「RONIN.」~10代から20代に書いた詩
天川裕司
「RONIN.」~10代から20代に書いた詩
「ヒロイン。」
あの女(ひと)を、憧れの素材から他人に見るまで、余程、時間がかかった。始めから、自分の傍らには居ない人だとささやくまで。(又)悲劇のヒロイン役をかって出たあの女(ひと)が、懐しい。
「妙才。」
私は今、浮遊の中に居る。決して、居心地の良いものじゃない。世間に出てゆく、私の輝彩が眼に余ったのか、まるで、自分と、世間の間に、自分が居るようである。だから、何を言っているのかもわからない。
「オニキス¥」
自分のかいたものを信じろ。どんなに腐気なものでも、己の才を信じるならば。
「オニキス。」
言葉っていうものは、どれにしようか選んでかくものじゃない。怒りや、感情のように自然に湧き上がってくるものだ。
「マリンスノー。」
プランクトンの死骸が、海中で流れにまぎれ、上から下へとゆっくり落ちてゆくものである。見た目はきれいで、つい、スキューバーダイビングなどしていると見とれてしまう程である。しかし、その裏には、かこくなまでの食物連鎖がきちんと成立していて、その死骸をサンゴや、次に大きい生物が食べ尽してゆくのである。どうしてもどこへ行っても食物連鎖というものが成り立っており、それが元で、厳しい生物の世界というものを考えなくては居れないものだ。
「花。」
花が店を出す…。
「頚椎損傷。」
“気持ちの問題だ.”とその人は勘違い、道徳を失った。生きる上で最も大切な人間との間の常識である。それを失くしたその人は、見るもの全てが敵に見え始めた。ろうやを夢で見、現実で心のろうやにとらわれた。自分で閉じこめた心の中の自分は、生きている心地がしなかった。その人の年齢はまだ若く、親もいた。これから、って時にその人は親から夢を奪ったようなものだった。“生きてさえいれば、”その思いは、両親でさえ、その人の暴君ぶりに疲れを覚え、忘れてしまいそうな程であった。それでも時間が過ぎれば、また、“生きてさえいれば.”と思い返していた。ベテランのドクターにその人の身をまかせてみても、“今の医学では….”と言い返され、途方に暮れる日々である。その家族は、宗教にすがりつき、泣く思いで、神様にその不条理への悲痛さをぶつけた。“苦しい時の神だのみ...”とはよく承知の上での本音である。子供を思うその親は毎晩祈っていた。だがその状態は変わらないで、日々は過ぎていった。その人はそんな状態になる前まで、親の幸せを思い続けていた。その思い方の“ずれ”が引きおこした結果が、その状態の様だった。若くても突然なるものなのだ。そして、願うものが“奇跡”という運命。かわり果てたその人の人格は、その親にとっては、昔の子供(その人)とかわらなかった。その親は、この子供(その人)が生まれて生きている苦しまぎれのこの意味が、どういう意味なのか、神様に問い続けていた。
「からかい。」
からかいからかわれて、野イタチは村の畑から大根を盗んだまま、どこか森の奥へときえてしまった。しかし、それをからかいだと甘く見た野イタチは又、すぐに元気さを取り戻して、その短い前足をヒョコと草陰から出した。行ける、と思った野イタチはそのまま飛び出たが、そこには村のりょうしが鉄砲をかまえていて、野イタチは簡単に打たれて死んでしまった。からかいを甘く見た故だった。
「チェス。」
人が見て、「良い文章だ」なんていわれる文章はかけないでいい。そんなのお前にかけるわけはない。もっと違うことを考えろ。どうしたら、辞められるかを。
チェスをして賭けに勝った。黒と白で白の勝ち。黒はそそくさとどこかの町へ帰って行った。お金はゴールドで、英国のものだった。その白の着ているものは白のガウンに白のタイ。白のブーツに白のシルクハット。黒い奴は、どこか行ったから、皆に忘れられた。結局、皆、白の勝利しか見ることをせぬのだ。否、きっと、それしかできないのであろう。白はうれしさ余って飲めぬ酒を呑んでしまって、そのまま、前に来たよくしゃべる男の相手をしていて、酸欠のようになって倒れて死んだ。結局、この白には、何も出来るものがなかったのだ。この白に、才能なし。
「逆説論。」
道徳の逆説は、通るものであろうか。
「地。」
馬鹿があつまる場所である。自由を装った個々のゆめが、そこにもえている。
「RONIN.」
すべからく、仕える者は誰も居ない。仕えるのは唯一、この頼りのない己の信念だ。しかし、そんななりのような奴にも孤独が訪れてくる。そんな時、頼りにするのが他の人だ。誰か、仲間が居らぬか、本気で探すのだ。この命がつづく限り、健康が気になって、不安で、夜道もまともに一人では歩けない。馬鹿じみた靴の音が、暗い路地でこだましている。新しいもの好きなら、新しいもの好きで居ればいい。我は違う。我と共に居る者は皆仲間であって、実は一人一人、別々なのだ。他人なのだ。そんな都合の良い仲間がどこに居る。だから、自ら命を絶てば良い。それで事は全て丸く収まる。生きていてはいけないのだ。その者(ちり)の志気が皆にもうつってしまう。邪魔なのだ。となれば喧嘩になってしまい、言い争って、血を見ることにもなってしまう。果てれば良い。始めから、そういう輩は、そういう輩なのだ。今更、言うこともない。早く、立ち去れ。
そんなRONINも結局、心の奥底で、神様の事を想っている。自分の本当に仕えるものは神様だと、今のこの世の人間を見て、そう思っている。心に決めたことは、そう簡単に変わりはしない。人間は何かれ移ろいやすいものだ。朝に言った事が、夜にはもうまちがっている。何も信用などできはしまい。言葉では、ないものまで、力説して言えるのだ。そんなの本当にあるわけない。馬鹿も程々、休み々にしろ。そう、もう誰の言うことも信用できない時に、自分は、又都合が良いのか、神様の事を親身に考える。身近に考えることで、自分に安らぎを得ようと、唯、神様を利用しているのだ。信仰も何もあったものじゃない。しかし、それが人間の信仰だと、この男はどこかで既に聞いている。当分はこれで行くだろう。何が起きても、私には神様がついていると、強気になって、強盗、悪魔から勝利を得ることも出来ると、タカをくくっている。けれど甘い。そんな事で、世の中渡って行けると思ったら大間違いである。ここは人間の世界である。たとえ奇跡が起っても、一瞬で忘れ去られるのだろう。そんな世の中では、正に、ここが地獄と呼ぶにふさわしくはないか、という文句が甦ってくるというものだ。神様の姿形が萎えてしまう。我の信心とは、結局、この様なものだったのかと、又自分を悲観する。どうしようもない。心の奥底で、それでも神様の恩恵を狙っている輩がごろごろといる。そんな世の中で生きてゆくのは大変だ。もしかしたら、悪魔の側につかねばならないかもしれない。しかし我は嫌だ。それでも、たとえ、このちっぽけな存在がこの世からきえようとも、神に見捨てられるのだけは嫌だと、臆病をふりまいている奴がいるかも知れない。それはそれで唯、正直である。人は神にもなれなくて、そして悪にもなれないのである。人間は唯一人間。どっちつかずのRONINのような存在でいるしかない。そんなちゃちなRONINの胃袋でも、食うたものはちゃんと栄養になって、その体をつくり上げてゆく、成長は止まらない。止まればおもしろいのだが、老いても老いても栄養の補給で、何とか寿命を伸ばし、長々と行き続ける。80、90歳まで。この世で、RONINと呼ばれている人種はかなしい存在だ。
誰からも相手にして貰える者ではなく、誰とも話す口を持ってはいけないのだから。口はあっても、言葉はしゃべるなと、こんな当たり前の事を、このRONIN達は、まだかなしがっている。自分の身分をわきまえなければならない。今までさんざ、自分は“RONINだ”とうれし恥ずかし言い回ってきているのだから。今更、人生の栄養の補給は許されない。とり返しのつかないことをしたのなら、それ分の労苦は費さねばならない。RONINなどと言っても、何の成功もないのだから。
“人は無関心な腹の立つ顔をしておれのまわりに居やがる。これじゃあ、青白い海の海岸ロードを何もかも、雰囲気が台なしだ。野望の果てに、とんでもない落とし穴がついてきたものだ。”そう思ったから、ふところからピストルを出して、腰から刀をぬいて、腹の立つその顔を持った体を真二つに切り裂いた。自分の空しさに気がついて、又、神様からの恩恵の有無も不安になった。どうしようもない輩である。あの空飛ぶとんぼの命にも満たないお前の命だ。どこにでも行ってしまえ。何故、人を殺す。そんな事をしてもまちがいなのに、それにも気づかないなんてよっぽどの大マヌケだ。
どこにでも居るものじゃない。こんな大マヌケはどこに出たって珍しいさ。青空から大地に落ちて大地から青空へ帰って行った。見えなくなったRONINは、おれに途方もない空しさを刻み込んでからどこか遠くにきえて行った。そのRONINはおれには結局、何にも与えてくれなかった。唯、時をむだに過した、その無意味さだけが、心の底に残った。何度も思った事がこれだった。
人がRONINであることは当たり前で、その貧しさから脱け出すことも出来ぬのが当たり前で、長々生きるのが当たり前である。唯一、ひらめきがあったなら、人はそれに身を隠すかも知れない。自分の身だけは安全だと図って。どこまで行っても闇夜の果てなら、せめてゆっくり歩いて闇夜の果てに埋もれて行こうではないか。夜が明ける。又、怖い一日の始まりだ。
人前に出れない。悲しさで一杯の涙に、今日一日の日が濁って見える。どこまで行けば終るのか。ふとそれを考えた時、とてつもない恐ろしさが心身をよぎった。その時、RONINは“RONIN”で在り得るか、未来はない筈なのだが究極の選択である。人はまちがいなく、恐怖するだろう。自分がどこまで行ってもRONINというフィールドから脱け出されず、他のものには成り得ずRONINで在り続けなければならないその運命を知ってしまえば。人間にとっての“RONIN”というものは、そういうものなのである。二つとしてない人生の要。
「RONIN.」~10代から20代に書いた詩 天川裕司 @tenkawayuji
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