一瞬だということに気づく。
女は美人なれども、醜くかれども、生きなければならない。生きることがどういうことか、人間は自分で決めてしまったようだ。生まれることがどういうことか、親が本来子供を思うことに近いと、ひとりになった時に思う。幸せなドラマを見たすぐあとで、この現実の流れに入るのは至難の技だ。
友達にはまだ流行でも通用するように、笑顔でふりまき、その気持ちとひとりの時の気持ちとに板ばさみ。自分を殺したい、と思う。神様にその自分を見せて、また現実との差に、自分を置く。永遠の幸福などはこの世にはなくなった。いつになればその幸福はもう一度めばえるのか。
もはや正しく生きることが、自分だけではできなくなった。それでも一人で生きなければならない自分が、この短い人生故に悲しい。ただ、この世にあった永遠の幸福を、奪ったのは神である。神の下に人間がいる。その人間が堕落したのは人間のせいだ。目の前にある5体満足の恵みが、これ程の恵みだとも気づかないまま、持ち前の臆病さがこの世の勢に負ける。
行きすぎた臆病は人を殺す勇気を生む。人を好きなる感情が自分に無駄なことは何度も言いきかせた。けれど、親の手前、幸福を自らひとつなくすのは、胸が痛む。人の心がわかるというのはどういうことか。
欲望を目のかたきにして自分を思う。この世がどうあろうと、何といおうと、私は私の生き方をかえない、それしかないのだ。私はその部屋のしょうじを開けて、部屋を出ていきながら精一杯の親孝行をしてゆこうと、決心した。
ひとり残された筈のその部屋には、白い花があり、さっきまで座っていた座布団にぬくもりが残っていた。しょうじは開いたままだった。
「盲点。」~10代から20代に書いた詩 天川裕司 @tenkawayuji
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